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あちこちを見てから可愛い物や雑貨を購入したりしてなかなかに有意義だった。
人が多いので人通りの少ない道へ避ける。
ローも向こうに行きたいと顔に書いている感じ(多分)だったので提案に乗ってくれた。
そこにはポツリとあるテント、中から夫婦らしき男女が出てきた、エンゲージリングを填めている。
何やら困った様子で声を潜めて話している、ソワソワと己の中にある好奇心レーザーが反応していた。
是非話していただきたいと生唾を飲み込んでから深呼吸、意を決して話しかける。
最初はやはり警戒心を露わにしていた民間人の夫婦はお節介と化したリーシャに誤魔化すように話してきた。
ローはお人形のように喋らずただ立っているだけだ。
「大丈夫です。貴女達の事も話された事も他言無用とします」
「……だがしかしですね」
「分かりました」
「マーベラ!?」
男の人が驚いたように女性の名らしき声を発する、マーベラと呼ばれた方は気にする事なく男性を一瞥する。
「この人は大丈夫。信じて賭けて見るしか私達は出来ないでしょ」
どうやら彼等の悩みはお手上げ状態らしい、悩ましげに溜息を吐いた女性は冷静にまとめて簡潔に話してくれた。
内容をまとめるとつまり、此処の近くに家を建てているのでこの場所の治安はとても良い。
だが、ここ数ヶ月、とある事件が近所で噂となっている。
その事件は事件と言うには薄く、怪奇といったもの、とどのつまり幽霊騒ぎであった。
それを聞いて成る程、と頷くリーシャ。
まだローは何の反応もしていない、意見も反論もないのだろう。
命令されるのも勝手に決められるのも嫌な筈の彼が何も言わないのなら好きにさせてもらおうと決める、リーシャのターンだ。
幽霊騒ぎは基本夜中に起こるので夜になる前に目撃情報がある場所へ向かい隠れるという事にした。
この事件へ首を突っ込む事に関してローは仕方がないと言いたげにして付いてきた。
「別に無理に付き合おう等と気を使わなくとも良いのですよ?旦那様」
「夜中にお前が人に襲われたらどうするる?防衛手段はあるのか」
夜中は襲われやすいから付いて来てくれたらしい。
こういうさり気なさに赤面しているから夜で良かったと思う。
顔の色も見えないし、いくら彼の夜目がある程度効くといってもここまでは分かるまい。
好感度の上がり具合をとことん感じたのでそこは焦らなくてはいけないが、今は兎に角張り付いて犯人を見つけなくてはいけないし呼吸を数回。
「どうやら来たみたいだぞ」
「え。人?」
何やらゴソゴソしている妖しい人影が動いている。
彼の目には僅かに何をしているかを知ろうとしている雰囲気を感じた。
(やっぱり犯人は本物の人か……呆気ないカラクリ)
本物の幽霊だったならば楽しそうだったのに。
残念に思いながらこんな子供の悪戯みたいな真似をする人物を捕らえる事にする。
持っていた魚を捕獲する網目の捕獲縄を手に持って、密かに練習していた手順で捕まえた。
これは屋敷に賊が入ったときに防衛と攻撃手段を得る為の自己防衛だ。
決して、ローにこれで嫌がらせしようなどとは思っていない、思っていない。
大事な事なので二回言わせてもらう。
「おい……いつの間にそんな技術身に付けたんだ…………」
ローの呆けた声音を聞きながら悪戯をする犯人の叫び声の場所へ向かう。
なかなか良い筋だと思う、自分でも上手くなったと言える。
「え?大人?幽霊騒ぎを起こしたのって…………嘘でしょう……」
子供ではなくちゃんとした大人だった。
網に入れた状態のまま脅す。
「黙れ。痛い目に遭いたくなけりゃ今すぐその煩い口を閉じな」
その辺を通りすがった通り魔みたいに見せかけて吐かせようと決めていたが堂に入っているらしくローのギョッとした雰囲気がこちらを突き刺す。
「ひいい!どうか命だけはっ……金ならやるからあ!」
「聞こえなかったのかい?黙れって言ってるだろう?」
犯人はそれで泣きそうな声音を押し殺して黙る。
あまり叫ばれると人が出てきて尋問が出来なくなってしまう。
「あたいの聞いた事だけ答えな」
「は、はい……!」
盗賊か何か、兎に角危害を加えられると思われているのでスムーズに事が運ばれる。
「此処最近幽霊騒ぎが近辺で起きてるって聞いてね。これはあんたの仕業かい?」
そうだ、と答えたのを聞いて理由を聞く。
けれど、後ろに恐い相手が居るからかなかなか口を割らない。
「仕方ないねえ。あんまり服を赤く染めたくないんだけど……足から風穴を空けてやるよ」
脅す、脅し文句に重ね、相手が慌てて誰の指示かを吐く。
「今日の事は好きに報告しな。精々これから背後には気を付けるんだねえ……ははははははっ」
不気味な高笑いでフィニッシュ。
最後、相手に持ってきていたクロロホルムで眠らせて網を回収して証拠隠滅。
最後の最後に相手の額から顎下にかけて『怪盗R』と書く。
屋敷へ速やかに帰還し、ローと少し居間で今日の疲れを癒す。
真夜中のティータイムだ。
ローは一息付くや否や、凄く聞きたそうにこちらを凝視してくる。
「お前は何者だ」
「あらやだ。私の顔をもうお忘れで?お早い病にかかられたのですね」
嫌味を乗せてそれに返すとローの鋭い目が射抜く。
「ただの貴族の女にしては何もかも可笑しい」
「でしたら別れるなり何なり、私と縁をお切りになされれば良いのでは?貴方がこの結婚を望んだのですけれどねえ」
これを機に離婚してくれるのなら嬉しいが。
疑うのなら調べてから結婚すれば良いではないかと呆れる。
最も、結婚したての頃はまだこの人格はないので調べても何も出ない事は己が一番良く知っているけれど。
茶目っ気のある目でローを見やると先程の鋭い目はなくなっていた。
「そう言われたらそうだな。だが、別れる予定はない。益々目が離せないだけになった」
また知らずの間に好感度を上げてしまったらしい。
「そうですか?私は逆の事を推奨するだけですわ」
つまり別れろと言ってみてもローは聞いている素振りもなく口元を上げただけだった。
「それにしても、まさか犯人があそこを狙う土地の奴だったとはな」
「あそこに居る人達は皆民間人。貴族の沢山来る娯楽施設の近場であったなら狙われるのも当然な立地ですものね」
犯人の言った内容は幽霊騒ぎを起こして土地に曰く付きというものを貼り付けて値段を土地事下げさせてから買い取る。
貴族にそこへ住んでもらい腕利きのゴーストを倒す人間を招いて脅威は去ったと大々的に貴族に売り出す。
「俺はお前の網捌きと女盗賊の演技に目から鱗だったけどな」
「私から言わせてもらえば貴方は男性なのにただ立っていただけだったのは期待外れでしたわ」
つまり、何もしなかった男だと認識させてもらったという事だ。
ローはフフフ、と笑うと「あまりに演技が凄過ぎて自分の入る隙がなかっただけだ」と言い訳してくる。
あの程度で驚くなんてローはやはり若い証拠だ。
「で?これから何かやるのか?まだ立ち退かせる気があると俺は思う」
「ええ。それは私も同じです」
やれる事は僅かしかないが、しないよりは効果があると思っている。
リーシャは高揚感の残るまま、寝室へ向かった。
後日、幽霊騒ぎがあった町では『地主が町おこしをしようと盛り上げる為に幽霊がランダムに出るというイベントを行った(という噂であり本人も非公認の噂)』が流れて、逆に幽霊が出ても嬉しい、楽しい悲鳴が起こる町となった。
それにより娯楽施設が近いという、他にもイベントを定期的にする町と有名になり土地を奪おうとする機会が永遠に奪われたという。
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