13
スタジオで声をかけてきたのはこの場の責任者だという人で、ローがオッケーする仕事に君が必要なんだとか言った。
どうでも良いしここから早く出たいのを一言一句間違わずノンブレスで伝える。
ここから、出たい。
「そんな!それは困ります!彼はファンも多いから発行部数も売り上げも爆発的な数があって、ここで仕事をしてもらえないと」
は?それがどうした。
それだけは言いたい。
けれど、良識がそれを良しとせず、眉間にしわを寄せるだけに留まる。
多分ローはそうなると理解してここに連れてきていそうだ。
つまりは全て彼の手のひらの上だと。
今回は仕方なく折れる。
スタッフは了解を知ると嬉々として走り出した。
余程切羽詰まっていたらしい。
撮影が始まると身体が緊張のせいで強ばった。
どれ程力を抜いてくれと言われても心と体はまるで別の生き物のように固い。
どうしても上手くいかないと諦めてやはり無理だと言おうとしたらローが突然後ろから抱き締めてきた。
「おれが居る」
え、と声に出さず横目で見る。
ここからでは見えない。
吐息がふ、と首にかかる。
「お疲れでした」
カメラマンの声に気付き体を離させる。
帰りになり車の中でお互い無言。
部屋へ戻ると当たり前のようについてくる。
いつから隣に居る事が自然に感じられるようになったのだろう。
エアコンを付けるとリモコンをテーブルへ。
「なァ」
問いかけられて手首を取られた。
優しく感じるそれに振り払うのを忘れる。
「おれはもう充分待った」
待てと言った事は一度もない。
「そろそろ考えるのを止めたらどうだ」
言いつつゆっくり体を腕にホールドされた。
「何も考えなくても良い」
エアコンが起動する音と心臓の音がする。
「好きという感情がなくてもおれは構わない」
まだひんやりとした空気に身を縮こませた。
prev | next