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その後のご令嬢


本当の夫婦(強制的)となった後、彼はリーシャの叫んだ願いを次々と叶えてくれた。
例えば土地を離れて海へ連れ出してくれた。

「どうだ?海は」

「広い、青い、綺麗」

「海だからな」

ククク、と笑う隣に居るロー。
此処は彼の船であるハートの海賊団の船員達が集う海賊船だ。
そこに初めて乗せてもらう。
夫の船に乗るなんて不思議な感じだ。

「で、願いは叶ったか?」

「叶ってない」

「あ?」

また凄んでくるので無視してボソリと言う。

「麦藁海賊団の船に乗りたかったって私は言った気がする」

そう言ったのに、と言うとローはハッと鼻で笑ってくる。
リーシャはローに外で文句を言ったあの日から色々吹っ切れたので令嬢特有の〜ですわ、という言葉遣いを使うのを一時的に止めてみた。
何というか、ローに使うには敬う気に到底なれないからだ。

「お前、本当遠慮も態度もなくなったな。令嬢の欠片も残ってねェな」

「それを言うならシャチとペンギンだって態度も敬語もなくなってるけど?」

「そりゃ、密偵だからだ。元々俺の部下だったからな」

知ってる。

「あっそ。なんというか、貴方にはもう恭しく従う気がなくなったというか、兎に角、何だか余所余所しくするのが馬鹿らしくなってね」

「へェ、そりゃ光栄だ」

彼はからかうように言ってからこちらを向いてそっと顔を近付けてきてキスをした。
その秒刻みの行いにパッと離れて口を拭く。

「何するの!許した覚えないから!気安く触れないで、金輪際ね!」

「夫が妻の許しが無い限り手を出しちゃいけねェなんて法律ねェよ」

勝手にするのは許さないと言う自分にそう言ってくるロー。
青筋が浮かびそうになる。
肌を合わせてからというもの、彼には節操という物が欠落してしまった気がしないでもない。
元々キスも隙があればやってきたので今更な事だが。

「煩い!」

揚げ足を取られるのが何より腹立たしい。
これならシャチやペンギンと居る方がまだ楽しい。
彼等は今どこに居るのだろうか、と探そうと歩き出す。
これ以上一緒に居たら破廉恥な事をし出す可能性があるので逃げた。
それを追ってくる素振りもなかったので内心安堵して船内へ戻る。
廊下を縫って元使用人の二人を探す。
彼等は船へ戻るとツナギを着た、それからリーシャに謝った。
騙していてすまなかったと言われたので慌てて気にしていないと言った。
それに、スパイと知っていながら採用したのだと言うと、彼等は目をパチパチとしばたかせて驚いていたので笑った。

「シャチー、ペンギン?」

呼び掛けても返事がない、昼寝でもしているのだろうか。
それともゲームでもしていて盛り上がっているのだろうか。
彼等は屋敷に居たときより遙かに顔が活き活きとしていたので、やはりこの船が好きで、仲間やローが居るこの場所が好きなのだろう。
自身には用意出来ないこの場所へ帰ってきた時、仲間達が返ってきた事を喜んでいたのを見た時、言いようの無い寂しさを感じた。
友達が親友と出会って喜んでいた、そんな類の寂しさだ。

「はぁ、よく考えたら、私、友達居ないなあ」

考え無くても居ない。
胡乱になる思考を止めて、彼等を探し出す為にまた呼び掛けを開始。
しかし、出てくる様子もなく彷徨いていると廊下の曲がり角でローとぶつかる。

「いった!」

鼻をぶつけてしまい相手を見ると「まだこんな所に居たのか」と言われムッとなる。

「この船は構造が複雑なので疲れただけですわ?」

嫌味を言う為に令嬢口調へチェンジ。
ローはそれを聞いてジィっと見てきたので怯む。

「な、何ですの?不躾な視線は紳士としてあるまじき行動ですわよ?」

「いいや?口は不器用なのに体は素直何だと思っただけだ」

「なっ!?破廉恥!スケベ!節操なし!」

こんな誰に聞かれるとも分からない場所でそんな発言をするローに赤面。
数々の罵倒を浴びせて、浴びせ終わる頃にはこちらの息が乱れていた。

「暇なら俺と過ごせ」

「暇じゃありませんわ!」

「暇だろ?彷徨いていると報告は来ていた」

誰かに見られていたのだろうか、それにしては会わないが。
疑問を感じていると彼は徐にリーシャの腰を引き寄せて熱烈な口付けをしてきた。
相手の瞬発力には驚かされる。
こちらが何か反応する前には行動を全て終わらせているから何も出来ずじまいだ。
酸素がなくなりかける感覚にクラクラした。
ローの微かな香水の香りが鼻を刺激して心臓を高鳴らせる。

「嫌がってても分かる。俺の事、言う程嫌いじゃないだろ?」

「ご冗談!」

(くそ、バレてる……)

好きか嫌いかと言われれば……好きに傾いている。
ローはそれを見透かしているという事だ。
ぐぬぬ、と悔しく思いながら顔は馬鹿らしいという仮面を張り付ける。
隙を見せたらいけない男だ、こいつは。
ススス、と太股をズボンの上から撫でつけてくる相手にビクッとなる。
何て厭らしい触り方なのか、止めさせようと蹴りつけるが足をキャッチされて寸止めされた。
片足がぶらついてバランスが保てなくなり反射的にローの肩へ掴まる。

「お前も結構乗り気だな、くくく」

了承した訳ではないと知っている筈なのに意気揚々と身体を持ち上げて移動し出すローに慌てて降ろせ、離せ、と叫ぶが本人はそれを総じて無視した挙げ句、部屋へと直行して気が付いた時には船長室の扉がパタリと閉まる音が耳に聞こえ、自分の行く末を垣間見た。


夜、呼び出されたので行くと眠い目をこすりながら手を掛ける。
お化けでも用意して何か驚かそうとしているのかもしれない。
ごくりと喉を鳴らしてバッと開けると視界にカラフルな物が散らばる。
呆気に取られていると男達の集大成が聞こえた。

「入団を記念してェ」

「「「宴を催しまーす!」」」

入ってきた時に聞いたのがクラッカーの音だと理解してからの言葉に言葉が出てこない。
もしかして、今日まで周りが余所余所しかったりあまり接触をしてこなかったのはそういう事だったのかもしれないと頭が回るまで時間が掛かった。

「これ、えっと、え?」

令嬢言葉をど忘れしてしまい混乱する。

「お前の歓迎会だ」

ローはシレッと言う。
更に混乱しながらも理解して、この歓迎会の意味を見出していく。

「シャチもペンギンも、私の事何てもうどうでも良いんだとばかり……」

目に涙を溜めてグイッと拭う。
すると、シャチが近寄ってきて頭をポンポンと叩くようにクシャクシャにする。

「お前、ほんと令嬢っぽくねーのな。んな事、気にしてたなんてよ」

「するっての。普通。私の近くにまともな人格者何て居たかったし、寂しかったんだからっ!」

シャチに愚痴ると船員達は面白い令嬢だと笑う。
その笑いは嘲りではなく愉快であるという空気である。

「ていうか、私入団しないよ?麦藁海賊団に入るから」

ケロッと言うと船員達がずっこけた。
ローに空気読めと叱られたが、訂正する気は毛頭無いので無視。
でも、歓迎会は嬉しかったのでありがとうと言うと皆はホッとした顔で仕切り直しだと騒ぎ出した。



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