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07


ローの高校の文化祭へ招待されたが、どうも行く気になれない。
一年生と二年生の時にちらりと行ったのだが、ローには学校で近寄らないでおこうと思ったものだ。
何故か、それは。

『トラファルガー。これ着てくれよ』

『断る。お前が着ろ』

『トラファルガーくん。これってどう思う?』

『トラファルガーくん。こっち来て欲しい。届かなくて』

『梯子使えば済むだろ』

リア充も満足な高校生ライフを見せつけられたからだ。
嗚呼、住む世界が違うのだなと悟った。
それに、下手に近寄ってローの事が好きな子に恨まれたり嫉妬されるのは本心でもなんでもない。
面倒な事はとことん避けたい。

『何故来なかった』

こっそり帰ったら問いつめられた。
行ったけど、と伝えると不満そうな顔で二日間見られて辟易したのを今でも覚えている。
腹が立つ。
リア充スクールライフを見せつけられて気軽に声が掛けられるのなら、とっくに友人を沢山作れているだろう。

「今回はボーカルをする」

(ちっ)

そのポジションになるにはそれなりのクラスでの人気が得られないと貰えないだろう。
それをシレッと告げられるローは自分がどんなに良い役を貰えたか分かっているのか。
ジト目でローを見て無意識の自慢をされて気持ちのテンションが下がる。
行きたくない。
その言葉一つである。
胡乱になるリーシャは「気が向いたら考えとく」とローがしつこくなるのが嫌なので適当に返事をした。




文化祭があると言われた日、連休と重なったので暇を潰していたリーシャはテーブルに置いてあるパンフレットを見る。
このパンフレットを見るのは四回目だ。
家の中にトラップのように幾つもあるのでローが用意したのだろうと遠い目をする。
余程来て欲しいらしい。
行かなければどんな鬱陶しい目線を向けられるのだろうかと想像して胸が重くなる。
溜め息を三度吐いて幸せを出す。
よっ、と立ち上がって身体を解すと、いそいそと部屋に向かい自室に入る。
着替えを取り出して無難な服を選び着替えた。

(高校近いし、まー良いか)

遠かったら行かなかったが、近めの距離なので行き易い。
気だるい気持ちで外へ出て扉に鍵を掛けると自転車に跨がってダルダルと漕ぐ。
十分程で行ける距離を倍の時間をかけて向かう。
近くになればなる程賑やかさが伝わってきた。
バルーンアーチを潜って前を見ると老若男女、学校の生徒による出店がある。
チケット制ではなく現金制らしい。
パンフレットを読み込んでいたから頭に入っているのだ。
別に興味があったとかではなくて暇だったから手にとって中を読んだだけなので特に楽しもうという気はない。
ただ飲み食いしようかな、という軽い気持ちだ。

(バナナチョコレート……焼きそば、うどん)

様々な食べ物を吟味(ぎんみ)しながら歩く。
ローのクラス主催のボーカルはお昼かららしい。
満員でなかったら聞いてもいいかもしれない。
購入したクレープやお好み焼きを食べながら体育館へ向かう。
お腹が満たされて満足したので体育館へ入るとまだ時間になっていなかったので座る場所はないかと探す。

(満席……何で?)

これでは立つしか選択肢はない。
少しだけ待っても人は立ち上がらなくて、誰も動かない。

(立つの面倒……)

鬱蒼となる気持ちでロー達のクラスの出し物が始まるのを待っていると、司会者の紹介でローのクラスが出てくる。
最後にボーカルと言っていたローが出てきた。

「それでは−−−のミュージック!」

クラスの出し物である演奏が始まると女子の声が強くなる。

「「「ローくーん!」」」

「トラファルガーく〜ん!格好いい!」

「「「きゃあああ!!」」」

叫び声と歓声が会場に響く。

「うわ……」

正直ここまでとは思っていなかった。
軽く引く。

(どんだけ人気なの)

ローはまるでアイドルだ。
アイドルのボーカルが歌っているような幻覚が見えてきた。
上にミラーボールが回っていたとしても違和感はないだろう。

(キラキラしてる)

周りがキラキラしている。
ローが二曲目になると会場のテンションが最高潮になった。
もう歓声が多すぎてあまり声が聞こえない。
しかし、それにしてもローは歌が上手かった。
初めて知った事に、ローの事を新たに知ったとぼんやり思う。
別に知っても何の得にも益にもならないが。
一年の頃よりもファンが増えている事も知ったので、よくこの歓声に耐えられるな、とある意味感心する。

「これで−−−よる出し物は終わりです。次の−−−」

司会者の言葉にクラスの子達はステージを去る。
その瞬間、会場から人がザッと去っていく。
あまりにあっという間居なくなったので会場が寂しい風景へとなる。
ポツポツとしか人が居ないのだ。
殺風景、閑古鳥が鳴いている。
まさにこの言葉に限る、とうっすら思う。
次に出てきたクラスはどこかテンションが落ちていた気がしたが、気のせいではないだろう。
可哀想というか、運が悪いというか。
もう少ししたら人が入ってくるだろうと思いながら会場を後にした。
お菓子系の出店で三つ程買ってから学内の方も回ろうと気怠げに歩き出す。
気怠げに、と言う言葉を使うと楽だ。

(ローのクラスは出し物だから出店しないんだっけ)

パンフレットを片手に教室を見て回るとお化け屋敷や射的撃ち等といった文化祭にやりそうなものが目に付く。
お化け屋敷に入ろうと列に並ぶと教室の中から悲鳴が聞こえてくる。
自分が高校の時にも一人でお化け屋敷に入った事があるが、特に何とも思わなかったのでホイホイと歩いたものだ。
元々ホラー映画等を見てもあまり怖くなくて、突然画面が切り替わって何かが出てくるというびっくり系は背筋が凍る事は無かった。
けれど、びっくりする時の突然出てくる意味では少し「お」となる。
楽しくもなく悲しくもなく。
リーシャの番になると受付の女子生徒が足下に気を付けて下さいと注意してくるのを流し聞きながら中へ入る。
中は薄暗くてあまり視界が役に立たない。
ダンボールで囲ってあるらしく少し硬めの壁を伝いながら移動。
足に何かが触れたり腕に何かが触れたり。
何か触れるオンパレード。
特に何かを叫ぶ事もなく通過していくと「おい恐がらなかったぞ」「凄ェ」等という言葉が耳に聞こえていた。
生徒達の会話なので聞いていないフリをしよう。
サクサクと歩いていると出口が見えてきたのでもっと早く歩みが進む。
出口に出ると係員の生徒がありがとうございました、と言われる。
それに軽く会釈(えしゃく)してから、そこから去った。
射的もやりたくなってきたので何となく教室に入ってやってみる。
なかなか当たらないので内心どうしよう、と思っていると、このクラスがざわめく。
トラファルガーと聞こえて何と間の悪いと眉を顰(ひそ)める。
後ろを向くに向けなくなってそのまま射的を進めると一発撃つ。
しかし、当たらない。
何かに長けてもいない自分がやっても当たらないのは分かっていたので悲しくはない。
二発目を撃とうとすると横に並ぶ人。
ちらりと横を向くと見事に目が合い顔を見られてしまう。

「………………」

「………………」

お互い数秒間黙り、そっと相手はリーシャの持つ玩具の鉄砲を横から取る。
手の力を抜いていたので向上するみたいになってしまう。
相手−−ローはそのまま鉄砲を前に構えると景品をパコ、と落とす。
その度に煩い黄色い声が聞こえてくる。

(人の鉄砲奪ったのにスルーなの?)

煩いな、と耳を塞ぎたくなるのを抑えていればニヤリと笑う口元が見えた。
彼はこちらに鉄砲を最後に向けるとカチンと音がして弾が無いのに不発を撃つ。

「撃った景品は貰えるのか」

ローがそう問うとクラスの男女が頷いて先程撃ち落とした景品を渡してくる。

「さんきゅ」

(私に銃口向けた事もスルーなんだ)

クラスのスルー確率が高くて突っ込みが追い付かない。
携帯に着信の音とバイブを感じたので画面を開けるとメールが来ていた。
見てみると目の前に居るローからで『この先にある階段で待ってる』と書いてある。
それに『嫌』と単語で返す。
またまたその返事に『景品として落としただろ。それにここで話しかけられたくないだろ?』と書かれていたのでムッとなる。
脅しか、この私に脅しをしているのかと苛々してくると、ここに留まる理由もないので少し荒めに教室を後にした。
ローの言う事なんて聞くものか。
早足で並ぶ教室の間を進んでいると後ろから手を引かれる。

「怒ったのか」

「彼氏面しないで、ていうか」

この一言を一番言いたい。

「彼氏面してないだろ」

不思議そうに首を傾げるローは何を説明したとしても無駄だと悟るには十分な反応だ。
無視して手を振り払って帰ろう、と学校の入り口に向かう。
最近、ローの小さな束縛というか、言葉が目立ってきている。
ただの幼なじみ、お隣の関係で何かを言われる筋合い等ないのだ。

「待て……何か怒ったなら謝る。だから行くなっ」

理由を知らないと謝る事は何の意味もなさないのではないか。
ムカつく胸を秘めて内心呟くと溜息を吐く。

「もういい。帰るし。ローは自分のクラスでも出店でも回れば?」

ほっぽって行こうとすると慌てて付いてくるロー。
付いてくんな、と言っても聞かない。
こういう所をどうにかしろと言いたくなる。
ローはリーシャに追い付くと前に先回りして道を塞ぐ。

「何か食うか」

「もう食べたからいらない」

「少し座っていけよ」

体育館の後ろにあるベンチを指すロー。
だが、もう長居するつもりもなく、怒りも鎮火しつつある。

「もう怒ってないし。あっちいって」

手を払っていつものように追い返そうとすると、その手を取ってくるロー。
こっちだと手を引かれて足が動く。
冷めた目で見ていても歩みを止めない。
はあ、と何度目かももう分からない溜息を吐いて連れて行かれるままに進む。
やがて、人の声があまりしなくなっていくのに気付く。

「此処なら煩くないだろ」

「何言ってんの……だから帰るんだって」

「俺のボーカル聴いたんだろ。見えた」

あんなに人が居て、しかも最後の方に居たのによく見つけられたものだ。

「もうこれで満足でしょ」

「嗚呼……」

ローが答えるのを聞いてさて、と踵を返そうとするとローが腕を引いたので、反動で体の向きが変わる。
文句を言おうと口を開き掛けた時、キスされていた。

(こんな事前にあったな……)

ぼんやりと思う。
ローの背がいつの間にか高くなっていて、背を追い越されていた事を実感した瞬間だった。



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