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09


ローが脱げ脱げと煩いので平手打ちしたくなるのは仕方がないと思う。
殴りたくて殴りたくて殴り倒したい。
亭主関白、今休業中なんだけど。
従う従僕(じゅうぼく)な妻を演じる気力は既に尽きているのだ。
ムカつくので無視していると、あろう事か脱がしてきた。
既に手をかけている状態で、彼の手の上に手を乗せる。

「脱ぎません。離して下さい」

「風邪を引く」

「構いません。旦那様も私の事は気にせず寝て下さって構いませんわ」

寝る為に部屋へ入ったのではなかったのかよ。
苛々する気持ちを押さえて静かに言うと、今度はローが苛々した声音で言い返してきた。

「お前から俺はどんな鬼畜に写ってるんだ」

「どんなとは、今正に脱がしていますその姿以外にございましょうか?」

相手の言葉を取って返すとプチっという微かな音と共に留め具が壊れた。
この男はドレスを何だと思ってんだ。
確かにクローゼットには服が入ってるかもしれないが、ドレス一着幾(いく)らだと思ってんだこいつ。
おっと、つい前世の金銭感覚でものを言ってしまった。
そうだ、今の自分はお金持ちの側だった。
ついつい大昔の感覚に引きずられて内心苦笑。

「お止め下さい、変態の称号を与えますよ?」

「何とでも言え」

本当にシレッと気にしていない風に言うので、此処(ここ)までかと思うくらい色々口に出して、考えられる限りの言葉をぶつける。
そして、徐々に不機嫌になっていく顔に勝機は近いと踏む。
女に此処(ここ)まで言われて黙っていられるかな?
ドレスは見た目以上に厄介で、着るのも脱ぐのも時間が掛かるのだ。
手間取っているらしいローに続々と変態と浴びせる。

「さっきからごちゃごちゃ煩ェ」

「!」

それはほんの一瞬の隙だった。
集中して脱がされ掛けている事がなければ避けられるか防げただろう。
唇を奪われた。
その単純で明快で確かな事実は数々の思考を停止させるには十分過ぎた。
止まってからは、どこに隠し持っていたのか、愛刀を手に持ち唇を離す。

「スキャン」

「?……な!」

服が一瞬で無くなった。
スキャンて、コピーとか取り込むとか言う意味じゃないの!?
と混乱。

「か、返して……!」

つい敬語を忘れ、ローの手の中にあるドレスを奪い返そうと手を伸ばす。
しかし、ひらりと避けられそのまま肩に担がれる。
ほぼ下着だけの姿で担がれるとスタスタと扉を開く男に目を白黒させた。
開けた先で見たのは浴室だった。
降ろされて立ち尽くしているとドアをパタンと閉められて閉じこめられる。
向こう側に居るローにドア越しで抗議すると早く入れと言われた。

「温めるまで此処(ここ)からは出さねェ」

その言葉に本気だと脱力する。
風邪を引かれると困るのはローのみだ。
という事だろうか。
別にリーシャは引いたって気にしないのに。
納得出来ないままシャワーを浴びてお望み通りにお湯を染み込ませた。
染み込ませた、は可笑しな表現かもしれないが、特に気にする事ではない。
ザーッとシャワーに当たっていると、不意にローがキスした瞬間がフラッシュバックして忘れようとしていたのに思い出す。
赤面する顔やシャワーよりも熱い温度になった身体に、声にならない羞恥心の悲鳴を上げた。








転生して初めての接吻の相手が旦那だと?ロマンを詰め込み過ぎて酷い。
まだ好き同士なら良いのに好きじゃないとか絶望的過ぎる。
こうなったらキスをした過去を亡き者にしよう。
そうしよう、良い考えだウンウン。

「旦那様」

「あ?」

ノックをして優雅に挨拶。
今まで部屋に居なかったのに面倒だ。

「準備が出来ました」

「朝食か……まァ此処(ここ)に居る間は食べるしかねェか」

(仕方ないならとっとと出てけよ政略婚野郎)

おっと思わず悪態が、私ったらおほほほほ。

「ささ、どうぞ」

妻らしく扉を引いて誘導する。
朝食が用意されているダイニングには沢山の。

「………………一体何の真似だ」

怒気(どき)を含んだ声音で問うローに朝のフレッシュもぎたて笑顔で答えてあげた。

「メニューは朝露(あさつゆ)のレクイエムですわ」

レクイエム、又は死者へ捧げる歌。
ずらりと並ぶのは芳ばしい香りではなく死期の雰囲気を放つ棺桶だ。
一つだけではなく幾つもある。
色んな種類があって、丸いのから四角、定番の形まで揃っていた。

「何の真似だと聞いたんだ」

「こちらの台詞ですわ旦那様……いえ、この泥棒虎さん」

これは泥棒猫とかけたのだが、猫科というのも含んだのだが伝わっただろうか?
結構良い言葉を選んだと思う。

「泥棒虎だァ?」

「胸に手を当ててよく考えて下さいませ。嗚呼、この前購入したブラジャーを付けているので心音は聞き取り難かったですわね。申し訳ございません、気付かない不肖(ふしょう)の妻で」

棺桶の近くに配置していた使用人のペンギンとシャチが下着の存在を知って顔を青白くした。
それはそれは多大なダメージだっただろう。
憧れの船長が変態の趣味を持っていただなんて。

「下着なんて付けるかっ!あれは既に破棄した!おい!今の聞いてたか!?」

こめかみに汗を滲ませて使用人二人に弁解するローは見ていて面白かった。



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