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15


屋敷にただただ籠もっていてはカビが己に生えてしまうと懸念したので屋敷を漁って何か面白いものが無いかと探した。
これと言って暇な時間を潰せるものもなくガッカリしているとそれを見かねたメイドが買い物でもしてきてはどうですか、と言うのでお言葉に甘えて外へ外出。
今は好都合にローも出払っている。
海軍の収集が掛かったとかで行かなければと至極面倒臭がっていた。
アレに真面目に参加する海賊なんてほんの少しなのに勤勉な事だ。
それに、ローの本来の目的とは随分かけ離れていると思う。
そう考えれば別に収集など無視してしまえば良いのではないだろうか。
頂上戦争の七武海の参加は七武海の称号の剥奪という致命的な物だが、今回はそんな切羽詰まったものではないと考えられる。
そんな事を暇人故にのんびりと思考していると前方に町が見えてきた。
貴族というのは楽だ。
何せ馬車で手間も掛けずに町へ乗せて貰える。
既に駄賃も払い終えているし帰りも楽。
しかし、それでも海の海賊への憧れはなくならない。
刺激のある人生が羨ましい。
リーシャも暴れたかった。
こんな風に屋敷を行ったり来たりするだけの時間が勿体ない。
鬱憤らへんが溜まっているのだろうと深呼吸する。
このままだと死んでしまいそうだと悲観した。
ガタガタと振動がお尻に響く。
馬車を操っている業者の着きましたよ、という声に降りた。
やっと着いた、と体を解していると業者の男が笑顔で帰りはいつ頃に、と聞いてくるので二時間後にすると告げる。
そして、店のある道へ歩みを進めた。
進んでいくともう見慣れた町が目に入る。
とても小さな世界だな、と感傷的になりながらもお店を覗き込んで冷やかしていると不意に視線がある物を捉えた。
これは面白そうだと直感が働いてそれを購入。
帰ってこれを見せたらさぞ皆、驚いてやりたくなるだろう、と頬を緩ませる。
業者に二時間後と言ってしまった事を後悔しながら直ぐに帰りたい気持ちを我慢して買い物の続きをした。
今世のままの自分ならば我慢など縁遠い言葉だっただろう。
リーシャはふと思う時がある、自分が前世を思い出したのは幸福なのか、それとも不幸なのか。
今は幸福だったと言える。
けれど、ローに放って置かれて何もかもに押し込められている生活だと気付かなくても良かったんじゃないかと思う時もあった。
どちらも正解で、不正解。
まだ今がどちらなのかは判断出来ない。
何十年後かにどちらかだと分かるだろうと物思いに更(ふ)けった。



二時間後、屋敷に帰るとまだ日は高かったのでまだ大丈夫だと安堵する。
彼等と直ぐにでもこれでやりたいとうずうずしてきた。
お迎えをしてくれた四人にただいまと告げてからシャチとペンギンに相談。

「実は町でとても面白そうな物を買ってきたの。よければ一緒にしない?」

そう言って物を見せる。
やはり、二人は困惑してそれを見た。

「奥様……それはアウトレットのものですが」

「いくら奥様でも無理な気が」

シャチ達がそう告げても意地としてやることは決めた。
なので、ドレスから着替えて汚れても良い様にズボンに履き変える。
その姿で出てくると二人には流石に本気だと伝わった。
それを手にして三人は森へと進む。
入った森は私有地で、メイス家の管理する土地だから問題はない。

「奥様、私とシャンデ、どちらと組みますか」

組むの前提なのか、余程弱いと思われてるな。
かなり不服だが、彼等は海賊だからハンデが必要だと自身を納得させてペンギンを選ぶ。
それから十秒を数えてそれは始まった。

「奥様、私が撃つので奥様は援護をして下さい」

「分かったわ」

背後を狙われないようにと注意して周りを見なくては。
いよいよ始まるバトルに闘志が燃える。
リーシャが買ってきたのはアウトドアグッズのカラーボールが弾というおもちゃの銃だ。
ペインティングボールなので当たるとペンキが付く。
他にも罠などあったが、次回にしようと思っている。
ニヤニヤと笑みが浮かんでいれば程なくリーシャの肩にペインティングボールが掠った。
背筋がヒヤッとしたが、気を取り直す。
一発で死んだ事になるのは流石に早く終わるのと同じなので、五発当たったら死んだ事、というルールだ。
折角初めてのバトルだというのに早死には面白くないと銃を構える。
視覚の何処にもシャチの姿が見当たらず流石だと冷や汗が背中を伝う。

「ペンダ、シャンデが何処に居るか貴方は分かる?」

「ええ、気配が漂っています。アイツ、余裕ぶってるな……」

余裕なのはきっとリーシャと言う荷物をペンギンが抱えているのが分かっているからだろう。
そこまで思われているのなら、こちらとて容赦しない。
ペンギンと相手の動きを見るために木の幹へ隠れて小石を拾う。
何処に居るのか分からないのなら、誘き出すまでだ。
小石を投げて落ちる時と同時に声を出す。

「きゃ!」

「!」

ペンギンはこちらの行動が見えていたので助けに行くフリをして隙を与える。
それに対してシャンデも動きを見せた。
小石が落ちたところへと銃口を見せた時、一発のペインティングボールがシャチの背中へ当たる。
シャチが間の抜けた顔をすると罠だった事を知ったらしいその目に火が宿るのが見えた。

「お嬢様、やりますね」

「此処までしないと勝てないので」

「俺達をそこまで買って下さっているようでとても嬉しいです」

敵側のシャチは闘志に火を付けたからか、口調が海賊っぽいものになりかけていた。
ペンギンにも挑戦的な笑みを向けてまた三人は隠れる。
どうしよう、と次の作戦を考えるがダミー作戦はもう通用しないと考えてから、ペンギンの方へ向く。
すると、彼は上を指しているので頷いて上へ登る。
銃を片手に登るのは結構キツかったが、何とか登り切ると下を見た。
ここならシャチを見つけられる、と思ったのだが、どうやら相手も此方の位置を把握してしまったようだ。
目が合う、ニヤリと笑う男。
身動きの取れない女、銃口を向けるシャチ。
逃げられないとそれを受ける。
破裂音の次に服へベタリと付く音に一度目の攻撃を受けた。
二発目を受ける前に相手が頭へ食らう。
それは、味方のペンギンが放った攻撃。
それに当たったシャチは悔しそうにペンギンへ当てるが彼は避ける。
リーシャもシャチが気を取られているうちに一発シャチに向けて撃つ。
当然、避けられてしまった。
銃口を向けて当てられるのは彼等が海賊でこれらを扱いなれているからという他ない。
初心者の自分は恐らく目の前に行かなくては当てられないだろう。
そうだ、それがあった。
己が唯一出来るであろう事は特攻。
それだと行き着いた答えに木から降りる。
ペンギンとシャチがリーシャの存在を放置して撃ち合いをしているのも気にならないくらい今は興奮で頭が一杯だった。
撃つか撃たれるか、それならば後三回撃たれたらシャチは負ける。
その事実ならば、それだけがリーシャの思考を占めた。
撃ち合いに思考や気配を持って行かれているシャチに背後から忍び寄る。
シャチに気付かれた時が勝負だ。
ほふく前進で前へ進む。
明日はきっと筋肉痛で悲鳴を上げるこの体に今だけは頑張ってくれ、と言い聞かせる。

「?……!……なっ」

シャチが気付いた時には目の前に迫っていた。
そして、相手が驚いている隙に一発、二発と撃ち込んでいく。
シャチも一発二発と相撃ちでこちらにぶつける。
奇襲しているのに正確にここへ撃ち込んでくるのは悔しいがそれが海賊故の反射的対応だろう。

「後、一発!」

まだ自分は三発まで撃たれても平気だ。
これでチェックメイト、と心の中で呟いて最後の一発をシャチへと放つ。

−−パァン!

その音を最後に静寂が辺りを包んだ。

「嘘だろ……」

シャチが肩を落としてリーシャは確信する。

「俺が、負けた……なんて……」

勝利した事を。



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