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馬車に揺られること数時間、やっと実家の豪邸に着いた。
この場所は富裕層の住む住宅街でいけ好かないお偉方がたくさん密集している。
一匹いたら百匹居ると思ってくれればいい。
出迎えたのはズラリと並ぶメイド達。
良い子になった事を知られない為には幾つか注意しなければいけない事がある。
先ずは基本的にお礼の「ありがとう」「お疲れ様」は言わない。
それを言うと「お嬢様が!」という驚きがあっという間にお屋敷に広がり、やがて父親の耳に入り聞かれるという構図。
後はあまり綺麗な笑顔で笑わない。
何を言っとんじゃと思うが、今世のリーシャの笑顔は悪役笑顔だ。
だから決して綺麗な令嬢バージョンの笑顔を出してはならない。
ローには気付かれるだろうが、結婚してから片手で足りる程しか言葉を交わした事がないので変化後の自分の事など知らないから指摘出来ない。
家だから猫を被っているんだろうとしか思わないだろう。
一々つん、と澄まさないといけないのだ。

「お帰りなさいませ」

執事長とメイド長が先頭に立って迎えてくる。
小さな事からの古株だ。
顔馴染みには変化が知られてしまうかもしれない、という不安はある。

「お父様は」

挨拶もせずに聞くのが令嬢スタイルだ。

「書斎にてお仕事をされております。晩餐の席にて面会が出来ますのでそれまでは用意したお部屋でお休みになられますようと仰せ遣っております」

執事長がスラスラと言葉を述べる。
相も変わらず放置プレイが好きな父親だ(嫌味である)。
夜とかまだまだ先だ。
一眠りする気も起きないので部屋に戻って荷を解いた後、貴族の居るお店へと行く事にした。
部屋を出て玄関に行こうとするとメイドが来て何処へ行くのかと聞いてくる。
報告を一々しないといけないのかと面倒に思いながらも言うと彼女達は慌てて「ご一緒に」と言ってきた。
そう言ってくる事は勿論分かっていたので「邪魔だから着いてこないで」とぞんざいに扱う。
これで我が儘娘っぷりを改めて感じてもらえると嬉しい。
悪役令嬢はご健在だと感じたらしいメイド達は顔を強ばらせて必死に身体をここに縫いつけている。
忍耐力は流石と言うべきか。

「俺が付いて行く」

後ろを向くとローが刀を担いで立っていた。
あの「俺の別荘に何か用か」のポーズだ。
ちなみにその時の台詞は朧気にしか覚えていないから合っているか知らない。
兎に角絶妙なタイミングでやってきたローに更に顔を強ばらせたメイド達。
相手はあの海賊なのだから当然だが。
しかし、直ぐに順応したらしく何処かへ行ってしまう。
父親にでも報告に向かったのだろう。

「行くぞ」

さっさと行ってしまうローにやれやれと顔をしかめて付いて行く他なかった。
本日二度目の馬車に揺られて着いた先は貴族がたくさん利用している店ばかりが立ち並ぶショッピングモールのような場所。
ローは立ち止まると何処へ行きたいのか聞いてきた。

「別行動に致しましょう」

それに分かったと答える素直なローに驚きながらも頷いてもらえた事に安堵。
約束の場所と時間を決めてから人混みに消えた男の姿を確認して、こちらも買い物へと歩みを進めた。
欲しい物やその他の物を求めては購入して袋を腕に下げる。
こういうのは付き従う従者に持たせるべきなのだろうが、生憎袋の中身は他者に預けられる代物ではない。
それから適当にブラリとウィンドウショッピングをしていると耳に小さな声が聞こえた。
黒服の男達が小さな男の子を追いかけている。
彼等の格好から察するにSPだ。
子供だって貴族の格好だから間違いないだろう。
子供は大人達と違ってすばしっこくてあっという間に彼等を撒く。
向こうからは目視できなかった様だが、ここからはどこへ逃げたのか見えた。
好奇心が疼いたリーシャは子供が逃げた所へと向かう。
血肉踊る所ならば、何処へでも向かう女とはわいの事だあ!
コソッと脇道へ向かうと路地裏へ出た。
犯罪の溜まり場みたいな所だ。
ウロウロとしていると子供の泣き声が聞こえた。
そこへ向かうと先程見た貴族の子供が三角座りで薄暗い所にぽつんと居る。
こっそり見ているつもりだったが持っていた袋をうっかり下に落とした。
しまった、大切な物なのに。

「!、誰だ!」

SPとでも思っていたのか、その子は姿を見せると面白いくらい目をまん丸にしてこちらを凝視した。

「アイツ等じゃない?お前……貴族か!?」

この服装で分かった子供は敵意剥き出しで吠えてくる。

「貴族ですわよ」

「何で女がこんなとこにいんだよ!あっち行けよ」

「はい?私が女だからと言う理由で立ち去らなくてはいけないのですか?」

「そうに決まってんだろ!ここは俺が先に見つけたんだ!女は入ってくるイッデエエエエ!!?」

生意気な男尊女卑だ。
ムカついたから頭に拳骨をめり込ませて上げてしんぜました。
貴族という立ち位置で全く握力はないが、振り下ろす力と体格差でかなり力を上げた一振りだ。
痛みに身を悶えさせる子供は涙目で睨んで来た。
これが全く怖くない、寧ろ可愛い。
だから子供は子供なのだ。

「な、何すんだ!貴族の癖に殴ってくるなんてよっ」

「貴方だって貴族でしょう」

「そ、れは……俺は貴族になんてなりたくねェ!」

「貴族はなる、ならないという物ではないですわ」

「うるせー!ならない!俺は貴族なんて嫌いだっ」

「それで逃げたのですか?ご自分のガードマンから」

「見てたのかよ……」

しょんぼりとなる子供は悔しそうに頭から手を離す。
何故彼は貴族を嫌うのか。

「貴族が貴方に何かをしたの?」

「してねェ……けど、父様も母様も皆自分の事ばっかだ。悪い事してる」

「……そんなのは貴族でなくともしますわ」

「浮気もか?」

「当然です」

「香水臭くて男に媚びてんのもか?」

「当然です」

「あんたもか?」

「出来るならばしたいですわ」

「え?」

子供の声にハッとなる。
願望が口から出た。

「貴族でも人ですもの。欲望には忠実なのです。汚い物を汚い物と認識する貴方の価値観はまだ狭くて小さい。だから、今判断するのではなく、これから吟味していきなさい」

「これから……でも、俺、もう此処に居たくない。遠い所に行きたい……!」

「そんな世迷い言は頭の中から消し去るべきだわ」

「うう!お、お前だって!お前だってそう思わないか!?な、なあ!俺を連れてってくれよ!頼むよおお!」

また大泣きし出した子供にふう、と息を吐く。
そして、彼の胸倉をガッと掴んで顔をこれでもかと近付ける。







「舐めるなよ、小僧」

突然の事に泣くのを止めて、信じられないと瞠目する無垢な目。

「泣けば貴族と言う肩書きが無くなると思っているの?貴方は今のままじゃただの“世話の焼ける貴族の子供”として親に頬を打たれるだけのか弱い人間よ。本当に貴族として人生を過ごしたくないのなら今直ぐ泣くのをお止めなさい。私の様に鎖に繋がれて飼い殺されるだけ。今は小さくて力もない。貴方が大人になって誰にも手を出させないようになった時が勝機よ。分かったならもう世話が焼ける子供のふりをするのは止めなさい」

涙で目を腫らした子供はコクリと、唖然とした様子で頷く。

「それでこそよ、少年。さて、泣くのを止めた記念にこれを貴方に上げるわ。これで貴方も大人の第一歩を登るのよ」

にっこりと笑って例の物を差し出した。
素直に受け取ろうとしていた少年の手が不意にその物に釘付けになる。

「これ、父様の机の裏に張り付けてあった物と同じ……」

「あら、なら別の物に……」

「おい」

当然の声にそこへ向くと哀愁を帯びたローが立っていた。
何だろう、今から大切な大人の儀式を始めるのに。









「ガキにヌード写真集渡すの止めろ」



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