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「#エロ」のBL小説を読む
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02


「おい、おれが来たのに反応もなしか?」

「招いてないのに来るから」

休日の昼間にローが家に不法侵入してきた。
いつものことなので放置しておく。
そうすると、我が儘を言い出してきた。
溜め息を付いて口にする。
相手は不服そうにこちらを見ていた。
だが、もう反応しない。
相手にするのもエネルギーがいるのだ。
そうして放置しているとローがこちらに来て後ろからそっと抱き締めてくる。

「寒い」

「彼女にでも暖めてもらえば」

ベリッと剥がして言えば、ローは目を見開き「何で知ってんだ」と驚いた声音で聞いてきた。
何を言っているのか、と意味が分からなかったが彼女の部分に驚いた事は分かる。
つまり、彼女がいるわけだ。
その事を直ぐに理解すると目を細める。

「彼女居るくせに私にこういう事するのはどうかと思う」

「違う。彼女は彼女でも女除けの疑似彼女だ。相手も納得しておれの女になってる」

いきなりの事実に開いた口が塞がらない。

「それ、最低」

「同意だ。相手も合意して契約したからお互い様」

「へえ」

到底呆れた声音しか出てこない。
まさか、そんな理由で彼女を作るとは。
吐き出した溜息に反応したローはあくまで擬人彼女だ、と何度も説明してくる。
分かったから、と飽きるくらい言うのに彼は納得していないみたいだ。
げんなりとなりながらソファにもたれ掛かる。
そのタイミングでお茶を注いできた男にもう何も言えない。
彼女が出来たが、その子の事は好きではないと言いたい事は良く分かった。
女避けを作りたくなるほどモテる事も知っていたので自他共に認めるしかない。
否、何故自分がローの彼女について納得して認めているのだ、と目を覚ます。

(私に何の関係もない事でしょ……ローに毒されてる)

長年培われた考えに自身で辟易とした。



***



LAW side



疑似彼女を作った。
それを奇しくもリーシャに知られてしまった。
若干気落ちしつつ学校へ向かう。
すると、朝から煩い麦藁帽子の少年が背中を叩いてきた。
バシン、と叩かれた背中が痛む。
睨み付けながら振り返ると太陽よりも眩しい笑顔をした男が居た。
睨む事も気にせずニカリと笑う姿に腹立たしい気持ちが萎えていく。
全く不思議な少年だ。
おはようトラ男と言ってくるルフィにああ、と気だるく返す。
朝は特に得意でもなく、不可でもないが目の下の隈が絶えないので周りからよく心配される。

「そういやァ、お前、カノジョ出来たんだってな!良かったな!」

「なんも良いことねェ。悪いことしか身に起きてねェよ」

「そうなのか?」

目をただひたすら純粋に丸くする相手に毒牙がジワジワと浄化されていく。
恐らくローが彼女を作った邪な理由等分からないのだろう。
この男は前からそういう奴であった。
もしかして、見習えばルフィの様に彼女に好かれるのかもしれない。
ルフィは見た目と中身のお陰で年下からも年上からも好かれている。
ローの様に官能的な要素に惹かれてやってくる女達とは違い、ルフィの場合は人タラシと言ってもいいくらいの人気を博していた。
ある意味恐ろしい宿敵にも思う。
羨ましくて、ローにはとても真似できない事を意図も簡単にやってのける。

「麦藁、朝っぱらから声がデカい」

「おー!ブルータス!」

「ユースタスだ……!」

見事に名前を覚えていないルフィに声を掛けてきたのはキッド。
キッドは頭痛がしていそうな顔つきでこちらにやってくる。
朝からこちらがあの濃い顔を見なければいけないのもタルい。
キッドをチラッと横目で見てから再び歩調を早めた。

「お、トラ男。学校にそんなに行きてェのか!」

「ああ。そういう事にしとく」

ルフィに説明して、伝わる可能性が低いので適当にあしらった。
さっさと教室に行ってしまおうと考えていると、又もや呼び止められてしまう。
その声は聞き覚えのあるもの。

「朝からローさんに会えるなんて幸せです!」

キャスケット帽がトレードマークでサングラスを掛けている風変わりな生徒。
この男子の名はシャチ。
中学生らしいが、何故か懐かれている。
出会いは長くなるので回想をするのすら面倒臭い。
そして、もう一人居る。

「ペンギンは一緒じゃねェんだな」

「あ〜。あいつ。風邪引いてんすよ」

ペンギンとは、とても年下には思えないシャチと同じ学年の中学生だ。
風邪を引いたとは驚きである。
しっかりしている男だから健康にも気を遣っている筈だった。
なのに、そんな几帳面な奴が何故菌を体内に取り込んだのだろうか。

「いやあ、おれの風邪が移っちゃったみたいです……!」

「……ペンギンが哀れだな」



***



大学の帰り際、ローの顔が遠目に見えて咄嗟に道の四角に隠れた。
理由は簡単、彼女らしき女子生徒が彼の隣に見えたからだ。
どうして隠れたのだろうと考えたが、別に姿を現して何気なく通ればいいだけなのだが。
それをするには少し勇気がいるだろう。
よし、と気を取り直して道から出る。
出来るだけ顔を俯き加減で歩く。
仕方ない、通り道がローの行く道と同じなのだ。
何となく付けているような歩き方になっているが。
しかし、彼女の方はこちらの帰り道なのだろうか。
女の方の顔はここら辺で見た事がない。

「ねえ、トラファルガーくん」

「……」

「その、付き合って少し立つのに、家に−−」

「不合格」

「え?」

「クビだ。今日からもうおれの隣に並ぶな」

「な……!?え、ど、どうして!?もしかして、家に行きたいって言ったから?……じゃあさっきの無かった事にし−−」

「同じ事を言わせるな。契約違反をする奴にもう用はねェ」

「!――っ……!」

後ろをいきなり向いた彼女は泣きながらリーシャの後ろを去っていく。
ローの冷たい声音を初めて聞いた。
自分の知っているローの様子と全く違ったので、唖然とする。
手酷く振る男の顔は見えない。
呆然とした顔つきでローを見ていると視線に気付いたのかは分からないが、彼が後ろを振り返る。
ローとリーシャの視線が交差した時、彼の顔が驚きに破顔する。
バツの悪い顔をした相手はソッと立ち止まると、こちらの歩幅に合わせて歩き出した。
さっきの今でよく一緒に帰ろうと思ったものだ。
ローのメンタルを疑う。

「さっきの、見たか」

ローにしては歯切れが悪い。

「うん」

隠す理由もないので肯定する。

「おれの事を軽蔑したか」

ローが唐突に止まるので一歩分前に進んだまま顔を後ろにやって男を見る。
彼の目がゆらりと不安と戸惑いに揺れているように思った。
けど、人が困惑している事を見抜けるようなスキルは生憎備わっていない。
不安に思っているのかも分からない。
けど、そこで否定してはいけないな、と感が答える。
どう答えれば納得するのだろうか。
考えて、考えて、少し悩んだ。

「別に」

それが精一杯だった。
だが、ローは強ばらせていた顔を、安堵した顔で緩める。

「そうか……フフフ」

そして、嬉しそうに喉を鳴らした。









明くる日、という言葉を使うのは何度目か。
もう忘れてしまう程使用しただろう。
でも、また使う。
でないとやっていられない。
ので、ここで今日の出来事を簡潔に言ってみよう。
ローの友達が来た。
しかも、ローの家に、だ。
あの子供に友達が居たというのも驚いたが、家に招いたのも初見である。
何故かキャスケット帽とペンギンと名前が書いてある帽子を被っている子が家に入っていくのを見た。
あんなに易々と入れるなんて。
現実逃避ではないが、現実ではないのだろうかと一瞬疑った。
しかし、問題はそれからだ。
あのローにおもてなしが出来るのだろうか。
……想像出来ない。
あるならば、女王様の様にジュースを注がせるイメージが精々である。
リーシャと居る時は、こちらには手伝いなんてさせないし、ローが自ら動く。
それくらいローは渾身的な子である。

(ローの傍に寄る子も変わり者な事は間違いないな)

――ピンポーン

インターホンが聞こえた。
玄関に向かっていく。
宅配便ら辺かなと思いながら扉を開けると目を大きく見開く。
なんと、先程見かけた人達を連れてローが門の前に居た。
何故ここに連れてきたのか疑問が渦巻く。
それを顔には絶対に出さないが。

「お前を紹介する為に来た」

「ふうん」

何気なく言っているが、心の中は戸惑いに溢れていた。
せめてのもてなしとしてお茶を出すことにした。
ローが勝手に訪問してきたにしろ、お客様でもあるし、家に上げたのは自分だ。

「手伝う」

後ろを向くとキッチンに入る所にローが立っていた。

「手伝うにしてもお茶しかする事ないけど」

「全部する」

というので、ソッと退く。
ローはササッとお茶を入れていくと四人分ある。
恐らくリーシャの分だ。
いつの間に用意したのだろう。
一応ローの分も含めて三人分しかなかったのに。
ローは用意をしながら器用に彼等の事を話し始めた。
シャチとペンギンという二人はローの後輩で中学生らしい。
何故顔を合わさせようと思ったのかは分からないが、ローにこういう行動をさせるという事は、相当彼等を気に入っているのだと伝わってくる。

「あいつ等は騒がしいが根は真面目な奴らだ。保証する」

「ふうん」

(真面目ね)

ローに言われるなんてよっぽどな中学生らしい。
リーシャは別に真面目な優等生という事ではなかったが、ただ成り行きで中学も高校も生活した。
そんな彼等は随分と青春を謳歌しているらしい。
今だってわいわいと会話している声が聞こえてくる。
ローとは種類の違う人間だ。
何故彼等が出会ったのか少しだけ気になった。

(また賑やかになりそう)

こっちの大学生活でも随分と周りが賑やかになっているのに。
特に何か行動をしたわけではないのに、何故こうも集まってくるのか理解に苦しむ。
でも、

(不快、じゃないんだよね)

寧ろ、ほんの少しだけ、居心地の良さを感じる。
お茶と適当に何か摘まめるお菓子を乗せたお盆を携えて居間に向かう。
因みにお盆を持っているのはローだ。
火傷するかもしれないという過保護な言葉と共に、有無も言わさずにかっ浚われた。
別にそこまで抜けているとは思わないのに、と納得は出来なかったが、運ぶと言うので成り行きに流される事にする。
ローは何故かそういう所は融通が効かない。

「あ、な、何か気を遣わせてすいませんっ」

「おれ、やります」

シャチと呼ばれる青年が気が付いて苦笑し、ペンギンという生真面目な雰囲気が漂う青年もテーブルに置かれたお茶を各自置いた。
本当に真面目だ、と感心する。
ローの様に変態要素は含んでいる気配は今のところない。
腰を下ろして落ち着いたところで二人の中学生の視線がこちらに向いている事に居心地の悪さを感じる。

「初めまして……」

「は、初めまして!おれ、シャチって言いますっ」

「ペンギンです」

仕方なくこちらから声を発する、と待ってましたと言わんばかりに返ってくる言葉。
四人も部屋に居ればかなり賑やかに思う。
お茶を一口飲んだローがまるで自分の事のようにリーシャを紹介する。

「リーシャはあんまり喋る様な性格じゃねェから覚えとけ」

「うすっ」

「分かりました」

たくさん質問されたら困ると思っていた矢先の言葉に内心安堵した。



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