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ぐぬぬ、どうやら好感度を下げられなかったし、失敗したみたいだ。
何と難易度が高いのか。
恐るべしトラファルガー・ロー。
狡猾に計画的に人生を歩んできただけはあるらしい。
こうなったら作戦変更である、プランBと名付けている。
因みにパンの計画はAだった。
と、いう余談は池に投げ入れておこう。
プランBはローが嫌いそうなものを選んだ、さぞ退屈で欠伸(あくび)を出すだろう。
貴族の嗜みの一つ、鑑賞会。
簡単に言えばオペラを見に行くのだ。
海賊にとっては、つまらないし退屈なオペラだ。
それを承知で連れて行き、明日も明後日も一週間連れ回せばいくら好感度が上がったローだろうと我慢等出来まい。
内心覚悟しやがれとほくそ笑んで誘う。
渋るなり嫌な顔をするなりと何かアクションを起こすかもしれないと予想していたのだが、どうやら何とも思っていないようだ。
小憎たらしい事この上ない。
ついでにオペラで殺人事件的な何ちゃって事件でも起きて欲しいなと密かに思っている。
オペラ関係者、ごめんなさい。
ちょっと内なる獣を吠えさせたいだけだ、尚、別に厭らしい意味ではないので悪しからず。
ちょっこし暴れたいだけである。
ウズウズするのはローの好感度を下げられるからだ。
オペラも転成してから初めてなので少し楽しみでもある。

(確か恋人の話し……だっけ)

夫婦で仮初めな自分達が見るにはかなり不相応な内容だ。
逆に世の中にはこんな恋も出来るのかと惨めになるかもしれない。
そんなどうでもいい事を考えながらローを見てみる。
全くの無表情だ、眉一つ動かさない。
面白くないな、の卑屈になっているとオペラ会場に着いたらしく馬車が止まる。
扉を開けて降りるとローがいつの間にか先回りして手を取るというレディファーストをしていた。
サンジなら分かるが、ローがすると違和感有りまくりである。
まさかするとは思わなくて目を丸くして固まっているとククク、と笑う男。
からかわれたのか、間抜けな顔を笑ったのか定かではないが手を借りずに自力で降りた。
オペラ会場は貴族御用達の場所で民間人は入れない。
愛人を連れて密会というのもあるので仮面着用オッケイだ。
なのでローは馬車から降りる前に仮面を付けている。
妻であるリーシャも顔バレするとローというのもバレるので同じく仮面を付けていた。
端から見れば訳ありの二人であった。
不本意だが下手に騒がれるのも嫌だから我慢。
中へ入ると外装も凝っているが内装も同じくお金が掛けられている。
落としてくれるお金の桁が違うので当然かと納得。
ボーイが行き交う中で指定された席に座る。
あまり人が居ない所を探してどこが良いかと訊ねられ、好きな場所を言ってチケットを買うというのが方式だ。
だからまあ行き易いといえばそうだろう。
ローだと分かる程人の近くに居るのを避ける為だ。
有名人を隠すのも大変である。
息を吐いてやっと座れたと一息。
隣のローはやはり無表情。
何とも思っていない顔だ、何故良いと許可をして付いてきたのか不思議な程。
パンフレットと小さな双眼鏡を渡されていたのを思い出してパンフレットを開くと簡単な説明が書いてあった。
双眼鏡を一応ローに進めると、必要ないと言われた。
目が良いのか、それとも見る気等塵も無いのかもしれない。
元々は見せかけの夫婦なので当然付き合ってくれているだけのようだ。
ローを観察するのを終えると幕の前に人が現れ、幕がこれから開くという合図と司会進行を宣言した。
彼はそれではお楽しみ下さいという言葉を掛けて消えると幕が開く。
わくわくしてきた。
オペラが始まってからは随分と引き込まれていたらしくいつの間にか拍手に会場が包まれていた。
どうやら終わったようだ。
気付かなかったと隣を見るとローは真っ直ぐ見ていたので内心見てたのか、と少し意外に思った。
拍手を少ししてから幕が下がるのを見てパラパラと会場に居た人達が席を立つ。
最後ら辺でいいや、と思いながら人の流れを眺めているとローが帰らないのか、と声を掛けてきた。
今日はあまり話さなかったので無口な日なのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
話しかけてきたローに自分の考えを伝えると分かった、と一言頷いて席へ座り直す。
こちらの意見を聞いてくれた事に至極驚くとローはこちらの雰囲気を感じたのか口角を上げた。
仮面を付けているので妖しさMAXだ。
オペラの雰囲気に溶け込んでいる。

(舞台に居ても違和感ないね)

感想を抱くと周りを見てから人が大分減ったと感じて席を立つ。
ローに行きましょう、と声を掛けると彼は立ち上がりコキッと肩を鳴らした。
馬車に乗り込むとフリーマーケットをやっているらしく、人が行き交っているのが見えた。
楽しそうだと見ているとローが馬車を止めてリーシャにも降りるように言う。
何か考えがあって言っているかもしれないので素直に従う。
それに、あわよくばフリーマーケットで沢山買って我が儘令嬢を演じられる。
ニコニコと笑みを貼り付けて馬車を降りるとローは迷い無くフリーマーケットの中へ入っていく。
人混みが嫌いそうな感じなのに意外に思う。

「旦那様、何か買われるのですか」

その為に馬車を止めたのだと思って尋ねたのだが、彼は「見てから決める」と言って淀みなく前を向く。
何となくという意味だろうかと思っているとスイスイと進む体躯。
男の背は高く威圧感もあるので人が避ける。
仮面を此処でも被りたくなるのは仕方ないだろう。
出来れば他人を装いたくなる。
しかし、考えてみてくれ、女で背も対して高くない自分が人混みに紛れるとどうなるか。
流されて揉まれてはぐれる。

「だ、旦那様……、」

呼んでみても人の雑音にかき消される。

「あ?」

しかし、ローはちゃんと聞こえたようでこちらを見てから少しだけ止まった。
アプアプと海から顔を出すような感覚で人混みを掻き分けるとやっとの事でローの元へ辿り着く。

「……行くぞ」

「あ」

ぶっきらぼうに言ったのに腰を抱いて歩き出す。
突然の行動に呆気に取られながらも付いていくしかない。
ヨタヨタとおぼつかなかった足がローのエスコートが加わった途端にサクサクと進めるようになる。
例えるならばそう、満員電車で連れがさり気なく苦しくないように空間を作り出してくれる感じだ。
自分でも何を言っているのか分からない、今のはなかった事にしてほしい。



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