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クリスマス当日、ローとデートをするのは夕方と決まってからナミに連絡して相談を仰いだ。
彼女は情報通だし、何より最適な相談相手なので心置きなく相談出来る。
少し戸惑っているらしく、彼女は何やら感じ取った様子で「楽しみにしてるわ」と会う約束をしてくれた。
根掘り葉掘り聞かれる予感をビシバシ感じるが、仕方がないだろう。
一時間後という時間の性急さに何も文句を言わないナミは友達としてとても良く出来ている美人だ。
待ち合わせ場所に着くと笑顔で出迎えてくれる友人。

「で?彼氏とはどう?」

「昨日別れた」

「へえ。そう………で?」

「ローにクリスマス失恋デートに誘われてる」

「そう。で?」

やはりグイグイきた。

「昨日ローに凄い告白されて、好きとか、好きとか、好きとか連打された」

「へえ、成る程ね………ふーん」

「何か分かる?というか、私はローのデート、断るべき?」

「うーん、そうねえ………因みにあんたはトラ男くんに告白されてどう思ってる?」

「どうって………」

昨日の気迫迫る大告白は確かに胸に色々残したり影響させるには十分だ。

「びっくりした、かな」

「前から好意は寄せられてたでしょ?」

「うん。でも、はっきりとはなかったかも………言葉として聞かされたのは昨日だったから………今までは態度とかで、友愛とか親愛とかの類に………錯覚してたのかも」

そう、錯覚というか、麻痺していた。
猫に毎日愛していると言うのや愛していると言われるとそれは恋愛ではなく親愛、家族愛となる。
それに似たものが二人の間にはあると、少なくともリーシャは思っていた。
けれどローは違ったらしい。
昨日、はっきりと好きだと、女として好きだと言われた。
好きという言葉を長い期間聞かされて心が麻痺していたので、彼の起爆はかなり驚かされた。
ナミは昨日の話しを聞き終えると腕を組んで「ふーん」とにやつく。

「勿体ぶられても、困る」

「別にそんなつもりはないわよ。そうね………取り敢えずデートしなさい。んでもってトラ男くんに襲われ、じゃなくて付いていきなさいよ」

「ねえ、今聞こえた言葉は無視出来ないんだけど」

襲われろと言われてはいそうですかなんて言えない。
ジト目になるとナミはそれを交わしてにっこりと笑う。

「取り敢えずあんた達はお似合いよ。くっ付いたらさぞ世界が平和になるわね?大体あんたが他の男と付き合うって聞いた時は背中に薄ら寒いものを感じたわ。収まる所に早い所、収まりなさい」

「え?ナミ、何だか私、相談してるのに誘導されてる気が」

「気のせいね」

はぐらかされて、それからナミは今日のデートの為に服をチョイスすると言ってリーシャを着せ替え人形にした。
人形になったらもうクタクタである。
デートを考えたら帰りたくなった。

「私に相談したって事はあいつの事を意識してるのよ」

「軽率な言葉過ぎる」

「何言ってんの?大体私よりもあんたの方がトラ男くんの事知ってるのに相談しようと考えるあんたもジワジワ来てるって考えるのは何も可笑しくないの」

そう指摘されて「確かに」と納得している自分が居て、ローの事を考えると胸が脈動したようなしていないような、気配がした。



ローとのデートの時間になったのでナミと別れて待ち合わせの場所に向かった。
彼はまだ五分前と言うのに待ち合わせ場所に立っていたので驚く。
どうしてこんなに早いのだろう、乙女みたいだと密かに思う。
でも、ちゃんと待っていてくれたのは少し関心した。
何と声をかけよう。

(待った?早いね?………とか?)

ローの関係が構築され過ぎてどう言葉を言えばいいのか分からなくなった。
どうしよう、まだ五分しか経ってないけれど、その間にも時計は時間を進めていく。
その間になんとローが逆ナンされているのを見て、嗚呼モテるんだと改めて思った。
高校の時とかなりグルグルと彼女を変えるくらいには女には困っていなかったようだった。
最も、彼は口や態度ではリーシャを好きと言っときながら女避けの為に彼女を簡単に作るチャラさを持っている。
もしやリーシャの事も内心弄んでいるのかもと勘ぐったって仕方ない。
仮にそうだとしてもローを縛るつもりも責めるつもりもないのでどうでいい域だ。
ナンパされているのを見ると彼は慣れた手腕で断る。
彼女達が去っていく様子に状況を把握して歩み寄るべきなのか、此処まで来たがキャンセルするべきかと踏み留まる。
別にローは自分とデートなんてしなくても良いのではないか。
そもそも彼にはいくらでも誘える子が居るし、誘われたい子だって居る筈だ。
己とこんなクリスマス(特に面白い会話など出来ない)を過ごさなくてもいいのではないかと思う。
ナミがローとデートをすると聞いた後に服装の地味さを指摘してきて、それで急遽ナミ曰くお洒落コーディネートで着替えさせられた。
お洒落アイテムの一つである鞄をキツく握りしめ踵を返そうと普段は履かないブーツを動かして帰ろうと動く。
それに待ったをかけたのは肘より上に力強い圧迫感を感じた事だ。
掴まれた腕の感覚に後ろをぼんやりと向くと焦った顔をするローが居た。

「今のは浮気じゃねェ。断ったぞちゃんと」

ナンパのお話しだと気付くと見当違いが凄まじいと感じた。
別に浮気とも感じてないし、彼氏でも彼女でもない関係でそもそも怒る要因でもない。

「今日、何か凄ェ可愛い」

ナミによるコーディネートのお陰だ。

「どうも」

着ている女の素っ気なさがマイナス点だろう。

「一応デートプランは考えてきてるがどこか行きたい所はあるか?」

「特にはない。予定通りにしてくれていい」

相変わらず自分は冷めている女だと実感しつつ述べるとローは楽しそうに頷く。
こんな反応の薄い自分をデートに誘うローもだが、彼は昔からリーシャを意識して常に執着している素振りをしていた。

「よし、行くぞ」

彼は自然にキュッと手を握り恋人のように笑みを向けて先導と誘導の混じる歩き方で町を進み出す。
周りの女性は彼氏等を同伴しているのにローに目を奪われているらしく、チラチラと視線が付き纏う。
ローはそれを気にする素振りも無く歩く。
流石はモデルとして経験を詰んでいる男だ。
歩いていくと一軒のお店の前で立ち止まる。
そこはフレンチレストランといった雰囲気で中にはカップルらしき一組が多数テーブルに着いていた。
そこに入っていくのは何とも形容し難い気持ちだ。
高々今日は限定疑似カップルであるローとリーシャが行く訳で。
待ち時間は二十分とクリスマスの背景を考えれば早いくらいだ。
程良い店を選んだローの情報力に内心驚く。

「仕事で一緒になった奴が教えてくれたんだ」

ローはそういうが、教えた本人は多分共に行きたくて教えたのではないだろうかと勘ぐってしまう。
奴は男か女か。
それをわざとどちらか言わずにぼかして答えるローは確信犯か、はたまた何も理解していないのか。

「で、決まったか?」

ローが言うにはここのデザートが美味しいのだとか。

「うん。これ」

ローが店員を呼んで二人分の注文をする。
待っている間の会話について何も考えていなかったが、どうしよう。
今更空白を埋める為に会話の話題を探すなんて、考えたらとても可笑しい。
不思議な感覚がする。
違和感というか、いつもの日常に何か違う物が入ってきたというか。
その何とも言いようがないものを得ているとローがこちらを見ている事に気付く。

「何?」

聞くとローはサラリと傷心しているから落ち込んでいるんじゃないかと思って、と言うので嗚呼、と理解する。
別に振られた事やあまりの言いようと事はそんなに気にしていない。
そりゃあ、少しは心に残る思い出くらいにはなったが、向こうがこちらに興味を無くしたのなら未練等無意味だ。
考えてみれば、ローに少し言われたくらいで付き合うのを止める程度だったという訳なのだろう。
リーシャなりに相手を好きになろうと努力はしていたつもりなので最早忘れようと思ってまでいる。
直ぐには忘れられないが、いづれ時が忘れさせてくれたり、薄れさせてくれたりするのを気長に待つ。

「別にもうどうでも良い」

投げ遣りに答えるとローは神妙な顔で口を開く。
こっちまで何だか背筋が伸びる思いだ。

「じゃあ、おれと付き合うの、考えて欲しい」

「!」

「答えは直ぐにとは言わねェ。三ヶ月………それまでにお前が俺と付き合いたいと絶対に思わせる」

「そんなに、力む必要………私には無いけど」

そこまで一生懸命になられる価値はない。
特別美人でも性格が良い訳でもないのに。
戸惑うと共に、不快な気持ちが全くない事にも驚く。
付き合いたいと思わせると言われて、本当は嬉しいのではないかと自分の心に驚かされる。
胸が心なしかドキドキしている気もした。
何より、ローの真剣な気持ちに決着を付けようというのも大切である。
これからもこのままズルズルと好きだと言われた答えが出せないと彼のこれからにも邪魔となるだろう。
リーシャは「分かった」と頷いた。



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