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05


kid side

麦藁のルフィに花見に誘われた時は正直断ろうかと思っていた。
しかし、ルフィとローとキッドで話している時にローへルフィが「リーシャも来るんだ。トラ男、一緒に来いよな」と言っていた事がとても気に掛かったのだ。
どうやら女みたいな名前だから女なのだろうと予想を立ててその女に一目会いたくなった。
何故ならローが「それなら行く」と言ったからである。
これまでローが嫌そうに面倒そうにダルそうに言わなかった試しがない。
それに密かに驚いて、断らずにローにこんな風にイエスと言わせてしまう存在を見に行こうと決めた。

「ユースタス屋。お前何か企んでねェか。顔がいつもより五割程悪役面になりかけてる」

「煩ェっ!机の角に頭ぶつけやがれ!」

絶対に弱みを握ってやる。
メラメラと炎を燃やした。
花見当日になってルフィに車の中に押し込められて進むと噴水の前で止まる。

「トラ男とリーシャ回収すっぞ!」

噂の女の名前に首が長くなる。
見た感じでは普通だ。
ルフィの友人とか言うナミという女の方が振り返ってしまう美人ならばローの隣にいる女は平凡。
特徴を聞かれてもパッと思い出せないくらいだ。
何かローの弱みでも握っているのだろうか、と思ったが会話では何か命令している風でもなく淡々としていた。
しかし、キッドの口を開けさせてしまう事があったのだ。
それは花見の場所に着いた時で、女が数歩歩いて少し歩くのが遅くなった時。
ローが手を握った。
リーシャと言われていた女の手にロー自ら繋ぎに言ったのだ。
あんぐり、となるのも当然と言えよう。
此処で重要なのはローが自ら行動したという点だ。
学校の女を嫌っている風にあしらう姿が記憶に未だ残っている。
女嫌いかとも思っていたが、違ったらしい。
嫌いならば自分から行動して行かないだろう。
今起こっている事を冷静に分析しようと被りを振るとローの顔は見えないが、雰囲気がまるで長年寄り添った夫婦の空気を作り出している。
一体彼女は何者なのだ。
ローをあんな風に行動させて、女も特に何かをやったわけでもなく喜んでもいない。
学校に居る女子なら溶けそうな顔をしていただろうと予想。
黄色い声が絶えない王子様となっていたローの姿を想像してそれは有り得ないな、と顔を不機嫌に歪める。
自分で想像しておいて歪めるのも本末転倒なのだが。
ローは女子に冷たくするのがデフォルトだと思っていたが、どうやら認識を少し変えなければいけないようだ。
しかも、よく見たら前にローの生徒手帳にあった写真の少女だと思い出す。
あのローの笑みと今の態度を考えると幼なじみという関係が妥当だ。
それか従姉妹や隣に住む人間、友達には思えない。
二人の関係を考えているとローが目の前に立っている事に気付くのに遅れた。

「何だトラファルガー」

「ユースタス屋、さっきから俺とあいつを見てただろ」

「は?お前考えすぎ」

誤魔化すのは何をされるのか分かったものではないからだ。
取り敢えず的外れだと言っておく。

「別にお前が俺を見ても何とも思わねェ。けどな……リーシャの事は考えるな」

(マジで言ってんのか?)

彼女の事だけは、と強調するローに冷や汗をかく。
それ程までに執着しているのかとローの底知れぬ何かに触れてしまいそうだ。
そんなのは御免である。

「へーへー分かったよ……お前マジか?」

兎に角確認してみたくなって聞けばニヤリと笑う顔を浮かべる。
それに、確信を得られてこの二人の組み合わせに下手に触らない方が身の為だと学習した。
もし、彼女に惚れた腫れた、なんて事になった場合キッドの明日は無いだろう。
自分も早く自分だけの運命に出会ってしまいたいと思った。



***



ナミ達と協力し合ってシートや食べ物を取り出して花見の準備を終わらせた。
エースがルフィによくお肉を強請られるのでバーベキューセットを一式所持しているからそれを今回も持ってきたと言って車から取り出してくる。
その金属の擦れる音にルフィは早速感知して飛んできた。

「やんのかバーベキュー!?肉!肉!」

「おう。良いの買ってきたから期待しとけよルフィ」

エースの笑顔にルフィは感無量で喜んで跳ねる。
それをただポヤンと見ているとローがこちらに来て「火拳屋、野菜もちゃんと入れろ」と言った。

「何言ってんだトラ男!世の中は肉だ!肉で回ってんだぞ」

「何言ってやがる。此処にはお前一人じゃねェ。んな偏らせて食ったら胃が凭(もた)れる」

二人の言い合いにエースが周りに聞こえない程度の声で「肉将軍と野菜将軍の戦いだな」と笑っていた。
この人ならちゃんと肉と野菜を平等に焼いてくれそうだ。
ローの心配も杞憂に終わるだろう。
周りも同じくらいの賑わいなので他の人達も盛り上がってきた。
その盛り上がってきた空気に付いていけてないのは予想出来たので黙々と食べる事に集中する。

「リーシャ」

呼ばれて振り返るとナミが居て、手に何か小さな容器を持っていた。
何だろうと中身を見てみればナミが気分良さげに笑う。

「サンジくんがデザート持ってきてくれたの。ほら、リーシャの分」

「ありがとう。サンジくん、どこに居るの?」

彼にも作ってくれたお礼を言わなくては。
ナミから容器を受け取ってスプーンも貰うとサンジの居る所へ向かう。
シートは人数よりも広いので軽く移動しなければいけない。
彼を探して周りを見るとルフィの隣に居た。
何か抗議しているようだ。

「ナミ達ばっかずりィ〜!俺のデザート来れ、サンジ!」

「ばーか。用意してっかよ。だが、軽いものなら持ってきた」

「「サンジー!」」

ルフィとウソップが目をキラキラさせて喜ぶ。
サンジは美味しいものを作れて人を笑顔に出来る。
そういう所がほんの少し羨ましい。
だが、そういうのはミーハーのような気持ちで、自分が成れるとは全く思っていないから、ただ単に「そういうのも良いな」程度だ。
それから花見も夜中まで続く。
何故かルフィが周りの花見に来ていた人達と意気投合していたり。
ウソップとフランキーが何かの台を作成して、ペポとチョッパーの犬達に何かを括り付けていた。
先程ローがウソップを「怪我させたらこの世に生まれた事を後悔させてやるからな」と脅していたり。

「綺麗……」

桜の舞う風景にぽつりと零す。
こんな風に何かを美しく思えるなんて自分の事ながら珍しいと思った。

「リーシャ、これ飲むか」

後ろから声を掛けられてローだと分かっていたので頷く。
お茶の入ったコップだったらしく液体が茶色だった。
しんみりとなる何かを胸に感じてコップの中身を減らす頃にはローが隣に座っていたので放っておく。
来年も、この先も、こんな風に何かをする時は賑やかなのかと、ふと思う。

「今日は来て良かったか」

ローが聞くなんて思わなかった。
普通主催者の人達が聞くのでは。

「来年、来たいって思う程度には」

上手く言い表せなくて変な言い回しをしてしまった。
少し歪んだ意固地な自分の性格が邪魔をする。
しかし、ローはそれに口元を上げた。

「じゃあ、来年も行けば良い」

何と上から目線な言葉なのだろう。
背中を押される感覚に来年も行けるのだと、密かに楽しみが出来た。



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