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12


貴族の少年はその後、とても凛々しい顔で帰る、と言うので路地裏を出るまで付いて行き、少しだけ逞しくてちょっとだけ成長した後ろ姿はもう何かを背負ってはいなかった。
ローを見たときは七武海のローを知っていたらしく飛び上がって驚いていたが。
そして、例の写真集は残念ながら渡せなかった。
折角の機会を潰したローにがっかりだという視線を背中に突き刺していると彼が唐突に振り返るので慌てて目を違う方向へ向ける。

「帰るぞ」

行きと同じようにさっさと歩き出す男にはいはい、と歩みを始める。
少しくらい歩幅を合わせるくらいして欲しいところだ。
内心むくれているとこちらを向いたローが首を傾げる。

「行かないのか。歩いて帰るのか?」

からかう口調で言ってくる男に言い返す。

「とんでもない。ただ旦那様のブラジャーを買うのを忘れたと思っただけですわ」

「買っても絶対付けねェぞ」




***



LAW side


ローはかつてない程頭がカオスに満ちていた。
久々に仮初めの家に帰ってきてみれば何もかもがなくなっていた。
七武海として政府の一部となった後、仕方なく結婚をした。
その相手と言うのがまた面倒な女だったと記憶している。
家に居ない間に何があったのか、我が儘女は普通の女になっていた。
帰る前に彼女が使用人全員を一斉にクビにしたと聞いて事態の把握の為に船員のシャチとペンギンを派遣した。
相手は顔も名前も知らないから持って来いだ。
それから時々届く報告は目を疑うものばかりだった。
以前のリーシャからは想像出来ないような明るさと心にこれはしかと自身の目で確かめた方が早いと判断する。
それから家に帰ると出迎えがあったものの無口な女だった。
何も離さないので不思議に思いながら話しかけるとツンと澄ました顔で言い返してくる。
彼女は父親に何か言われて行動を起こしたのだと最初は思ったが、矛盾が生じた。
辞めさせた使用人達は全て父親と繋がっていたのだ。
辞めさせたら父親に報告がいかない。
他にも幾つか考えたが、今のままでは何も分からない。
取り敢えず長期にここへ居る事にした。
すると、徐々に女の態度が柔らかくなってきたので驚く。
こんなに雰囲気も違う。
まるで全くの別人だ。
初夜をスルーして、今まで会話したのは片手で事足りる。
かと思えばそれまでの夫婦感の無さが無かったかのように変な事を言ってきたりした。
いきなりバストのサイズを聞いてきて女物の下着をお土産に買ってくると言った時はただの冗談かと思ったが、いざ共にランジェリーショップへ行くと試着室にてローの胸に冗談抜きでサイズの合う胸当てを採寸してくる。
これほど背中に悪寒が駆けた事等、今までない。
色んな店へ連れ回されては本気か冗談か分からない事に付き合わされて、帰ってきて意識を戻すとシャチをピンヒールでいつの間にか踏んでいた。
自分の意志で履いたのではないから、彼女がローに履かせたのだ。
シャチの悲痛な叫びが今でも思い起こされる。
ダンスを練習している時だってそうだ。
終わった後に、汗に濡れるうなじに色気があると褒めたのに妻に欲情するなと言われ、ローの事を何だと思っているのだと聞くと「男」という答えが返ってきた。
合っているが、そんな事を聞きたいのではない。
目で訴えたのに敢えなくスルーされた。
これはローを男として意識していない証拠だ。
やはり、結婚したばかりの時とそんなに変わっていないようにも思える。
まだ此処に居ようと決めながら、いつ頃また海へ行くのかと聞かれた時、僅かな瞬間、その瞳が憧れにも似た光りを宿らせた様な気がした。
仲間が居て、さぞや賑やかだろうと。
だが、それを言う瞳の中には悲しみがあったような気がする。
どうしてそんなに悲しそうに、羨ましげに見てきたのか分からない事だらけだ。



ダンスパーティーの日、彼女はローと同じくつまらなそうにパーティーの様子を眺めていた。
こういった所が好きだと思っていたのでそんな反応に密かに驚愕する。
一体彼女は何に興味を示すのかと気になった。
そんな事を僅かにでも思った己にも驚いたが。
パーティーの音楽が始まると仕方がないといった顔でローの手を取る仕草に、密かに眉を下げた。
そして、口元に笑みが浮かぶ。
リーシャがまるで子供に見えて可愛いと思った。
ベポとは全く似ても似付かないが、一緒にいても他の貴族の様に煩わしいと思わなかった。
何となく口を次い出たのは嫌われていると思っていた内なる思い。
それに対して怒ったように目を上げる彼女の様子に拍子を少し抜かす。
当然だと、開口一番に飛んでくると思っていた。
試しに聞いてみたのだが、その次は呆れた顔をしたりして面白い。
別に答えがどうだろうと、女がローの事を嫌いでも特に不都合はなく、寧ろどうでも良かった。
ダンスの時間が終わり、リーシャは喉が渇いたから取りに行くと言って去っていく。
ローに命令して持ってこいと言う女だと思っていただけに意外だ。
前も荷物持ちをさせるとか言いながら何も言わなかったし、何を考えて言っているのか不明である。
一人になった所で貴族の一人が怖ず怖ずと話しかけてきた。
どうやら向こうに居る貴族の取り巻きらしい。
挨拶をしたいと言われたので仕方なくここから動く。
本当は挨拶もご機嫌伺いもしたくはないが、誰も放ってはくれないらしい。
例え此処で暴れてもローには口頭注意のみで許されるだろう。
ローの七武海というラインセンスはお金が集まりやすい。
だから、鬱陶しい貴族が湧いてくる。
辟易しつつ、そこへ向かうと如何にも威張り散らした雰囲気の男が居て名を名乗ってきた。
それに対して「…………」と無言で返す。
こんなのに一々返していたらキリがないし、時間の無駄だ。
今までだったら怯えて直ぐにローから離れるか、失礼な男だと言って怒って去る者が大半。
だが、今回の男は厄介なタイプだった。
無視するなと怒鳴ってきたのだ。
全く、ローを同じ貴族とでも思っているのか。
呆れて蔑んだ目を向けると更に憤慨する男。
会場の人間達が騒ぎに気付きざわつく。
恐らく今のでリーシャも騒動に気が付いただろう。
声を出し続ける暇な男に好い加減飽き飽きする。
ここいらで終いにしようと軽く嫌味を言うと思っていた通り、口が止まる。
嘲笑うと次は暴力に走ろうとするのでニヤリと笑う。

(こっちが本分だ……くくく)

内心罠に掛かった馬鹿な男に沸々と湧き上がる衝動を抑えながら避ける準備をする。
だが、相手が事を成す前に止めが入った。
知っている声に振り向くとローの妻が居た。
凛と立つ姿に一瞬目を奪われたが、彼女が相手に対して行った事にギョッとする。
なんと、貴族の令嬢である筈の女が躊躇せずにグラスの水を頭から被ったのだ!
信じられないその光景に、反射的に相手の身体を抱き上げ野次馬の間を早足に進めた。
グラスは適当に入れ替えてから。
呑気に自分のグラスの行方を聞いてくるので苛立ちを感じながら答えて能力で部屋へと急ぐ。

(何であんな事をした?)

乱暴に部屋へ入り思った事を尋ねると既に服が汚れていたからだと全く検討違いな事を述べる。
もういいと思い、脱げと言うと彼女の口から直ぐに拒否を聞く。
だが、最初から聞く気はない。
問答無用だと服を脱がそうとすると変態と言われピクリと反応した。
濡れている女を脱がせて変態呼ばわりされるのは心外だ。
腹が立つ事はなかったが、機嫌は悪くなってきた。
意味は一緒だろうが、そんな事は既にどうでも良い。
変態やら暴言を吐くリーシャに苛立ちが募っていく。
そろそろ黙らせたいと思った時、視線の先に僅かに赤らんだ頬と唇が写る。
暴言は正に羞恥心を隠す為だと思い、ふと悪戯心が湧いて彼女の文句を塞いだ。
目先には大きく目を開ける女の顔。
油断をしている隙に能力で服を剥いだ。
すると、状況を察したリーシャは直ぐに服を返せと手を伸ばすがこの身長差では届かない。
必死に奪おうとしているが、先にやらなければいけない事がある。
取り敢えず彼女を担いで浴室に放り込む。
これでやる事はした。
扉越しに出せと言ってくる女に即答えてからローはソファに身を沈めた。
先程は一瞬だけだったにしろ、焦った事を無かった事にしたい。
思考を平常心にさせると、浴室から小さく叫びが聞こえてきた事により、それさえもどうでも良くなった。



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