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「どうしたんだ?」
トラファルガーさんが不思議そうに聞いてくると私は小さな声で言った。
「ど、うして、駐屯場を、襲撃したん、です……か……?」
「……!」
私は見開かれるトラファルガーさんの目を見ると自分の立場を思い出し、心がすっと冷えた気がした。
「あれは……」
トラファルガーさんは言葉を渋り、私と目を合わせようとしない。
冷静になった私は今しかないと震える声で言葉を続けた。
「貴方は、人を殺す海賊、です…」
「……っ」
トラファルガーさんが息を呑む音がした。
そう。
私と彼は敵。
恋なんてしてはいけない。
「私は海軍です。だから、だから……」
私は真っ直ぐ驚いているトラファルガーさんの目を見ながら、拒絶されるとわかっていながら、もうもう二度と会う気になることはなくなるだろう最後の言葉を発した。
「もう来ないでください」
私はあるべき仕事をこなし
彼は必要とされる場所へ帰る
ただそれだけの事。
私がそう言うとトラファルガーさんはわかった、と小さく呟くと席を立ち、部屋を出て行った。
ぱたんと玄関の扉が閉まる音が耳に響く。
「っ……」
これでよかったんだ。
これで私は後腐れなくこの島をされる。
(なのにどうして)
どうして、
「泣いてるの私……」
自分の声が一人しかいなくなった部屋に溶けていった。
(もうなにがいいのかわからない)
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