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28


それ日は生まれて初めて長いと感じた一日だった。
後になって思えば、いつ破滅しても可笑しくない男の隣に並んでいたのだ。


リーシャはその時間、ひたすらローの好感度を下げる方法を探していた。
日記に書き溜めては悩み、頭を捻る。

(食べ物に全部唐辛子入れるとか?)

地味だけれど嫌われるのは必然な方法だ。

「奥様っ!」

メイドの二人が慌ただしく屋敷の中を走りこの部屋へやってきた。
その顔は鬼気迫る感じで、何かヤバい事態があったのだと思うのに時間はかからなかった。

「どうしたの?」

こちらも慌てるとパニックになると冷静を努め聞くとメイド達はこちらに盗賊の姿をした人間達が押し寄せているらしいと受ける。
シャチとペンギンにそれを伝えてこいと言われたのでここまで来たのだと言う。
彼等は何をするつもりなのかと思ったら想像に難しくない。
電伝虫を取ると慌てて電話を掛けて二人を召集する。

「奥様!私達はどこに!?」

「ええ。隠し部屋があってそこから見つからない出口に行けば今なら囲まれる前に脱出出来るわ!こっちへ来て!」

実は作ってあった。
いつからか、その部屋を作るのが貴族の間に恒例となっていたので迷う事なく案内する。
その道すがら、シャチとペンギンもやってきてこの屋敷に集う人間達の事を教えてきた。

「どうやら彼等はせ、じゃなくて旦那様の留守を狙って来たみたいです」

ペンギンは落ち着いた様子でシャチと言い合う。

「人質にしようとしている可能性があります!」

その言葉に蒼白になるメイド。
まだ若いし、死にたくないと顔に出ている。
彼等の言葉を纏めるとどうやら七武海として制裁した海賊達の残党が報復をする為に手を組んだのでかなりの人数らしい。
リーシャを人質にして首を取るつもりらしい。
それか、妻であるリーシャを殺してローに絶望を味遭わせようという目論見らしい。
隠し部屋兼隠し通路のある所まで急いで行くと先にメイド達を行かせる。

「ですが奥様はっ」

私も後から直ぐに行くわ、と宥めて振り返るなと行ってから背中を押す。
それから使用人のシャチとペンギンへ向かい合ってから彼等をこちらへ手招きする。

「どうしたのですか奥様」

「早く逃げないと!」

二人の意見は無視をしてもう一つの扉に手を掛けてそこへ通す。
その部屋を見た二人の反応に笑えてくるが、今は盗賊、みたいな海賊達の対処が先決だ。

「この部屋は監視とトラップを発動させる部屋よ」

「トラップ?」

「監視電伝虫を置いてあるのは知っていましたが、こんな所まで……驚いた」

敬語が抜けてしまっているペンギンを後目に海賊達が中へ入ろうとしている映像が沢山のモニターに映っている。
もしかしてこういう事態を想定して設置したのかとシャチに言われたが首を横に振ると笑う。

「旦那様で遊ぶ為に罠を仕掛けたの」

「「え」」

二人の呆気に取られた顔は見なかった事にして一つのボタンを躊躇なく押す。
監視カメラには次々と倒れていく外にある像。
バリーン!と派手な音がしてそうだが、お金の問題も関係なく次々ボタンを押していく。
そうしていくとトラップが仕掛けられている事に気が付いた海賊達が集団となって固まる。

「こういうのはタイミングが命よ」

ポチッとな。

「「えええええ!」」

集団が落とし穴にハマった。
結構大きめに作ったので力作だとは匠談。
しかし、そろそろ防衛機能も限界になってきた。
元々一人用だったので回数や量はこんなに大人数には対応出来ていない。
すると、シャチとペンギンが戦うと言ってきた。
そう簡単に言うが相手が多くて捕まるだろう。

「駄目よ。貴方達は腕に自信があるようだけれど、人数が圧倒的に多いわ」

「大丈夫です!」

「勝てます!」

ペンギン達は意気揚々と言うが首を振る。

「貴方達が命を捨てる事はいけないの。私の為に尽くす必要何てないわ。貴方達は彼の為に命をかけているのでしょう?」

「!?」

二人の目がこれでもかと見開かれて動揺しているのが理解出来た。

「だからここで出て行く事は許しません」

「いつからその事を……」

シャチは気まずげに聞いてくる。
ペンギンは険しい顔をしてこちらを警戒しているようだ。

「そうね。取り敢えず使用人としては有り得ない事ばかりするからバレバレだわ」

すると、二人は肩の力が抜けたように脱力する。
バレていないと思っていたのがびっくりだ。

「嘘だろ……はあ」 

ペンギン達は再度肩を下げてしょげる。
ふふ、と笑っていると脳裏に買い物の時の出来事が浮かぶ。

「あ、しまった……!」

ローに上げようと思っていた筈の帽子の事を思い出す。
二年後バージョンのあの帽子。

(置いてきちゃった!)

それを見つけた途端にこれはフラグだと、嬉しくなってついつい買っていた。
まだローに渡せていないので取りに行こうと、彼等に直ぐ戻ると言って帽子を探す。

「外は危険だから出るな!」

制止の声を振り切って外へ出る。
海賊達にバレないように這ってから自室へ行く。
帽子が入っている箱をクローゼットから取り出してから安堵。
その瞬間、窓が割れる音が聞こえて恐怖に立ち竦む。
叫び声すら出せないような恐さから後ろを反射的に向くと如何にもな風貌な男がこちらを見ていた。
その口元を醜く歪められる。

「見つけたぜ!」

その視線に負けじと対峙しつつ後ろへ下がって出口へと足をゆるりと動かす。
捕まるものか、意地に掛けても人質になんてならない。
刃が足に向けて攻撃されるのを感じて、足を封じ込める気だと戦慄を覚えながらなんとか避ける。

(まさか避けられるとは)

自分でも避けられるとは思わなかった。
海賊は怪訝にこちらを見て真顔になると喋り出した。

「お前、トラファルガーの女だろ?」

「いいえ?所詮は政略的に結婚した愛も何もない仲ですわ」

そう言うと見逃して貰えないかと考えた末に男は腹立たしい顔で上から下まで舐めるように見てから「じゃあ俺が味見しても良いんだな」と肯定の言葉に鳥肌が立つ。

「いいえ。貴方と結ばれてもメリットはないので無理ですわ」

あくまで冷静に振る舞ってからニッと笑うと出口に掛け出した。
その後を男が追ってくる。
今日はラフな服装ではないので走り辛い。
はっはっ、と息を吐き出して走るが、海賊と令嬢では出来レースも同然だった。



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