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38


割りと最後の方だけど、貴方がこっちを見る時に向ける熱を宿した目は到底気持ちを隠しきれていなかった。

「帰るな、行くなって言ってくれた時、本当は私も帰りたくないって言いたかった」

異世界の異分子なんだから居ちゃ駄目なんだって、思っていながらもこの世界はあまりにも居心地が良すぎた。
ローが居る世界に居たかった。
愛している人達と過ごしたかった。
あの時、リーシャに拒絶されても嫌われてでも、襲ったローに涙を零したのは、怖いからでも悲しかったからでもない。

「こんな私でも居ていいんだって、呼び止めてくれるローくんが嬉しくて」

嘘を吐いて居場所を作ったのに、それでも行くなと止めてくれた事は何よりも幸せな瞬間だった。
異世界という場所で生きていけたのも、いられたのも、全てローのおかげ。
彼の父親も、周りの仲間も、かけがえのないリーシャの宝物だ。
宝物に愛されることは幸福である。

「ロー、ロー……今更言っても貴方にはもう伝えられないけれど−−」





愛してたよ。







「それを次は悔いのないように伝えろ」

ペンギン達の声のようで違う声音が頭の中に響いた。

え、と音になる前、棺の蓋が開いて誰も入っていない中身が出る。
それに目を白黒させると誰かが背中を押す。
棺の中には水が入っていてそこに落ちていく。

――ゴボゴボボ

ぐん、と引っ張られる感覚に落ちていくと数秒の感覚でさざ波がある青色が見えた。
あれは、海か、空か。
海だ、と認識するとそこへ近付きこのままでは、と焦る。
気泡を出しながら唸っていると目前になる。
最後は海だと、どんどん下へ落ちる。
光が射し込み温かい場所が水面にあると感じ、揺りかごのように眠たくなる。
水の中なのに苦しくない。
不思議に思っているとそのまま目を閉じる。
眠たくなるとは呑気な体だ。
焦っていたのに眠くなるとは。
ふ、と意識が浮き上がる感覚がして、目を開けた。
隣に、寝息を立てる音がする。
横を向くと違和感なくそこに居たのはローだ。
目を開ければローが隣にいて寝ている。
前までは日常だったのに、安堵した。
輪郭をなぞり存在を確かめていると男も起きてこちらを見る。
まだ寝ぼけているのか目がとろんとしていた。
しかし、いきなりカッと目を開けて暫し停止する。
そして、いつもよりも情熱的に包容してくるのでああ、本物だ、と高揚。

「起きたか」

彼が気分を高く何かを言うのは凄く珍しい。
それに、ローがピンピンしていた。

「ロー、生きてた……!」

棺桶と葬式で死んだところを見た直後だから涙が出る。

「それはこっちの台詞だ」

ローの言葉が分からなくて目をぱちくりとさせた。
聞いてみるとリーシャは三日も目覚めなかったらしい。
詳しい話を聞くとこの世界に戻ってきて彼一人が海で浮いていた所を船員達が助け出した後、ローは目覚めたが、リーシャが隣に居ない事を知り焦って探し回ったらしい。
冬島の中で雪の中に埋もれているのを見つけ出したらしい。
まるで初めて会った時のようだと思う。
冷たい身体に死んでしまうと、怖かったと告げるローに自分もローが死ぬ夢を見たんだと言う。

「私、伝えたい事があるの」

最後、棺桶に引き込まれる前に告げられた忠告が今でも耳に残っている。
悔いの無いように。
醜い所を散々見られていて、取り繕う必要もない事は明白だった。
なら、素直になっても良い。

「ローのこと、愛してる」

告げてしまった。
ローの顔はみるみるうちに変化し、目を溢しそうな程開けて、今にも口をぱっかり開けそうだった。

「っ――!」

喉がつっかえたのか、絶句したのか。

「不意打ちはなしだろっ」

赤面する男が可愛く思えた。

「死ぬ夢を見た時、皆が悔いのないように本音を言えって言われて、気づいたんだ……だから、もう自分に嘘を付かない」

首をゆるりと下げて、独白を始めた。
独白を、と言ってもこれは今まで言えなかったこと。

「私、ローくんとの関係が変わるのが怖かった。私なんて愛されるわけない。きっと本当の事を知ったら離れていっちゃうって思ってた」

嫌われたくないのは自然でしょ。

「離れるわけねェ……またくん付けしてるぞ、馬鹿」

誰だって嫌われたくない。
ローに指摘されて気恥ずかしさに悶えた。

「酷いなぁ、それにまだ慣れないし、恥ずかしいよ……」

ローは下げていた顔をぐいぐいと上げさせ真っ直ぐこちらを大好きな瞳で射抜いてきた。
そして、二人はお互いにどちらともなく口づけをした。





「「「あああああああ!?」」」

――びくっ

突然の声に驚いていると体を離したローが呆れたように医務室の扉を見る。

「今の状態で叫んだ奴、今のうち出てこい」

と、言うと扉が開きわらわらと船員達が飛び出してきた。

「いーとこ邪魔してすんません」

「リーシャ!居なくなった時は大変だったんだからな!」

ぷんすかと怒るベポに申し訳なさで謝る。

「でも!帰ってきてくれたんだから許してやるよ!」

まふっ、と毛皮が体を包み込む。
ローを押し退けて抱き締めたベポにローが圧迫された顔のまま椅子に座る。

「皆、あの、ごめん、なさい」

立ち上がることが難しい体勢なのでこのまま紡ぐと、彼らは本当にな!と言う。
一生恨まれても仕方ない。

「キャプテンが報われたから許してやる!」

「おう!な、皆!」

船員達の許す理由がそれなのは驚きだ。

「見舞いなら明日にも出来る。これ以上居座るな」

ローが触れられたくないのか、しっしっと彼らを追い出そうとする。
文句を言う彼らにお構いなしにローは刀を振り回そうとするが、彼らはそれ見て一目散に散る。
嗚呼、戻ってきたんだ。
皆とローの元へ。

「今度こそ、お前がこの世界に居る理由になってやる」

ベポから離されたのでローの声が良く聞こえた。

「私、私も。この世界から去りたくない。ずっと居たい。私、ローくん、の隣にまだ、居ても良いのかな」

父親なんて本当はどうでも良い。
彼らと旅をしたい。
例え、命が無くなるような過酷な旅だろうと。

「当たり前だ。一度離れた罰として。おれの隣に居続ける。これは頼みじゃない。命令だ」

目から滴り落ちるもの、熱くて。
こんなに都合の良い言葉をくれるのは彼だけだ。
もう、離れない。
皆と生きたい。











この命が尽きるまで






「兄さん、いつまで見てるの?」

「もうちょい、あと少し、な」

兄弟は遠ざかる船を見て満足げに笑う。

「母さんが無事戻ってきて、父さん喜んでたな」

「私達のフラグはばっちり建設出来たわね」

「フラグってなーお前」

兄は妹の言葉遣いに目をやれば妹はにんまり笑う。
二人は影の功労者。
未来は過去により作られるとは、彼らはよく知っていた。
それを知るものは当事者と静かな海だけ。

















end



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