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完結後番外編


顔に当たる潮風がとても気持ちいい。
こういう日、故郷から出発した日を思い出す。
快く、なんの遺恨も残さなかったというわけではないが、後に電話もして、辛うじて心の部分は助かった。
船からキラキラと輝いている海を見ていると隣に並ぶ気配が肌を刺激する。

「大分、昔のようだな」

唐突に始まった発言はなんのことだが分からなかったか、彼が言うのだから意味のあることなのだろう。
彼は隣に居たというにのに、更に距離を詰めた。

「近いよ」

幼馴染みの時はちっとも気にならなかったのに、想いを伝えあった後では全く感じるものが違う。
それはそれは、酸っぱい想いだ。
甘いのかもしれないが、恥ずかしさのせいで酸っぱさしか感じない。

「近くない」

「船はこんなに大きいのに詰める必要はないでしょう」

フ、と目を合わせぬように顔を斜めにしておく。
こうでもしなければまともに会話が出来ないとは。
良い大人が。
恋人やそういう関係になりたくて言ったわけではないからこそ、ローから近寄られるのは想像していなかった。

「もう直ぐ陸に着く」

それを伝える為に来てくれたのだろうか。
そう、楽観視出来ないくらいには自覚した。

「一緒に出掛けるぞ」

「!……でも、いつもはお留守番してろって言うのに」

どういう風の吹き回しなのだろう。

「で、出掛けない」

急に理解が良くなったのは何だか納得出来ない。
無心に喜べない。

「へェ」

答えを分かっていたかのように言う。
見透かされているように感じる。

「今まで頼んでも降ろしてくれなかったのに、急に言うなんて酷い」

「別に意地悪をして押し込めてたつもりはないんだがな」

彼の声が耳に聞こえているのだからこちらを見て話しているのは分かった。
意地を張らないようにと気を付けていたのにああ、と内心ため息を吐く。

――シュルッ

「!?」

風を切る音が聞こえるか聞こえないかの刹那、腰に触れる感覚がし、見ると黒く焼けた腕が身体を包むように回っていた。
後ろから抱き締められていて、今までにない距離。
キュウ、と絶妙な強さで、外そうと思えば外せるが、逃がさないと思える力で阻まれて声が出せないまま、成り行きに時間が経過する。

「な、何?映画、ごっこ?」

場所は違うが、重なり合う映像が想い描かれる。
それをローが知っているとは思えないけど、パロディならば見ているかもしれないし。

「抱き締めても良い立場に並んだからな。嫌か」

聞くのは狡いと思うし、聞かないで欲しいとも思う。
聞かなくても賢い人だから分かってると思う。

「嫌じゃ、ない。だから、離して」

恥ずかしくて堪らない。
赤面でいっぱいいっぱいだ。

「それはアイツらがいつ来るか分からないからか」

とても楽しそうで何よりだ。
皮肉を聞こえないようにぶつける。

「関係ないよ。ほら、もうこの空気終わり。もうダメ」

彼の腕を掴んでキュッと握る。

「終わりたくない」

ーーブォンッ

顔が爆発した。
あああ、と意味ない羅列を脳内で変換せずに悶えた。
女殺しにも程がある。
彼は堅物なのに、どうしてスラスラ言えるのはきっと無意識なのだ。
どうしてこう、平穏に過ごそうとしていたのに乱されてしまう。

「!!……もう口開かないでっ」

ローはそこで何故怒るんだと、本当に理解していない顔で、やはり腕を緩めてくれることもなかった。



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