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03


kid side


トラファルガー・ローの第一印象は最悪、この一言に尽きる。
先ずは入学式から始まった出会い。
コソコソと女々しく噂をする男達の会話の中にトラファルガー・ローという名前が出てきた。
それがキッドの隣にいる男らしい。
そんな感じは何となくする。
威圧感がそこはかとなく漂っているのだ。
何もかもを面倒に感じ、心底どうでも良いと思っている顔をしている。
キッドもそういう感情を実は抱いている。
周りはキッドを放っておかない。
突き放そうとして冷たく何かを言っても女の気配が無くならなかった。
大人は大人で煩く言ってくる。
もうこの人生にある意味辟易とした諦めを抱いていた。
どうせ高校も中学と変わらない。
唯一まだ良いのはキッドの他に目立つ人間が居る事だろうか。
校長の長い話しが終わりに近付く頃、ローが本人かどうか聞いてみた。
ただの興味本位だ。
女泣かせと名高い男の態度を見てみたくなり、返事を待つと返ってきたのは否だった。
では、反対に居る隣の男なのかと考えると校長の話しは終わったらしく、生徒が体育館から数を減らしていく。
大移動の最中に現れたのは東の中学、略して東中学の有名人であるモンキー・D・ルフィが先程トラファルガー・ローかと聞いた生徒に話し掛けていた。
しかも、学校にもまだ慣れていない時に彼女を女避けに作るとまで宣ったのだ。
しかも、翌日にはもう彼女が出来ていた。
仕事が、やる事が早すぎる。
軽率な行動だと分かるが、次の日には少し顔を強ばらせて彼女を作るのを止めようかと悩んでいた。
別に悩んでいると告げられたのではない。
彼女が来た途端、近寄るなと言ったのだ。
これには教室の誰もが意味の分からない現象にちんぷんかんぷんだった。

「おれに触るな」

「え、え、でも」

何処かの組のマドンナと呼ばれていると聞いたことがある女が強ばった笑顔で話そうとする。
すると、ローは契約違反だと述べる。

(契約違反?)

まさか本当に仮の、女避けとして彼女にそう言ったのかと己の目を疑う。
あの女泣かせと名高い男がこんな風に女を拒絶するなんて。
女は顔をひきつらせて無言で教室から去った。

「チッ、次からはちゃんと聞き分けの良い女がいるな」

世の男が羨むマドンナを手酷く扱っておいて、まだそんな事を宣うロー。
でも、何故か女の黄色い視線は無くならない不思議だ。
何かフォロモンでも振りまいているんじゃないのかと思う程のモテぶりだ。
キッドのモテ期とはかけ離れている。
ハーレムを中学生の時に形成していたというローの噂はどうやら本物らしい。
直ぐ悟り、納得した。
今見ている限り、男は確かに罪な人間だ。
女も女で女除けとして説明されているのに、それでも彼女をしたいなど酔狂だと感じた。
嗚呼、そう言えば話しが脱線してしまった。
入学式で会った、名も無き男はやはりトラファルガー・ロー本人だった。
麦藁のルフィとの会話で堂々と苗字を名乗った事に最初は聞き間違いかと数秒固まったが、間違いではなかったのだ。
正真正銘、本人であった。
胸倉を掴んだ途端に叩かれて反射的に手を離す。
あまりの扱いに憤ると本人はだからどうした、と言いぐうの音も出なかった。
ムカついて、本当は関わらないでおこうと決めたのに、何の因果か同じクラス。
麦藁も同じクラス。
担任に同情を初めてした瞬間である。
ローと言い合う学校生活も板に付いてきた頃、ローはまた例の如く告白の呼び出しに応じて廊下へ出て行く。
本人曰く、仮の彼女の器でやっていけるかどうかの品定めらしい。
そういうのは一体何人の男が同じように選べるんだと半眼になる。
ふと視線を廊下から机の方に向けると、ローの座る机に一つの生徒手帳が置いてあった。
どうやらわざと置いていったのか、真実は知らないが何となしに開く。
生徒手帳なんて真面目に持ってきているローが少し気になったのだ。
中身を流してパラパラとめくっていくと最後のページの横にあるプラスチックのカバーの隙間に一枚の写真があった。
生徒手帳に収まる様に切り抜いてある。

(女?と子供、か?)

二人だけの写真には幼いながらも面影を残しているローの姿があった。
女の方はどうみても年上だ。
でも、問題なのはそこではない。
女は無表情なのにローは満面の笑みで、まるで抱き付く様に密接な距離で立っていた。

「マジかよ」

ローの想像の付かない笑顔を見て唖然と呟く。
双子の弟、なんて落ちでなければロー本人だ。

「見たな」

「っ!?んだよ、お前か」

「ユースタス・キッド。お前はそれを見た」

「は?そりゃ、見れば分か」

「生かしておけねェ」

「は」

「丁度次の時間は自習だ。ユースタス屋」

「それが何だって」

「生きて帰れないな、ユースタス屋」

「お前さっきから意味分かんねェし、気味が悪い空気出してんじゃ」

「気を楽にしろ」

「――ねェ。は?」

「直ぐに終わる」

こうしてキッドは迂闊に生徒手帳を開いた事を後悔するハメになった。




キッドが人生初の理不尽に巻き込まれている間、一人の女は大学にて頭を悩ませていた。
大学で講義を取ったのは良いが、グループ研究という類の課題だったのだ。
グループという言葉にはとんと縁もゆかりもなかった筈なのに、ナミ達のグループへといつの間にか入れられていた。
わざわざ話しかけて輪になるという難題はなかったのが幸いだが、どうすれば良いのか悩む。
グループ研究の内容もそうだが、集まってどうすればよいのか戸惑う。

(ナミ達は凄く喜んでた。意味、分かんないや)

どうして自分なんかをグループに入れて喜ぶのだろう。
もっと愛想の良い人なんて幾らでも居るのに。
それに、彼等のグループは密かに人気だ。
凄く目立つ存在として異色を放っているとリーシャですら噂に聞く程。
まだ入学式からそれほど経っていないのにも関わらず、彼等の噂はアイドルのように学校を盛り上げて行く。
中には酔狂な集団と言う人も居る。
リーシャも彼等を本当に酔狂に思う。
裏表が無い、穢れを知らない子どものような目で見てくるのだ。
ドギマギして、どう答えれば失望されないか毎回緊張する。
彼等には己の醜い所をとてもではないが見せられない。
見せればきっと彼等の好意を失うと怯える自分が居た。




帰宅すると、いつもの様にローが居た。
また窓から侵入したのだろう。
彼は部屋に入ってきたリーシャを見ると笑みを浮かべた。
合い鍵で入ってきた、と許可していない入り方をした事を述べる。
機嫌がいつもよりも良いことを感じて何か良いことでもあったのだろうか、と思う。

「高校生活は今までよりは退屈しなさそうでな………そっちはどうだ?」

そう聞いてくるローに如何(いかん)とも言えずに黙ったまま立っているとローがこちらをジッと見てくる。
それを見返しているとローはウッソリと笑って「良かったな」と言ってきた。
何も言っていないのに何故笑うのか分からない、と眉を下げる。
だが、ローは変わらず嬉しそうにしているので何とも言えなくなった。
楽しく感じた事も確かだからローの言った事は当たっている。
ローに言われた事が何だか癪(しゃく)だから何も答えないと決めた。

「最近嬉しそうだ……フフフ」

もう聞こえないよう上に上がる事にした。







大学の抗議が終わった帰り道、途中でローから紹介されたシャチと言う青年がこちらに気付いて寄ってきた。
あまり話したことのない相手と上手く話せる自信がなくて困惑。
ローも知り合いも近くにいなくてどうしようかと考えている間に彼は目の前に来る。
こんにちは、とフレンドリーに言われてどうも、と返す。
今のは結構に頑張った。
己をそう評価して何とか持ちこたえる。
ローの友人から自分を下に評価されるのは出来るだけ避けたい。

「あ、すいません。話すのあんまり得意じゃないんでしたよね………気が利かなくて申し訳ありません」

キャスケット帽に手をやって笑うシャチにホッとする。
事前に分かってくれているのならば話さなくても大丈夫そうだ。

「おれも今から先輩の家に行くんですけど、一緒に良いっすか?」

その言葉に断る理由も無いので頷く。
頷くだけなのは凄く楽だ。
シャチはリーシャの方を見てからニカリと笑うと行きましょう、と告げて歩き出す。
無理に話題を振られる事もなく家に着いた。
よく笑う子だと、この時間で人となりを感じて、ローの友達にしては良い子だと印象を残す。
ローの家のチャイムを鳴らすのを横目で見ながらダイニングへ向かうと、本を読んでいるローが居たのでシャチが来たことを伝えた。

「来るって言ってたな、そういえば」

思い出した風に本を閉じたローは家の玄関から去っていった。



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