01
ローは高校生、リーシャもついに大学生へとなった。
近隣の大学へと通う事になった自分をローは嬉しそうに喜んでいたのだが、別に彼の事を思ってそこにしたわけじゃない。
ローもローで、近隣の高校で、難関校と呼ばれる所を受験して合格した。
しかも一発でときたら流石に驚く。
何故そこにしたのだろうと思わなかった訳ではないが、彼はお前と居たいから、と特に聞いていない事柄をペラペラと喋った。
大方そんな言葉が出てくるとは思ってはいたのだが、まさか本気でそうだったとは。
入学式にも流されて行かされて、ビデオを撮る役目をやはり担った。
彼の両親は、どうしてこうも忙しくて子供に構ってあげられないのだろう。
自分の親も年中不在なので人の事を言えた義理はないが。
入学式の日を終えた時のローは、家に帰ると嬉しそうな嫌そうな、複雑な顔を浮かべていて、何があったんだと内心思った。
「変な奴らに会った」
「ローに言われる程なら凄そう」
「どういう意味だそれ」
「別に」
不服そうに唇を歪める男に、これは相当何か面白い事が起こるかもしれないと予感させた。
***
Law side
ついに、高校へと進学したローは特に変わり映えのしない気持ちのまま入学式へと参加した。
唯一の事ならば、彼女が同じ空間に居るというものだけで、後は退屈でつまらない。
そんな中、賑やかで凄く煩い集団がいて、煩いな、と苛々する感情に拍車を掛けていた。
何処かで聞いたことがあるような、と思案していると全校生徒の後頭部の中で何故か麦藁帽子を着用という異質な存在が居るのに気付く。
見覚えのあるそれに意識を持って行かれていると、不意にチッという舌打ちが聞こえてちらり、と横を向いた。
「おい、あれ見ろよ………南中のキッドだぜ………」
「何であいつがこの高校に?」
「スポーツの推薦枠で来たってダチから聞いた、おれ」
(こいつがあの、南中の有名人か)
成る程、と思った時、ローにも視線と好奇の声が耳に聞こえてきた。
「あいつ、南中のキッドの隣に居る男!もしかして、北中のローかっ」
「まじっ!?女泣かせって言われてるあのか?くっそー、まじ勝てる気がしねェわけだ!」
「しかも東中のルフィまでここにいるんたぜ!?この高校、どうなってんだ!」
(女泣かせ………好き勝手言いやがって)
ムカつく噂はさて置き、東中のルフィとはつまり。
中学時代に会ったことのある青年の姿を思い浮かべ、あの麦藁帽子の謎が解けた。
そして、先程からしつこいくらいの、隣からの視線にも腹が立つ。
「てめェ………北中のローか?」
「あ?気安く喋り掛けてんじゃねー。別人だ、他を当たれユースタス屋」
記憶にある名字で言い、あしらうと相手は間違ったのか、と呟いてローから視線を外した。
単純な奴だと内心皮肉に笑う。
この男が事実、本物の南中のキッドならば面識等ない。
相手にはローをローと認識する術もないだろう。
入学式が終わり、いざ教室へ移動しようとしていると後ろから煩い男がやってきた。
「トラ男ー!」
「………麦藁屋」
後ろを振り返るまでもなくルフィの、耳をつんざく大声が耳にキイィンと痛む。
顔をしかめて応対したって、天然なルフィの前では何の効果もない。
元気良くこちらに来たルフィは肩を遠慮なしにバシバシと叩くのでげんなりとなる。
「そのトラ男って何だ」
「お前の名字長ェからよ〜。トラフグだったか」
「トラファルガーだ。別に好きに呼べ。お前に説明するのも面倒だ」
「にしし!そうだ。お前に会わしてェ奴らが居るんだ」
「おれは誰とも慣れ合うつもりはない」
「そう言うなよおお〜」
「って、待ておい!」
会話に突如入ってくる声に煩わしく思い無視をしてルフィに言葉を告げていれば、またもや二度目の邪魔をされる。
何なんだ、と横を見やればキッドの憤慨している顔があって、まだ居たのかと辟易。
溜め息を付きたくなる一方でキッドは胸倉を掴んできて揺らしてくる。
「てめー、やっぱりトラファルガーなんじゃねェか、いでェっ!」
「それがどうした。お前に俺が俺であっても不都合な事はないだろ。ただ本人だっただけでこんな事をされる言われはない」
胸倉を掴む暴力的な手を、ハエを叩く容量で叩き落とす。
相手は想像通りに痛がり涙目で睨んでくるが、悪いのはそっちだ。
襟を直して教室に向かう。
殆ど生徒が居なくなってしまった体育館を後にしたのだが、どうやら、キッドとルフィとは同じクラスだったらしいと判明した。
***
Law side
入学式から一週間経過したが、この時点で中学校とは違い己だけの時間や空間というものが一向に形成されなかった。
つまりは何が言いたいのかと言うと、今までの日常に変化というものが訪れたのだ。
事前にルフィとキッドには慣れ合うな、と言っていたのに、ルフィには彼の友人達を紹介され、キッドにはキラーと言う男を紹介された。
確かキラーと言う名前は中学生時代に噂で有名なキッドの右腕。
その割には常識人で頭のキレるタイプの男というのが印象に残った。
それに、ルフィが絡んできて、キッドも巻き込まれる形でローに寄ってくるので、キッドもローに良く絡んでくるのが当たり前の光景となっていた。
「トラファルガー。これ、お前宛てだ」
「あ?んなもん捨てとけ」
「ふざけんな。おれがそんな後味悪ィ真似出来るか」
中学生時代に比べて格段にモテ度も上がった。
だからこそ煩わしくて堪らない。
いっそ彼女でも作ればいいのかもしれないと考えが過ぎる。
「………トラファルガー、おい、聞いてんのかっ」
「ユースタス屋。やっぱりそれ貸せ」
「は?あ、ああ」
怪訝な顔をするキッドにローは気にする筈もなく思考に浸る。
リーシャの事は今でも好きで、寧ろ愛していると言えるから、だからこそ良い機会なのではないかと思う。
好きでもない女と付き合うのはかなりの苦行になるだろうが、周りの牽制にもなる。
それに、付き合う女には、事前に好きにはならないがそれでも構わないか、と同意の上で付き合えば何ら問題はない。
相手にも期待はするな、と注意をしといて束縛も我が儘も言わない様に契約させればローの女除け計画は安泰だ。
そこまで考えて、よし、と手紙の場所に向かう。
キッドに行くのか、と問われまァな、と答えて指定の場所に行った。
***
近隣の大学へと通う事になった事になったのはリーシャだけではなかった。
「リーシャ、こっちよ」
「あ………ナミ、やっと見つけられた」
「ここの大学は無駄に広いからねえ」
高校生の時に知り合ったナミ、ゾロ。
二人も同じ大学へと行く事を知った時に、柄にもなく緊張した。
長い間の関係が続いた相手はローだけ。
継続する状態に慣れる事が出来るか心配だった。
無事にナミと大学の入学式の日に落ち合えた事に密かに安堵。
しかし、そこで予想外な事も起きていた。
「私の友人を紹介するわ」
「あの、その人達も同じ?」
「ええ。同じ大学よ!昔からの付き合いなの」
ナミが良い笑顔で答えるのを黙って見つめる。
別に友人を紹介されるのは構わないのだが、人数が多い様に思う。
先ず紹介されたのは黒い髪が印象的な、知的で清楚感が漂う『ロビン』と言う女性。
『サンジ』と言う金髪の男性。
凄くスーツが合っている。
暫くしてゾロと喧嘩し始めたところでナミが拳骨で終わらせた。
どうやら蛇とマングースのような仲らしい。
極めつけは水色のリーゼントが派手な、図体がデカい『フランキー』というサングラスを賭けている男性。
変態臭がするが、お首には出さない。
三人も紹介されて凄く賑やかになる。
その事に戸惑うしかない。
首を緩やかに傾げて言葉を出せないでいるとサンジが声を掛けてくる。
「美しいレディ。お名前を聞いても?」
「え、あ、えと?さっきナミから聞いていたんじゃ………」
「おれは貴女の声で聞きたい」
「………リーシャ、です」
「リーシャちゃん!……君に相応なビューティーな名前だ」
(ローとは違う意味の扱いにくさだなあ)
果てしなく悟った。
それはもう、まるで動物が生まれた時から持っている本能だけで悟る。
この人の相手をまともにしてはいけない。
「サンジくん」
「はああああいナミすわァんんんん!」
目をハートの形にしてナミの目の前に向かうサンジの姿に唖然とする。
ナミはサンジに対して怒気を含んだ声音で窘(たしな)める。
「リーシャとは初対面だし、困ってるでしょ。もう少し自重してちょうだい」
「分かったナミさんっ。おれ、抑えるぜ!」
「声も抑えて………」
こめかみに手を当てて溜め息を付くナミの表情に、嗚呼、彼女も苦労しているのだな、と同情した。
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