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ある朝の出来事。
その日の私は普通に起きて普通に新聞を取りに行き、普通に新聞の記事を読んだ。
「えぇぇぇえー!!」
おそらく、叫び声は隣近所の家にもよく響いたに違いない。
私が叫び声を上げた理由は今しがた読んだ記事に書いてある内容にあった。
その内容とは。
『“女海兵、キッド海賊団にさらわれる!!』
まだそこまでなら、叫ぶことはなかっただろう。
しかし、その女海兵というのが私を海軍に誘ってくれた親友というならば話は別だ。
「な、なんで!どうしてっ!」
余りにもショックだった。
親友の名は、フィールド・ラン。
何度も記事を見ても間違えることはなく、紛れも無いランちゃんの名前が乗っていた。
「ど、したら」
今の自身は誰が見ても顔が真っ青に見えると思う。
もし……もしランちゃんに何かあったら……。
キッド海賊団は一般市民であろうと手を出すと聞いたことがある。
最悪の結果が脳裏に浮かび、頭を抱る。
しばらく経って、少し頭が冷えて、このままではラチが空かないと思い、気を紛らわすために仕事場へ向かう事にした。
――バタバタバタッ
「メイス、急げ!!」
仲間の海兵の急かす声が聞こえる。
「はいっ」
私の気持ちに関係なく今日も事件は起きる。
なんでも住人同士の喧嘩らしい。
「はぁぁ…」
もう何回目かわからないため息をした。
「幸せが逃げるぞ」
「え、きゃあっ!!」
いきなり誰かに腕を捕まれ後ろへ引き込まれた。
「ななな、何っ?!」
訳がわからず驚きながらも後ろを向くと、ニヤリと笑うトラファルガーさんがいた。
「ト、トラファルガーさん?!」
「ローと呼べ、と言ってるだろ」
そう言いながら腰に回している手で、私の腰のラインをスルリと撫でられた。
「ひゃあっ?!」
「ククッ、いい声だな」
トラファルガーさんは面白そうに笑いながら、耳元で囁く。
もちろんこういうことに免疫がない私は心臓が破裂するんじゃないかというほど恥ずかしかった。
「やっ、やめてください!」
肩を押してもビクともしない。
パニックになって涙目になった。
「ところで何かあったのか」
「え?」
最初、何を言われたのかわからなくてトラファルガーさんの顔を見ると、口元はニヤリとしたままだったけれど、口調は真面目さを含んでいた。
「か、海賊に情報は教えられません…!」
トラファルガーさんはフッと笑う。
「おれが言ってんのはそんな事じゃねェよ」
「え。じゃあ何のことなんですか?」
全く心当たりがなかった。
「お前のことだ、リーシャ」
その時のトラファルガーさんはニヤリ笑みではなく真剣な顔で私を見ていた。
「わ、私……ですか……?」
「あァ」
どういうことなのだろうか?
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