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09


さて、問題です。
今リーシャは何をされているのでしょうか。
チクタクチクタクはい時間オーバー。
という現実逃避はもう置いとこう。
予想していた人もそうでない人も、嗚呼何だがこんなことを言う自分にも飽きていた。
取り敢えず正解は押し倒されている。
この展開は既に何度も経験しているが、少しいつもと違う所がある。
それはロー本人が酔っぱらっている事だ。
二十歳になったローはお酒解禁な訳で、同級生であるルフィとキッド達と飲んできたらしい。
夜にインターホンが鳴って迷惑だなと思いつつ玄関を開けたらベロンベロンになっているローが居た。
夜分遅く、おまけに外は寒い。
十月に二十歳となったのでまだお酒の限度が掴めていない状態で飲むとこうなったのだろうと安易に想像出来る。
家の目の前で知り合いが凍死してましたとなって、警察なんかがきて、とそこまで未来を想像してしまい今日な休みが潰れる予感をひしひしと感じたし、何より寝覚めがすこぶる悪い。
仕方ないとローを家にあげてヒーターを付けてあげた、なんと優しいのだろう自分と労る。
インターホンを無意識に鳴らしたのかうっすら目を開けたローは最初此処にいる意味が分からなかったらしく寝ぼけ眼でこちらを見た。

「夢か?」

答えずに無言で見ているとユラユラと覚束無い足でこちらへ来ていきなり押し倒されて冒頭に戻る。
こいつ、ビンタでもして現実へ戻してやろうか。
冗談ではない事を思い浮かべて見ているとローの顔が目の前に迫っていた。
押し返そうと手を顔にやって押しのける。

「キスしてェ」

「恋人として」

「お前としてェ」

「断るっての」

ポーカーフェイスで答えると手をキュッと握られて退かされた。
顔を背けていると頬に口付けを落とされて口が自然とへの字になる。

「ヘヘ………おれの勝ちだな」

舌打ちをしてローを見ると頬を緩ませて口元を上機嫌に上げていた。
明日、頬にキスをしたという事でお金でも毟(むし)ってやると決める。
それから直ぐにぐーすかと寝息を立てて上に乗ったまま寝たローを放置して立ち上がった。
情けとして毛布は掛けておいた。
万が一風邪を引いて写されたら本末転倒、更にロー経由の菌に犯されるなんて絶対に避けたい。
溜息をこっそり付いてからリーシャもベッドで寝た。
起きたらローが何故か同じ所で寝ていたので蹴落として「ぐあっ」という悲鳴も眠気の前では何の意味もなさない。
また起きたらローが隣に居たので以下省略。




翌日、起きて服に着替えるとローが朝ご飯を作っていた。
いつもの事なので席に着く。
今日はどうやら和風らしい、というかそうめんだ。
冬鍋で鍋掴みをしたローがテーブルへ持ってくる。
朝から鍋物とはなかなか凝っているな、と感心しつつ中身を開ける。

「流石おれだろ。フフフ、夫として日々精進しているんだからなこれでも」

「はいはい流石流石」

一々突っ込むと朝から疲れるので適当に答える。
小分けようの深皿に盛るまでもローがやるので待っていると目の前にコトリと置かれてお箸でそれを食べ出す。
出汁が美味しい。

「な、惚れるだろ。惚れていいんだからな」

こいつは一々一言も二言も多い。

「はいはい惚れない惚れない」

ここは間違っても「惚れた惚れた」と言わない。
言ったら最後、言ったらお終いだからだ。

「ちっ」

舌打ちが聞こえた。
好きに舌でもなんでも打っとけばいい。

「今日は撮影らしい。でもちゃんと夜はご飯作るから大丈夫だ」

別に気にしなくてもいいのに。
伝えるとローは仕事とプライベートはきっちりするという契約をしているのだと言って遠慮する気はないようだ。

「人気が出ようと出まいとお前と居る時間を減らすなんて有り得ねェ。んな事があったらおれの細胞が減る」

意味が分からない。

「あっそ」

好きにすればいい。

「そういや、初仕事のポスターを焼き増しして拡大したからこの部屋に貼るな」

何前提で話しているのか、この野郎は。

「貼ったら画鋲を鼻のとこに差し込むから。あと髭も書き足すけど」

「………………せめてトイレはどうだ?」

「ダーツの的なら良いかも」

「………………今回は諦める」

やっと諦めたローを見てからズズ、とそうめんを啜った。



冬の季節、ローは少しモデルの仕事に慣れたらしく雑誌に載っていた。
相変わらずファンが増えているらしい。
の割には名前も載っていない、というのはロー本人の希望らしいとシャチから聞いた。
彼等も一つ下なので学校を卒業してそれぞれやっているみたいだ。
ペンギンはローのマネージャーになると言って日々勉強しているらしい。
シャチは水族館へ就職したいと専門の学校へ行っている。
どうやらこの町にある水族館へ行きたいらしいとロー経由で聞いた。
キッドはデザイン系の学校へと行っていて、ルフィはお爺さんの仕事を手伝っているらしい。
これもロー経由の情報だ。
どれもこれもリーシャが聞いたわけもなく、ただ「ふーん」と聞いていた。
ローがモデルをやる事や仕事として確率していくのは正直驚いたが。
雑誌に載っている姿も見てしまったし、自分は本屋で地道に働いている。
どんどん周りもそれぞれ何かをやっているのを感じてやっと落ち着いたのかと安堵。
何に対して安堵したのかと思ったが、何となく思っただけなのでそれを言葉にする事は難しい。
少し今までの事に変化があったのならそれはローが自分に対して世話を焼きだした事だろうか。
周りはロー主婦か、と言う。
リーシャは世話を焼かれようと何だろうと今のペースを崩すつもりもない。
つまり、ローが主婦紛いの事をしていようと止めさせる事もしない。
面倒だし、止めろと言っても聞かないだろうから。
そんなこんなでダラダラと自分なりの生活を一年、と過ごしていく。
ローはいつの間にか雑誌の人気モデルの地位を確立していた。

「ん」

「……今度は何の本?」

「ミステリー」

「……ああ、あのシリーズの」

それでもローは変わることなくリーシャと過ごしていた。
隈が目立つようになったのは仕事のせいだろうか。

(心配するなんて私っぽくない)

この頃ローがリーシャに貢いでいるのではないかと言う疑惑が己の中に浮上している。
朝になって外へ行こうとするとローがスタスタとこちらへやってきて徐に頬へキスをする−−前に避けた。
チッと舌打ちされるがスルーだ。

「……っ」

不意にローが額に手を当ててダルそうな顔をする。

「何?具合悪いわけ?」

「いや、平気だ」

今日は土曜日、なので休日だ。

「年下が年上に見栄張るメリットあるの?後味悪いから言って」

自分でも何て可愛げのない言葉だと思うが、しんどいのなら言う権利くらいは人間誰にでもある。
と、いう理由を自分だけに言ってからローを窺う。

「フフ……」

(何こいつ気持ち悪。いきなり笑った)

頭に異常があるようだ、残念だがお医者さんでも治せるか難しいだろう。
彼を最近そう判断し、最早慣れた。
何を言っても喜ぶ。
しかし、リーシャは彼を貢がせようとか利用しよう等とは一度も思った事はない。
昔からの間柄だし、有名になっても特に気持ちに変化もなし。
有るのは「何でこいつがこんなにモテるのか」という疑問のみ。
町へ行くとポツリポツリとローの話題があがる。
驚くことにまだローは名前を公開していなかった。

(いつまで守れるんだろ)

このネット社会でずっと匿名は無理だろう。
という目の前の現実を見ないフリを続けた。

「リーシャがおれの心配してる」

「は?私の心配。風邪移されると困る」

後、帰ってきたら倒れてましたも困る。
看病しなければいけないくらい悪化したら更に気になってしまう。
別に自分は鬼畜でもないのでそれくらいは思う。
ローは馬鹿だが、風邪を引いた事くらいは理解するだろうと思っている。
恐らく無理を押して仕事に行くだろう真面目さも持っているらしいので行く時は無理をして行く。
ペンギンもそれを分かっているので彼がローの体調管理をしてくれるだろう。
それも分かっているので送り出す。
自分も一応やることはあるので家でまったり過ごすつもりだ。




もう直ぐクリスマス。
そんな時期になった仕事終わりの帰宅前。
店から出ると一人の青年がマフラーを付けた姿で立っていた。
こちらを見ると待っていたという顔をして顔を弛める。
彼は確かこの本屋の偶に来る微常連だ。

「あの、初めて会ったときから好きでした。おれと付き合って下さい」

雪は降っていないが、彼が話す度に白い息が吐かれる。
それに頷いた。
初めて告白されたけれど、初めて付き合う人になった彼は人も良さそうで付き合っても構わないと思った。



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