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夫婦という言葉の弊害


バタバタと足音がする。
護身用にと持たされたクレイモアと小さめの拳銃(それでも重い)の取り付けた場所を触った。
今現在、ハートの海賊団は物資を得る為に海賊へ攻撃を仕掛けて略奪行為をしている。
七武海になるとやってきたり挑んでくる同業者が居なくて、こうしてこちらから襲わなくては相手は逃げるらしい。
シャチに聞かされた。
シャチは屋敷に居た時と何も変わらず能天気で少し抜けている男性である。
隠密行動に長けている訳でもなく、ドヘタであった。
ペンギンはそこそこ隠密出来ていたが、慣れない事をしていたのだろうから穴抜け状態だ。
ローにそれを後から指摘して上げたら「勉強だと思って肝に命じさせとく」と言った。
その前にスパイを送ってごめんなさいはどこいった!
まだ謝罪を聞いていないぞ。
回想をしていたら船長室の扉がガチャガチャと煩い。
ローが出て行く前に鍵を掛けておけと言っていたので掛けておいたが、どうやら敵のお出ましのようだ。
隣にある魚取り網をスタンバイして扉が嫌な音を立てて亀裂を入れて壊れていく様を見る。
この部屋はローの部屋なので当分は寒々しい事になるなと他人事に思う。
というか、とっとと麦藁海賊団と会わせろと直談判しているのに聞く耳を持たない。
言ったらその後に寝室に連れて行かれるし、嫌な思いしかしないので最近は偶に言うだけに留めていた。
しかし、そろそろローがパンクハザードに行く日も近い。
付いて行けば漏れなく会えるのは理解している。

「此処、すげェ厳重だぜ?お宝があるかもしんねェな!」

「おっし、体当たりかませ!」

頭脳が筋肉の会話が聞こえてきた。
この船には沢山部屋があるから此処が船長室だと分からないのは仕方ないとして、船から宝を持ち出してバレずに自船に帰れるかとなれば難しい。
それに、ローが貰うと踏んで襲った船の相手だ、壊滅一直線だろう。
ついに、扉が破壊された。



部屋に帰ってきたローは自分の部屋の異質さに驚いていた。
何がどうなっているのだと椅子に座っていたリーシャに問いかけてくる。
そんなの見れば分かるだろうと眉を顰めたくなるのを抑えて捕らえたのだと簡潔に言う。

「本当に、お前、貴族の中で育ったのか?」

「だから……はァ……それを教える義理はないって言ってますでしょう?」

一々聞かれるのがとても面倒だ。

「大体ねえ、私を頭の悪い性格最悪な令嬢だから結婚してもどうせとか思って私を選んだんでしょうがあ、そっちが勝手に想像して私の本性、見ようとしてなかっただけなのですわ。私ではなく貴方の目が節穴ってこった」

「お前、口調。後、サラッと色々言ったな」

「うっせーですわ。とっととそのこそ泥を向こうに持って行きやがれですぅ」

お淑やかに笑うと口元をピクピクさせたローは能力でこそ泥二人をどこかへやった。
それからローは刀と共にリーシャの横に座る。
それを合図にもう行こうと立ち上がると腕を引かれて目を眇めて相手を見た。

「もう戦闘は終わったんですよね?じゃあお暇させていただきますんで、腕、離して下さる?旦那様」

「その旦那っつーの止めろ」

「は?今更何を?ていうか、私のロマンスウエディングを汚い政略婚で済まされた事、まだ許してないんですけれどー?ていうか、離せ!」

ブゥン!と腕を外すために自分の腕を振るうとローは無表情でグッと引いて、その反動で椅子に倒れ込む。
咄嗟の事で声も出ず、目を瞑る。
次いで直ぐに目を開けると見下ろされている状態で相手の輪郭がボヤける程近くあって、キスされていた。

「っ、何、す!」

退けようと力むけれど、七武海の男を退けられるなんて奇跡は起こらない。
呼吸も息も全て奪われる。
何を考えてキスしているのか分からない。
少し前まで全く興味もなさげにこちらを見ていたのに。
地位を強固にしたくて結婚したのはそっちなのに。
夢心地な結婚生活も奪い、自由も奪った癖に。
今まで泣くまいとしてきたのに、色々な思いが胸からせり上がってきて、ポロリと涙を零してしまう。
彼が微かに動揺するのが見えた。
困ってしまえ、なんて毒づく。

「確かに、お前は恰好の女だった」

泣いた女の前でデリカシーの無い事を言う。
モテないだろうなこいつ。

「泥だらけで遊んだり、幽霊の騒動の犯人を捕まえたり、俺に嫌いなもん食わそうとしたり……都合の良い女じゃいつの間にかなくなっていたがな」

それはそれは良い事である。
この男の悔しがる心情にスカッとした。
困らせられたのは出来ていたらしい。

「いつの間にか、お前を目で追うようになって……あの屋敷に帰るのが義務だと思わなくなっていた」

その前までは義務だと思っていたと白状したぞ。
締めてやる、ボコボコにしてやる。
ジトリと睨むと頬をゆるりと撫でられてくすぐったさに身を捩った。
甘やかされているみたいで何だか嫌だ。

「くく、照れてんのか?可愛い奴」

(何この外科医!?)

可愛いなんて言葉が出てきた事の方が衝撃だ。
驚いて目をぱちくりとしているとローがまた近付いてきた。
きっとキスするつもりだと気付いて手でガード。
これで接吻出来ない。
接吻って古いとかそこ突っ込まない!
ローはガッとガードしている手を外しに掛かり、攻防が開始する。
ぐぬぬぬう、と踏ん張っていると彼が耳に息を吹きかけてきたせいで背にゾクッとした感覚が流れ込む。
そのせいで「うあ!」と力が緩み腕を退かされてしまう。

「あ、あっち行け!」

「その命令は聞けねーな」

「命令じゃないし!決定事項だし!」

頬に赤みが差しているだろう。

「もう、解放してよ!貴方、どうせ私じゃなくても良いんでしょ!?」

たまたま丁度良い地位の女が結婚し易く、白羽の矢が立った生け贄である。
というか、離婚届はあるのでそこにサインしてくれたら良いのだ。

「そ、そうだ!丁度離婚届あるからさ、サインしてよ!」

名案だと提示するとローが凄まじい眼孔でこちらを見て腕の力がとても強くなり痛みが発生。
いたっ、と声を出しても緩められない。
これだから海賊はと悪態を付く。

「離婚届?サインするか、馬鹿」

嘲る様に笑うローを見て歯を噛む。

「良いですわ。貴方がそう言うのなら、実家に帰らせてもらいますので!」

いくら海賊であれ、監禁なんて真似、出来ない。
これは双方の利害の一致で行われた結婚なんだから。
無体な真似は晒せまい。

「フフ、ほんと、頭の良さが別人だな」

(笑う所じゃ無いしー!)

何が面白いんだか、と呆れる。
まだ腕は離されていない状態で抱き起こされた。
恥ずかしいと暴れるが、意に介していない。

「生意気な女には調教が必要だと思わねェか?リーシャ」

その単語に嫌な汗を感じつつ「必要無いですわ」とポーカーフェイス。
此処で動揺したり慌てふためくと相手の思う壺である。
努めて何でもない顔をすると益々笑みを深めるロー。

「知れば知る程、手放せなくなるな、お前は……」

ニヤッと笑うと頭に手を添えて深く口付けてきた。
引っ掻いてやろうと爪を腕にギリギリと立て付けるとローが口を離して言う。

「そんなに立ててェなら思う存分背中に立てりゃあ良い」

目が濁ったのは言うまでもない。
やっぱり、可愛く甘える何て到底出来そうにないと憎々しく思った。



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