×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
21


ざわざわと声が交差する。
夫婦達の会話や五組とメロディー夫婦の声も耳に入ってきた。

『で、当然お茶会で何かをするおつもりなんでしょう?』

お茶会に参加する前に会話をした内容を思い出す。

『嗚呼……オシドリ夫婦の良さをあいつらに見せつけてやらないか?』

愉快そうに笑うローは隈に縁取られた目を真っ直ぐ向けて聞いてきた。
メロディーの奥方がローを欲しがっているのなら嫌味よろしくな夫婦関係を見せようと思っているらしい。
成る程、夫婦のオシドリ具合がどんな感じなのか全く分からないが頷いて協力する事にした。
暇で退屈だから気分的にも持ってこいな作戦に思えたのだ。
取り敢えず隣に居るローが椅子を此方へくっつけるように寄せて何食わぬ顔でリーシャの腰を触る。
抱き寄せて親密さをアピールか。
それにしても見えもしない位置で腰を艶めかしく撫でるのはどうなのだろう。
屋敷でなら避けているのだろうが、此処では動けない。
まさか、妻のエロえろしい顔を見せる為に行っているのかもしれないと考えた。

(うーん、どっちなんだろ?……え)

不意に視線を感じてちらりと見てみればメロディー・キャロルがこちらを怖い顔で見ていた。
しかし、それは一瞬の時だったので見間違いかと勘違いしてしまいそうになる。
いやいや、今のは確かにこちらを睨んでいた筈。
女の嫉妬は恐ろしい。
何ともない顔を浮かべながら思った。

(にしてもそろそろ離れて欲しい)

十分仲良しアピールは出来ただろうとローを見ると彼は紅茶を飲んでいた。

「トラファルガー夫人」

ボーッとしているとキャロルが話しかけてきた。

「このお菓子はウエストブルーから取り寄せましたの。お味はいかが?」

聞かれてにっこりと笑う。
一方的な火花がヒリヒリと顔に散る。
視線というより殺気に近い。
頬が引きつらないように頑張って「美味しいですわ」と答える。
なんと偉いのだろうか自分は。
勝つつもりもない戦を受けるなんて。
それに比べてローはさっきから腰やリーシャの髪の先端を弄んでいるだけで一向にオシドリっぽくしてくれない。

「旦那様、このお菓子、食べません事?」

「あ?……ん」

食べさせろの仕草にイラっとした。
自分で食べろよ、と鬱陶しく思いながらも健気な妻をしなければ見せつけられないので仕方なくお菓子をローの口へ運んだ。
パキッと折れる音と共に咀嚼した後、彼は紅茶を飲む。

「……食べられなくはないな」

美味しいと言ったこちらの言葉を見事に潰してくれたロー。
手の中にある食べかけの跡が付いたお菓子を粉砕しかけてしまいそうになる。

(人にやりたくもないアーンさせといて……)

真っ黒に塗り潰した言葉を投げつけながら魔のお茶会に参加し続けた。






部屋へ戻るとすっかり夜へとなった外を見てからベッドへ行く。
苦行と言っても過言ではない夜の食事を済ませて眠気を感じながらのお風呂。
ローが先に入ってから入ったのだが彼はテラスの椅子に座っていた。
声を掛けるとこちらを向いた顔と合わさって、リーシャがお風呂から上がった事を知ったローはこちらへやってくる。
別にやってこなくてもいいのに、と思いながらベッドの中へ入ると欠伸(あくび)をした。

「………………旦那様、ベッドはもっと広いですわよ」

このベッドは二人か三人用らしくとても大きい。
こういうのをキングサイズとでも言うのだろう。
まだ場所に余裕はあるのに密着度が変に高い。
背中とお腹が触れている。
ローは背が高いので正確には彼の胸が触れているのだが。
離れてくれと遠回しに言ってみても彼は「今日は寒ィ」と言う。
そうだろうか、別に暑くも寒くもない。

「ではもっと掛け布団を持ってきましょうか」

「必要ねェな……これで良い」

衣擦れの音と共に抱き締められる。
その格好は初めてではないが、ここまで胸が脈動する事は無かった。
今までの比ではない感情が身体の熱を上げる。
心なしかポカポカしてきた。
頬や瞼の裏が熱くなった気がしたが、気のせいだと何度も何度も言い聞かせた。
その内に寝落ちしたらしく、微かな物音に目が開く。
寝る前には居た男が隣に居なくて、トイレにでも行ったのかと思考。
しかし、二度寝をしようとした時、耳に僅かな話し声が聞こえて寝れなくなる。
何なのだろうと起きあがって静かに床へ足を付けると月の光りを頼りに扉へ手をかけた。

「だから……様……私を……」

「必要ない」

「いいえ、そん……だって……なんですもの」

扉から見えたのはメロディー家の令嬢だ。
その横にはローが居た。

「私……貴方が……自由で」

所々聞き取れない会話に耳を済ませている間に身体が前のめりになっていて廊下に出ていた。
遠ざかる二人を眺めていると後ろから声が掛けられる。

「トラファルガー夫人?」

「!……メロディー様」

メロディー家の婿養子の男だった。
優しげな顔で気遣うように見てきた彼はどうしましたかと聞いてくる。
貴方の妻と私の夫が逢い引きしてましたよ、なんて言えない。

「いえ、少しお水を飲みにと思いまして……」

誤魔化すように言うと相手はこちらへ笑みを向ける。

「ははは、では私が持ってきましょう」

「いいえ、そんな事を貴方様にお願い等出来ませんわ。お気遣いだけいただきます」

家主にしては気を遣いすぎやしないか。

「そうだ。お水ではなく温かな飲み物をどうでしょう」

「……メロディー様。本当に良いですから……それよりも少し歩きたいので失礼致します」

ある一つの仮説が頭に浮かぶ。
断ってから歩き出そうとするとメロディーの男性は後ろからぶつかるようにリーシャを抱き締めてきた。
ベッドでローに後ろから包まれた時とは比べ物にならない程の鳥肌と嫌悪を感じた。

「何のつもりですか」

至極冷静に努めようと尋ねた。
不倫みたいに見える。
スキャンダルは勘弁してくれ。
せめて自分以外の人間を相手に選んで欲しい。

「どうか行かないで欲しい」

「貴方の妻と私の夫の邪魔をしてほしくないからですか」

「!」

男は息を飲んだのか空気が一気に張る。

「……私とて、こんな真似はしたくないのです……トラファルガー夫人」

(やっぱりか)

仮説はこうだ。
ローとキャロルを二人切りさせて、邪魔が入りそうなら引き留めろと言われているのだろう、という事を。
もう一つは夫婦仲を引き裂く為に互いが別行動をしているか。
結構名推理だと思う。

「メロディー様。こんな事は無意味ですわ。奥様は貴方を好いていない事を貴方が良く分かっているのではなくて?」

「っ!」

相手の身体が揺れるのを感じた。
実はお茶会の席でも食事の席でも男の女を見る目は慈愛があったと感じる。
好きなんだろうな、とちょっとした仕草でも分かった。
そして、ローへ嫉妬と羨ましげな目を向けていた事も。
彼が己の事故犠牲を行う時は恐らくキャロル絡みなのだろうとぼんやり思った。
今だってきっと彼女の事が好きで愛しているから虚しい行為をやっているのだろう。
全てリーシャの考えなので当たっているのかは謎である。

「メロディー様。貴方が苦しむ限り彼女は何も気付きませんよ。こんな無駄な事をしている時間なんてあったらキャロル様を探してはどうですか」

「リーシャ様……私は……」

相手の心理に問いかけてから身体に絡み付いている腕を解く。
既にリーシャを止める程の力は入っていなかった。
スルッと解かれた身体を正面に向けて笑う。

「貴族だろうと、愛しているのなら手を抜かない事ですわね」

男は目を見開いて泣きそうな顔をする。
止めてくれ、男を泣かせる趣味なんてない。

「貴女を好きになれば、私はきっと……」

「おい」

「「!!」」

突然の掛けられた声に揃って後ろを向けば、キャロルと消えた筈のローが立っていた。



prev | next

[ back ]