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08


久々に熱を出した。
軽くはなく少し重傷。
重傷という程ではない熱。
うっすらとなっている視覚にぜぇ、と息を吐き出す。
なんとしんどいのだろう。
しかし、子供の頃にかかるよりは楽だ。
風邪薬を飲んだおかげで最初よりは楽になっている。
学校ももう直ぐ卒業なので休んでも特に問題はなく、ローも今日は休日らしくリーシャの家に看病をしに来ていた。
いらないと何度も断ってるのにローは全く聞きやしない。
勝手にすればいいとしんどいので放っておく事に決めた。
構っている余裕はないので放置していると彼はベタにお粥を作って部屋に持ってきたので驚いた。
風邪など滅多に引かないし、お粥なんて小さな頃に父に作って貰って以来だ。
父は今現在でも単身赴任の身なので滅多に帰ってこない。
そんなのは昔の間に悟ったし察した。
父に付いていくとあちこちに行かなくてはいけないし、宿り木を探すにも苦労する事は分かっていたので付いていくという選択肢を取らなかったのだ。
周りは可愛くないと思うかもしれないが、色んな所を転々とするのは自分には合わない。
父がある日突然帰ってきても難なく迎え入れられるし。
不便でもなく、寧ろ便利なこの生活には満足している。
そんな事をつらつらと思い出しているとローがお粥を口に運んできた。
自分で食べるとスプーンを取ろうとしてもローの手が違う所へ行って遠くに追いやられる。
一体何の真似だと睨むとローは「おれがする」と真面目に言いくさってリーシャに冷ましたお粥を食べさせようとした。
この歳になっていくら何でも口に入れられるのは嫌だ。
そんな可愛い性格ならば今頃苦労していない。
ムッと眉間に皺が寄るのを感じて口を閉じていれば、ローがソッと顔を近付けてきてニヤッと笑う。
薄ら寒いのを感じた。

(何なの)

「今口を開ければペナルティは課せないぞ」

「ペナルティ?意味不明」

ペナルティの内容は口移し、と生意気にも脅してくるのでイラッとなる。
別にそのスプーンを寄越せば自分で食べられるのだ、と苛々した。
もう二十歳を超えたというのに懇親的にされるのは我慢ならない。
スプーンをまた奪おうとするが憎たらしく遠ざけるロー。
遂に折れたのは三十分後の事だ。
屈辱的に思いつつ、お腹が膨れた満足感に睡魔がうつらうつら、と船を漕ぐ。



***



LAW side

翌日、学校に行くとクラスメートの生徒が周りに集まってきて煩く「もう平気なのか」と問うてきた。
昨日は風邪だと言って仮病を使って学校を休んだからだと分かっていても鬱陶しい。
メールでシャチやペンギン、ユースタス屋に麦藁屋が連絡してきた時は煩く感じても不快には思わなかった。
何故だろうと考える事すら億劫だ。
仮病で休んだ理由はたった一つ、リーシャが風邪を引いたからだ。
学校の創立記念日と言って彼女に嘘を付いたのは、ほぼ初めて引くであろう高めの熱を出したからである。
本当は学校に行こうかと迷っていたが、何を考えているのだと己の思考を疑った。
直ぐ近くに弱っている女が居て、懇親的かつ、優しくすれば恩も売れるし、何より好感度も上がるというもの。
比べる余地も隙間もないではないか。
そう結論付けて仮病を使って学校を休んだ。

「堪んねェ」

彼女の熱に浮かされた顔が男の中の色々な部分を刺激したが、何とも至福であった。
食事にしようとベタにお粥なんてものを作って食べさせたし、彼女は最終的に折れたわけだ。
普段はそんな風に折ればしなかっただろう、けれど熱に体力を奪われていたせいでこちらに委ねる結果となる。
その時の負けた顔といったら、生唾ものだ。
是非写真に収めたい。
寄ってきた女子生徒が心配そうに顔を覗き込んできたので苦渋を感じた。

「トラファルガーくうん、大丈夫?」

「煩い、近寄るな」

いつもリーシャがローを追い払う時にする仕草とまではいかないが言葉で潰す。
この変な間延びした声で近寄ってくる女は最近転校してきた奴だ。
どうやら名のある男達を落として『逆ハーレム』と言うものを築いているらしい。
ローもそこへ入れたいらしく、キッドやルフィ等にも声を掛けている。
効果は芳しくないらしく、女子が「電波」と呼んでいた。
落ちた男達はそれまでの存在で所詮は経験の少ない男子、ましてや自分に好意のあるフリをしている女に口説かれればクラリとなるのだろう。
ローは決して共感出来ない。
キッドもこの女に関して心底嫌がっているらしい。
周りを彷徨かれては迷惑だ。
眉に皺を寄せて睨むとあっという間に居なくなる女。
所詮は只の女子で子供だ。
本気の怒りにはとんと弱いのだろう。
学生生活を普通に過ごそうと思っていたのに最後の最後に変な女に纏わりつかれてしまった。
ローはキッドやルフィの声を聞いて削れていたHPを回復させる。

「トラ男ー!」

キッドと共に来るルフィのでたらめな大声にムカムカしていた胃がしなくなった。
相変わらずルフィは毒気を抜くのが得意らしい。
キッドが憎まれ口を叩く事にもすっかり慣れたとローは鞄を机に置いて口角をこっそり上げた。




***





――二年後


リビングにある一冊の雑誌を何となく手に取る。
ぼんやりと目を時計にやると時刻は中途半端なお昼二時と半分と少し先を針は指していた。
時刻を浮かべるのも億劫で一つ息を吐き出してパラパラと雑誌を素早く捲る。
見る気力もなく、ただ手に取っただけなので読むつもりもない。
しかし、とあるページになると捲れなくなる。
ページの下を見るとクリップで止められていた。
此処を見ろという意思表示だ。
何故分かるのかと言うとそのページにはでかでかとドヤ顔という流行の言葉が当てはまる顔をした一人の男が写っていた。
本人が居るだけでも勘弁と思うのに実物ではないが、確実に本人の勝ち誇った顔を見ると解せない気持ちが自ずと湧いてくる。
下に名前は書いていない。

(……解せない)

これが初めての雑誌掲載というのだから何となく嚼(しゃく)だ。

「お、ついに見たな」

雑誌からを下に降ろすと写真と全く同じ顔をした青年が此方を見ていた。

「不法侵入罪でそろそろ訴えるから」

「未来の夫に隙はねェ」

「ある。この家に私の許可なく入った時点で適用だ」

目を眇めて言うとローは言った事を聞き流した。
相変わらず聞く耳を持っちゃいない。
滅しろと五回心の中で祈る。

「おれはもうガキじゃねェ。しかも結婚出来る歳もとっくに越えてる。不足はもうなくなった」

さっきからこの男は一人で何を言っているのやら。
もしかしてそこに幽霊的な人がいるのか、それとも頭がイってるのか。
遠い目をして思考を飛ばしていると横に座ってきた。
いつリーシャが座って良いと許可したのか、何も言っていない。
雑誌でも今も自分を幻滅させてやまないトラファルガー・ロー本人。
今はまだ青年と言える歳だが、数ヶ月前にペンギンの親戚が立ち上げたという芸能事務所でローが雑誌のモデルをした。
それからというもの、どうやら反響が予想より遙かに上回ったらしくまたやって欲しいと言われた、とローが聞いてもいないのに言っていたので覚えている。
受ける事にしたらしく忙しそうにしている、と言いたい所だが、此処へ来る頻度はあまり変わっていない。
何というスペックの差だろう。
リーシャもここ最近やっと自分の周りが落ち着いた所だ。
大学も卒業して、よく行っているそこそこの大きさの書店で働いている。
書店なのでデスクワークや体力を使う作業などが多くてそれなりに労働だ。
でも、ちゃんと土日は休みだし、ゆるりとした感じである。
それをもう一年程やっている。
ローは変わらずこの家に出入りしていて、ここ数ヶ月は何故か帰るとご飯を用意しているという意味不明な感じで居座っていた。
作るとも作って欲しいとも言っていないのに、だ。
もう最近はそれに慣れた。
慣れてはいけないと前は思っていたが、それすらも考えるのがとてつもなく面倒だと思ったので考えるのは止めた。
だから、もう好きにさせている。
前からそんな風に二人の関係は変わっていない。
いや、少し語弊がある。
何故か新婚みたいに接するローを退けるのも多くなった。
今だって恋人でもなんでもないのに肩を抱いてきている。
少し罰を与えた方が良いのかもしれない。
取り敢えず殴っておこう。

「いてェな……くくく」

笑いやがった、気持ち悪い。
なんて事を顔に出して見るとローは尚深く笑う。
やはり気持ち悪い。

「お前の好きそうな本、買ってきた」

と言ってこちらへ手を出したロー。
手元には何かの文庫本がある。
それを受け取ると中身を少し読んでみる。
中身はただのファンタジーで確かに読み応えがありそうだ。
リーシャは飽きっぽく熱しやすいのだと、本を読む時期によってハマるものも期間もバラバラだ。
三ヶ月ハマる時もあれば二週間で終わる時もある。
今はファンタジーにハマってる最中なのでファンタジーというだけで気分が浮上する。
それがたとえローの持ってきたものであっても、本に罪はないのだ。

「可愛いな」

ローはここ最近、その言葉をよく使うようになった。
本に引き込まれている時によく聞く。
それをどう聞き流せばいいのかと思って、少し悩んで、少し考えて、少し後悔してやはり無視しようと最終的に終える。

「やべェ」

何がやべェのか、ローが一番やべェんじゃなかろうか。
主に頭が。

「はァ……」

時に溜め息も付かれる。
いや、これは溜め息というより何か含みのある一息だ。

「……この本はシリーズだ。気に入ったんなら取り寄せるぞ」

ローは最近リーシャに本を貢ぐようになってしまった。
またもや聞いていないのに「未来の投資みたいなもんだ」とドヤ顔で宣言していた。
別に頼んでないのに、と思ったが言わない。

「うん。これ結構面白い」

「よし。決まりだな」

ローの選ぶ本は当たりが多い。
センスや勘の問題だろう、天はこの男に色々と一物を与え過ぎだと思う。
というか好い加減に肩から手を退かせと思った。



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