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「大佐、わざわざ見送りに来てくれてありがとうございます」
「気にするな。当然のことだ」
大佐はふわりと笑う。
この島から次の勤務先まで距離がかなりあるし、何よりもログポースとは逆に位置する場所とあってトラファルガーさんと会うことは二度とないと私は密かに安堵する。
「何かあれば電話でもしてくれればいい」
「ありがとうございます」
大佐は最後まで転勤理由を聞かないでくれた。
私は大佐にペこりと頭を下げると、船へと階段を上る。
この船はかなり大きいようで、たくさんの人達が混み合って手を振っていた。
船へと階段を上り切ると大佐がいる所へと視線を向ける。
大佐は私に向かって手を振っていたから私も小さく手を振り返す。
(よかった…敬礼じゃなくて…)
こんなに人がいる中で敬礼をされたらいくら私でもできなかっただろう。
大佐にもう一度心内で感謝をする。
しばらくすると出港の合図である鐘が鳴ると、船はゆっくりと港を離れた。
私はその間、小さくなる島を眺め、一つため息をつく。
「これで本当にさよならですね…」
私は島と、トラファルガーさんに向けて呟く。
そして自分の用意された客室に戻ろうと海に背を向けて歩き出す。
「あれはなんだっ!?」
突然驚きに叫ぶ男性の声に後ろを振り返る。
――ザブァ!
「……!?」
突然客船の隣に潜水艦が浮上し姿を現せた。
船に乗っている民間人はパニックに叫び回る。
「海賊よー!!」
誰かが悲鳴混じりに叫んだ。
「ど、どうしたら……」
私が一人でどうにかなるとは思わない。
焦りでこめかみに冷や汗が流れる。
私が考えている間にすべての乗客が中にある部屋へ逃げたのか甲板には誰もいなくなっていた。
こうなればもう覚悟を決めて戦うしかないのか。
――コツ…
あぁ、死のカウントダウンのようだ。
数メートル先から靴音がダイレクトに鼓膜に響く。
緊張で後ろを振り向けないまま少しずつ近づいてきているのがわかる。
――カツ…
靴音がとうとう真後ろで止まった。
背中が強張るのがわかった。
「逃がさねェよ」
「え…」
襲い掛かってくるばかりだと思っていた私はふいに言われた言葉に違和感を感じた。
そして私はゆっくりと振り返る。
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