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彼氏となった人と付き合い始めて二週間。
メールのやり取りもデートも淡泊である。
何故淡泊だというと、リーシャが単に淡泊というか、淡々とした気持ちで付き合っているからであった。
メールも最近のスマホを使いこなしている子の様に絵文字乱用等は出来ないし、可愛く強請るなんてもっての他だ。
それでも彼は特に文句も無くデートみたいなデート(プラトニック)をしてくれたし、クリスマスのデートも組んだ。

「なァ、お前さ、おれの事好きなの?」

(何?)

クリスマス前日にしてこの台詞。
何の前触れもなく言われた言葉に心底眉が寄った。
たった二週間やそこらで好きになる程お互いを知った訳でもないのに聞いてくるので冗談じゃないと思う。

「前にさ、ほら、幼なじみ?の男、居るだろ?そいつ、もう会うの止めてくれないか」

(これって束縛ってやつ?)

不快に感じた。
彼はムカムカした顔付きで更に言い募る。

「あいつ、マジで何?ほんとはあいつが好きなの?なんか、納得いかないんだよ」

「何か言われたの?」

「何かって…………警告みたいな、そんな感じの事言われて、すげェ腹立った」

告白された時より砕けた様子の彼は眉を寄せて怒っていた。
どうやらローが何か言ったらしい。

「そっか。ごめんなさい。あの子には言いつけておくし。それと付き合ってもないし」

「………そういうのはもう良い。面倒だ………会うの止めてくれれば良いだけだしよ」

(はぁ、何かこの人もプライド高いなぁ)

どうやらローの態度や警告がプライドの事線に触れたらしく、彼との接触を嫌がっている。
お隣なのに完璧な拒絶も無理な話だ。

「………どうしてもなの?」

「ああ。ほんと勘弁。おれが彼氏なのに。つーか、お前もさ、あいつとおれ、重ねてねェ?」

「どういう意味?」

相手の言いたい事が何となく分かって不愉快さが増す。
確かにローが悪いし、押さえられ無かったリーシャも悪いと思っている。
彼のプライドや男としての何かをボロボロにしたのなら謝ろう。
けれど、ローと今の彼氏を重ねているなんてそんな不埒な真似等していない。
それを今言うのはそもそも会話にも関係ない。
彼の中でくすぶっていた不満か言い掛かりなのだろう。
たった二週間で何を分かった風にしているのかとこちらも段々相手に腹が立ってきた。
相手に不安があるように、こちらにもそこそこ不満はあるのだ。
誰にでも相手に不安があるが、それを受け入れたり流したり我慢してこそ成立するものが交際というのではないのか。
大体不満があって別れるのならとっくにこっちからお断りしている。
多少相手にも欠点があって、こっちにも欠点がある事を理解しているからこそ付き合える。
それをたった二週間でぶちまけるなんて、この先をもう壊しているも同然だ。

「ごめん。不満も不安もあったのに。けど、現実的に絶縁は無理」

束縛する人間はそれでいいかもしれないが、束縛される人間にとってはとんでもない話しである。
首を横に振ると相手は激怒した。

「あいつの事がやっぱ好きなんだな!お前とは別れる。金輪際近付かないでくれ」

思い込みの激しい人だ。

「うん。分かった。金輪際連絡しない。今までありがとう。告白嬉しかったよ」

「………っ」

彼はとても顔を歪めて、去っていく。
男にとって女はそこそこ可愛く、そこそこ好きだったが故にプツンと簡単に切られた縁に苦い想いをしたからとはつゆ知らず。
男はクリスマスだからという理由で付き合っていたが、それでも好意を持てたから告白したという心の内をリーシャは知らない。
ローに付き合うのなら覚悟を決めろと詰められて男のプライドが傷付けられて別れるに至った経緯をリーシャは知る事はないだろう。



家に帰ると隣の家の電気が付いていない事に気付き、もしや家の方に居るのではないかと玄関を開けた。
予想通り靴があってローが勝手に入り込んでいる事は明白である。
リーシャは少し気落ちした気持ちのまま家に上がるとリビングへ向かう。

「おかえり」

「その前に私に謝る事、あるんじゃない?」

「お前の初彼とやらにプレッシャーを掛けた事か?」

「分かってるなら………誰でもローの言葉は重荷だったと思う」

「そうか?別に別れろとは言ってない。それ相応の覚悟を持てと言っただけだがな」

ローは雑誌を片手に笑う。
幼なじみ+警告+彼氏=誰であろうと重荷という方程式は嫌だろうと安易に想像出来た。

「もしかして、あいつは挫折したか」

「誰かさんのせいでプライドを揺すられたから」

「あの程度で?笑える」

ローはククク、と本当に笑った。
リーシャとしては初の彼氏なのに失ってしまったのだ笑えない。

「笑えない。ふざけてないでさっさと謝ってきて」

「謝れば相手はお前とまた付き合うのか?」

「ううん。多分もう付き合わない」

リーシャは男心というものは理解できないが、あの空気でまた付き合うのは無理だと分かる。
例えまた恋人になってもシコリが残ったまま崩壊していくのが落ちだ。

「未練はなしか………」

「いや有るし」

別に完璧にすっぱり別れた訳ではない。
気持ちはまだ整理出来ていないままである。
流石に別れたとなれば無関心ではいられない。
感傷的にもなる。

「ふーん?なら、明日は予定無しって訳だな」

「潰した本人がヌケヌケと言う」

「潰したんじゃねェ、勝手に自爆したんだ」

ローの唯我独尊も悪化の一途を辿っている。
彼氏を失って、原因の彼がのうのうと本を読んでいる何て可笑しい。
ローにもう一度彼に謝るように催促すると面倒そうに「頭の隅に置いておく」と理解したのかスルーしたのか分からない発言をした。

「明日のクリスマスデート、プラン考えてるから問題無しだ。明日はめかし込んで来いよ」

「やだ」

「………何でだ」

「振られた日の次の日に切り替えなんて出来るかっ」

「じゃあ失恋デートな。ぴったりだ」

この子は人を苛立たせる天才だ。
デートもプランも全てキャンセルである。
そんな図太くない。
今は別れた余韻が強くて楽しめないし、悲しみに似たモノが胸を独占している。

「………おれだって、譲れねェもんがあんだ」

「………何?」

黙っているとローがボソッと言う。

「お前は彼氏を潰されたとか、振られたとか言ってるが、先におれがお前を好きになったんだ」

「………………」

「なのに、いつの間にか変な虫が付いてるし、追い払う殺虫剤も効き目が薄い。何よりお前が嫌がってなかったのが腹立つ………!」

ローは言葉と共に立ち上がりガッとリーシャの両肩を掴んで迫る。

「おれが先に好きになったんだっ、お前を!おれはお前が欲しい!他の男に取られるくらいなら奪ってやる!男が出来ても!お前を寝取ってやる!お前の隣に居るべきなのはおれだっ。何でおれを見ない!?年下だからか?幼なじみだからか?おれは男だ!女としてお前が好きなんだよっ!」

一気に巻くし立てられて目が大きく見開かれたままリーシャは固まっていた。
こんなに酷く乱れたローは初めてだ。
何が彼を爆発させたのだろう。
いや、考えなくてもリーシャが原因なのは分かる。
彼氏が出来て、リーシャも任意で付き合った事が起爆原因だろう。
それが彼を焦らせたのだ、きっと。
彼氏を振らせてしまったのは誰でもない自分なのかもしれない。
ローを此処まで走らせたのは紛れもない自分なのかもしれない。

「おれと、明日、デートだ。おれもお前の中に入れろ」

抱き締められて懇願される。
半ば放心状態になっているままこくんと頷いた。



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