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海に出るだろうと考えていたのに、未だローは家に住み着いていた。
間違えた、住んでいた。

(これじゃあ計画が進まないじゃん)

とんだ迷惑だ。
結婚してあげた恩を忘れたのか、このアンポンタンが。

「旦那様、そろそろ海に帰られるんですよね?」

「奥様、その言い方は……」

ええ分かってます、海に帰れは安直過ぎるから伝わればいいと言う気持ちなんです、ええ。
シャチが怖々と口に出すのを無視して相手の目を見るとローは全くこっちを見ずに本をめくって読んでいた。
こっちは紅茶を飲んでいたのだが、このダイニングへやってきて居座ったのだ、この男は。
邪魔だ、凄く邪魔だ。
今すぐ海賊船にでも空島にでも飛んで言って欲しいくらい邪魔であった。
遠回しに帰れと言うのも変に思われるので直接言ったのだが、聞いてもいない。

「旦那様、そう言えば言わなくてはいけない事があります」

「あ?」

そのあ?って言う返事はどうかと思うの。
君の部下でもないのにぞんざい過ぎる。
女の子に対してダメだと思う。

「父から手紙が届きまして実家へと顔を出すように仰せつかっておりますの。ですから明日から実家に帰らせていただきますわ」

恐らく使用人の解雇やらローの動向について聞かれるのだろう。
とてつもなく面倒だし、時間の浪費にしかならない茶番。
そんな時間を趣味に当てていたいからこそ離婚したくなる。
早く準備を終わらせたいものだ。

「ああ……あの男か……お前も難儀な家に生まれたな」

それが幸いして貴族の娘と結婚できたローに言われたくない、豆腐に頭を打ってしまえ。

「ふふ……それでは準備がありますので私はこれで」

ダイニングにある椅子から立ち上がると苛つく気持ちを殺して背を向けた。





翌日、荷物を詰めた馬車を待たせてある外へと廊下を進んでいた。
シャチとペンギン(既に偽名は忘却の彼方である)の顔を見て、家をよろしく頼むと告げる。
彼等はどこか苦笑気味の顔で見てくるのではて、と首を傾げながら玄関へと行く。
馬車の御者がどこか緊張した笑みで扉を開けてくれるのを見ていると、徐々にリーシャも背中をかける悪寒に浸食された。

「遅かったじゃねェか」

「…………何故ここにいらっしゃるのですか?」

旦那が一番乗りしていた。
来ると聞いていないのに。
嫌な意味のサプライズならば大成功だ。
ついでにドッキリもおまけされている。
答えの質問をまだ貰っていないので再度同じ台詞を言う。
すると、彼は得意気なドヤ顔をする。
苛々を助長させるから止めてくんないかな。

「実家に帰るんだろ。俺も行く」

「では何故昨日おっしゃって下さらなかったのですか?朝食の時にも何も言っていなかったですよね?」

「つい五分前に決まった」

(おい)

つい単発なツッコミをしてしまう。
五分前とかどんだけ即決だよ。
言えよ先に。
告げる前に馬車で待つとか、その場過ぎる。
もう何を言っても動かないであろう男に嘆息しながら隣に座った。
馬車の業者がそれに合わせて馬を動かす。
そういえば、転生後の記憶が戻ってから初の馬車だ。
お尻が痛くないようにお尻置きを準備しといたのだが、これはなかなか快適だ。
勿論一人で行くつもりだったので一人分しかない。
ローは元々海賊だし、こんな程度で痛むヤワなお尻は持っていないだろうから、別に気にしない事にした。
ガラガラと揺れる馬車は現大力(げんだいりき)の文明である車、自転車の乗り心地には遠く及ばない。
そういえば、麦藁海賊団の船員の一人であるオレンジが好きなナミと言う女性が乗っていた、海の上を走れる乗り物はとても楽しそうだった。
あれにとても乗ってみたい。
空島編で乗っていた雲の上にも挑んでみたいと欲望がふと湧いた。
やっぱり麦藁海賊に入りたいな。
思考をあちこち飛ばしていると不意にローが声を発したので振り向く。

「何でしょう」

「お前について考察した」

「はあ……?」

全く脈絡を得ない言葉に空気の抜ける声を出す。
考察した、と言われても。

「色々考えた。例えば改心した、何かを体験してしまった」

もしかして、悪役令嬢だった自分が普通の令嬢になった経緯の話をしているのだろうか。

「俺を騙す。演技をしている」

騙してなんの得がある。
女は皆大女優だ覚えておけ。

「最後に行き着いたのは、記憶喪失と入れ替わりだ」

「……!」

(図星だっていう驚き)

そんな風に驚いた場合、ビンゴと相手は勝手に思ってくれる。
自分としては入れ替えの方に驚いた。
影武者が令嬢のフリをしているとかいうのが人間のセオリーだが、宇宙のセオリーは転生だ。
ある意味では入れ替えというのは結構近いかもしれない。
ローはどちらに思ったのか。
記憶喪失ならば説明出来ない事も納得出来るだろう。
いきなり人が変わると不審に思われるのは当然だ。
でも、リーシャが前世の悪役令嬢の性格へとしなかったのはローがリーシャの存在を殆ど無いものとしていたからに他ならない。
なのに、リーシャの顔も碌に見たことがない癖に散々好き勝手を言ってくれる。
勿論半分正解だ。

(でも、ほったらかしにしといて偽物とか記憶喪失とか言われるのは案外腹が立つ)

「旦那様、貴方はお忘れですね。私達はただただ利益の為に結婚しただけの仮初めの夫婦と言う事を。余計な詮索はご自分に返ってきますわよ?」

久々に悪役令嬢の悪役顔と台詞が出た。
今世の自分も自分に他ならないから演技でもない本気の言葉である。
ロマンのある恋愛結婚を夢見ていたのにてめぇのせいでぶち壊しだよ、と今でも根に持っているのに、そんな事を言われてリーシャは今とてもご立腹です。
目がいってると言われる笑みで言うと、ローは目をを大きく見開いて「確かにそうだな」と納得した模様。
乙女の夢を返してもらうには離婚するしかない。
その為にローとの苦肉の同居生活を我慢しているのだ。
ローは自由に海へ出て、彼を慕う仲間と好きに楽しく冒険出来る。
けれどリーシャは王下七武海の一人と妻として地に居続けなければいけない。
妻なのに海にすら連れて行ってくれないのだ。
政略結婚で好きでもない女を連れていく理由など無いから。
それだけのくだらない己の満身の為の、勝手な事で自分は好きな事が全く出来ない。
どれほどそれが苦しい事なのか彼には決して分かる訳がないのだ。
誰も彼もが勝手に夫婦として添い遂げよと言う。
何不自由無い生活が出来るのならばと誰もがそう思っている。
満足なのは身体だけで心は全く空っぽな人生だ。

「そんなに顰めっ面をしてるとシワになるぞ」

「……放っておいて下さいませ」

急に話し掛けてくるなんて。
さっきの言葉でもう話しかけて来ることはないと思っていた。
そりゃあこんな小娘の脅しと殺気なんかで威圧される男ならば海賊をしていないか。

「そうもいかねェ」

「そうでしたわね。父に不仲だと文句を言われますわ」

主にリーシャが。
七武海のローに釘を刺すなんて真似が出来る父ならば娘を生け贄になんて差し出さない。

「それもあるが……」

「何をなさっておりますの」

隣に座っていたローが肩が引っ付くくらいの距離まで寄ってきて肩を掴んで寄せた。
恋人がするみたいに寄り合う。
抗議を込めて声を出すとクスッと笑う旦那(仮)。

「今から仲が良いように見せる為の練習だ」

「別に必要ありません。貴方が一番面倒な事なのでは?」

いつローと仲が良いような事があったのか。
馴れ合いが好きではない筈のローをジト目で見た。



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