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17


またローとお出かけする事となった。
特に理由など無いのだが、ロー本人から買い物に行くぞ、と言われたのだ。
一人で行けよ、と内心毒を吐きつつ笑顔で「分かりました」と言う良い妻をして上げる。
この苦労を誰かに分かって欲しくなる時があるが、今は我慢だ。
七武海の称号を手に入れたのに一人で買い物くらい行って欲しいと凄く思う。
シャチもペンギンも清々しく送り出すし、この世にリーシャの味方など居ないのだ。
納得出来ないと不服になっているとローがクスリと笑うのが聞こえた。
横を見るとこちらを見る目と合う。
何故笑うのだろうと眉根を寄せるも彼はその表情を崩さない。

「何で機嫌が悪いのか知らねェが、着くまでには機嫌直せよ」

「悪くありません」

「好きなモン買ってやるよ」

「自分で買えますので構わず」

自分勝手な人間にやる親切は持ち合わせていないのだとツンケン。
それでもローは不機嫌になる事も機嫌を損なわせる事もなかった。
短期とは思っていないが、こういう態度をされて怒られないとは思わなかったので少し意外に思う。
暫くすると町に着いた。
馬車から降りるといつもりより空気が賑やかな気がする。
もう少し先を歩いていると、どうやら出店の数が多いようだ。
他の店が外からやってきてフリーマーケットの様に売られていた。
その賑やかさに目を輝かせる。
やはり客もいつもより多くて人混みは暑いの一言だが、楽しめそうだと思った。
前回と同じくローと別れると店を一つ一つ見ていく。
ブレスレットもネックレスも可愛い物や珍しい物まで沢山あった。
こういった物は海を渡らないと得られない物ばかりだと思う。
そう思うと今の生活が窮屈に感じて、俯く。
売り子の声で意識を戻して前を向いた時視界に、ある帽子が写り込む。

(嘘!二年後の帽子っ!?)

ローがパンクハザード島で被っていた帽子と良く似ている。
それから目が離せなくなり、ついつい手に取って眺めてしまう。

「それをお買い求めで?」

店の店主が笑顔で聞いてくる。
値段を聞くとなかなかに良心的な値段だったので衝動的に購入してしまう。
これはローに渡すのではなく自分の観賞用だ、と決めて箱を袋に入れてもらったので手に下げる。
そこそこ重い……と日頃の体力不足に苦笑。
帽子を手に持ちながら他の必要な物を購入していく。
その時、道の途中で何処かの令嬢と思わしき女性が目の前に立ちふさがる。

「あらあら、これはこれは。リーシャ様ではありませんか」

「初めまして、私を存じておいでなようで。して、貴女は?」

「私はアスキー家の娘、レースと申しますわ」

如何にも悪そうな頭と顔をしている人が何の用だろうか。

「これはご丁寧にどうも。それで、私に何か入り用ですか?」

「ええ。少しお話がしたくて。あちらにご一緒に来ていただけないでしょうか」

「あら、私は人妻ですのでそういったお誘いは基本的に駄目なんですの」

明らかに人気の居ない場所に連れ込まれそうになっている。
それを回避する為に言うと途端に令嬢の目が嫉妬に燃える。
そういう事か、と納得。
つまり、この子はローを狙っていた令嬢の一人だ。
それとも何処かのパーティーでローを見かけて惚れたとか、色んな可能性がある。
ローは権力もあって容姿も整っているから、女の子達には格好の相手だ。
だから、リーシャも毎回パーティーで令嬢達に羨ましい目で見られて絡まれる。
迷惑も甚だしい。

「トラファルガー様と別れて欲しいんですの」

「別れたら私の父は怒りますわ、きっと……父に貴女に言われて別れると言ったらさぞそちらの家はとてもとても困る事になりますわよね?」

「っ、この雌狐!」

今やリーシャの実家はなかなかの地位でそこそこ権力もある。
彼女にそれを暗に言うとそんな言葉が返ってきた。
リーシャだって好きで結婚した訳じゃないのに此処まで言われる筋合い等ない。

「分かりました。お父様にアスキー家のご令嬢にそう暴言を吐かれた、とお伝えしときますわ。それではごきげんよう」

笑顔で去ろうとする視界の端で顔を蒼白にして震える令嬢の姿が見えた。
権力が上の人間に盾を付くとどうなるか分かっていた癖に、何て愚かなお嬢さんだろうと残念に思う。
すると、目の前に彼女の使用人らしき人物が立つ。
進路の邪魔をされて眉を顰める。
使用人がそんな事をするなんて自殺行為に等しい。

「どうか、お嬢様の失態を許していただけないでしょうかっ」

使用人が頭を下げる。
止めてくれ、これじゃあまるでリーシャが悪いみたいじゃないか。
現に周りの観光客達もこちらを非難する目で見てくる。
これはこれで腹が立つ。
使用人のお前が甘やかすからこんな事になったんだろうが、と内心悪態を付く。
何故町中で侮辱されたこちらが悪いように見られなくてはいけないのか。
この女には使用人という助けてくれる存在が居て、リーシャは一人でしか守れないし、攻撃するのも一人。
途端に全てが虚しくなってきた。
泣くもんか。

「リーシャ」

名を呼ばれてまさか、と振り返ると、思った通りの人物が居た。
いきなりのトラファルガー・ローの登場に令嬢が黄色い声でトラファルガー様!?、と叫ぶ。
ローは少し令嬢を一別してから此方を見る。
使用人の顔色が凄く悪くなっていく。
端から見ればリーシャに詰め寄っている様に見えるのだから。
使用人は怖ず怖ずとリーシャから離れる。
それと同時にやってくるローに令嬢の娘がローへと媚びた声で自己紹介をした。
それを聞いても、うんもスンも答えないローに令嬢が次はリーシャがとても意地悪な事を言うのだと意味の分からない告げ口をする。

「トラファルガー様、お噂は耳に入れていますわ。さぞ窮屈な生活をなされているんでしょうね……どうですか、今度我が家で」

「一つ、言っておく」

「え?」

令嬢の赤く熟れた頬など目に入っていないかの様に淡々と発言するローに令嬢の期待が上がった。
何を言うのだろうとこちらもローを見ていると彼が突然リーシャの肩を抱く。
ギュッと狭められた距離に息を詰める。

「俺のものにそんな目を向けるな」

呆れる。
誰がローの物だ、と密かに憤慨した。
令嬢は言われた事がまだ飲み込めていないのか目を丸くしている。
使用人が今にも倒れそうな程泡を吹きそうな顔をしているから早く連れて帰ってあげれば良いと後ろを見て思う。
ローは放心している女性を置いて肩を抱いたまま彼女達を後にした。
そこそこ離れた所でベンチに座る。
肩も離してもらえて息を吐く。
するとローは此処で待ってろと告げてから人混みの中へ入っていった。
手から下げていた帽子入りの袋を離して待っているとローが戻ってきて、手に不似合いなアイスを持っている。
その思わぬ光景に目をぱちりとさせた。

「食え。どれが好きか知らねェから適当に選んだ」

そう言って差し出されたアイスを受け取る。
ゆっくりと口を近付けて食べると美味しさに頬が緩む。
こういったものを食べるのは令嬢となってから初めてだが、前世では時々食べていたので懐かしい。
夢中になって食べているとローが子供みたいだな、と言う。
それに反論しようと上を向くと優しい笑みでこちらを見る顔に虚を付かれる。
見なかった事にしてアイスを食べる事に専念した。



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