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31


やってきた。

(ユウカちゃんが言っていた島……)

ルーキー達が集まるシャボンディ諸島。
彼女の言葉通りだとしたらローもその場面を漫画で書かれているのだろうか。
色々な憶測が脳内を飛び回る中、思考の外である現実ではハートの海賊団の上陸はかなり目立っていた。
ルーキーと呼ばれるようになっていたローを筆頭に歩くと様々な目が射抜く。
畏怖、好奇心、殺気、野次馬の様に見てくる視線は彼等と居るうちに自分も多少は慣れている。
此処は新世界に行く為に立ち寄らなければならない島で、この島に居るコーティング職人という人に船をコーティングしてもらい魚人島へ向かうらしい。
そこを経由して新世界へと行く予定。
全てベポに聞いたのでリーシャも楽しみである。
機嫌良く歩くにも視線が多過ぎて途中でそれも萎んでしまったが。
慣れてはいても晒されているとなるとやはり精神面にクる。
ローの後ろに、いや、ベポの巨体に隠れるようにして歩きたいとローに頼むとあっさり許可された。
恐縮しているのを理解してくれていたのだろう。
こういう素早い理解はとても有り難い。
リーシャは別にロー達のように目立ちたい訳でも島を荒らしたい訳でもない。
それに、ローからの情報によるとこの島には並の賞金稼ぎも彷徨いている無法地帯もあるので気が抜けない。
流石にそこを一人で歩こう等とは思わないので今回はしっかりロー達に付いていく。
余所見は絶対にしないと決めていた。

「あれ?……あれれ?」

決めていた、決めていたのに迷子になった。
何故だろう、青筋を浮かべるローの顔が浮かんでは消える。
雷が落ちるに違いない。
ウロウロしている余裕はないと判断し慌てて周りを見てから近くにある建物に避難しようと急ぐ。
前から何かと巻き込まれていたので小さな電伝虫を手渡されている事を思い出して鞄から取り出す。
ロー直通の小電伝虫にかけると直ぐに繋がる。
どうやら先程からかけていたが気付いていなかっただろうと言われて申し訳なく思う。
鞄に入れる場所はちゃんと考えて入れよう。

『鞄じゃなくて谷間に入れろ』

「谷間?」

『胸だ。谷間有るだろ』

「ええ!無理だよ!?」

嫌だ、谷間に入れるなんて。
電伝虫は鳴る時に揺れるのだ。
それを谷間から出すなんて、見られでもしたら恥ずかしくて部屋に籠もって二度と出て来れなくなる自信がある。
電話越しのローに嫌だと言うと相手は頑なに入れろと言う。

『嫌なら俺が入れてやる』

「もっと嫌だよ!」

どうやらローは相当キレているらしい。
普段よりも低い声で脅してくる。

「兎に角っ、待つから……!」

店の外で電話を終えてガチャンと受話器を置く。

「もうっ、なんで谷間になんて」

小さな声で文句を吐き出す。
冗談にしても冗談ではない。
密かに絶対に拒否しようと決意して外の様子を見る。
電話をするときは外でというマナーが元の世界での常識(自分の中では)だったので自ずと足が動いた。

「おい、女」

「え?私ですか?」

最初はぼんやりしていたので反応が遅れた。
横を向くと見覚えのある赤い人が居る。

(……嗚呼!あの時の!?)

確か手配書と実物を見た事がある。

「お前一人か、あの時の女はどこに居るんだ?」

ユウカの事を聞いているのは直ぐに分かった。

「故郷に帰られました」

フッと笑みを浮かべて伝えた。
赤い男、ユースタス・キッドはそれを聞いて「そうか」と言うとこちらを見てきたので首を傾げる。
彼は口元を上げるとこちらへ一歩近寄ってきた。

「お前ェ、一般人にしては俺に物怖じしねェな」

「そうですか?」

「嗚呼。大抵は酷く怯えた目で見てくる奴ばっかりだな」

「貴方はユウカちゃんの知り合いですし……それだけですよ。それより他に行く所があったのではないですか?」

出来るだけ平常心で受け答えして、他の事に思考を進ませる作戦だ。
キッドは思い出したようにこちらを窺いまたな、と言って去って行った。
それに内心安堵する。
内心、気が気ではなかった、彼に何かをされたら何も出来ないままなすがままにされるくらいリーシャは弱い。
去ってくれたのはとても有り難かったので何度も良かった、と心の中で繰り返した。
それから五分くらいしてからロー達がやってきたので合流。
そこで歩きながらローのお小言を貰った。
船員達の反応は苦笑していたり無心そうにしていたり、笑っていたりと様々だ。

「もう分かったから……うん」

精神的にもぐったりだ。
そんな状態でユースタス・キッドに会った等と言い難い。
更に何か言われるお小言追加になるのは勘弁願いたかった。

「あ、そういえばこの島に持ってるクーポンのお店があるの。だから行ってもいい?」

ふと思い出して頼むとローは何か言おうとした口を閉じた。

「行くぞ」

やれやれという幻聴、いや、副音声が聞こえてきそうだ。
許しをもらえたのでそこへ向かう。
船員達もワイワイと付いてきてくれる。

(ひとまずお説教回避出来た)

ホッと息を付いた。
お店に着くと日用品を買い込む。
チェーン店なのでクーポンが使えたのでお得感で満足だ。
ローも進んで色々買っていく。
そのついでには分からないが香水やコロンも何故か買い込んでいくのでハテナマークが頭に浮かぶ。

「どこかの女性にプレゼントするの?」

「……気にするな」

ローは何か言いたげでありながら何かを飲み込んだように言う。
リーシャは特に何かを考える事はせずに買い物を続けた。



今日は何とヒューマンオークションへ赴くらしい。
ローは別に無理をして付いてこなくても良いと言っていたが、何か胸騒ぎがしたので待つという事はしなかった。
本当はとても怖いがそれを押し込めてリーシャはロー達に付いていく。
ローは仕切りに「本当に来るのか」と聞いてきたが首を縦に何度も振った。
ヒューマンオークションの会場に着くと胸がムカムカして気持ち悪さが湧き上がってくる。
それを我慢しているとローがこちらをちらりと見て「顔色が悪い」と指摘してくるのを笑顔で阻む。

「あそこに座るか」

リーシャの体調を考慮して入り口から近い席を選んでくれた。
その気遣いに嬉しく思い席に着いてから数分後にはオークションが始まり競売が始まる。
次々と値段を付けられた未来の奴隷の絶望的な顔は見ないように俯いていた。
ローの隣でずっとしていた、耳も塞ぎたいが此処まで来たのに塞ぐのは出来なかった。
何故かと言われても分からないが、耳を塞いではいけないと心がストップをするのだ。
我慢して何分経っただろう、いつの間にか耳鳴りに近いものが止んでいた。
耳を塞がなかった代わりに耳鳴りが、精神的な防御をしていた何かが止まっていたのだ。
耳鳴りなのか、よく分からないが、耳栓の代わりに鳴っていたのだろう。
前を見ると一人の少年が立っていた。

(!!)

彼は、リーシャの良く知る男の子。

「モンキー・D・ルフィ……」

口を次いでた言葉であった。
その台詞に隣に居た幼なじみが反応した事を自分は知らない。
ルフィは何かに怒っていた、周りの客達は静まり返って驚きに顔を歪めている。
それから目まぐるしく変化していく。
天竜人とローに教えてもらった人達が突然銃を発砲して、ルフィの残りの仲間達が空からやってきて、ひっちゃかめっちゃかとなった。
カオスという言葉がピッタリだ。
目まぐるしい中でまた目まぐるしい展開へと突入していく。
オークションの舞台の奥から老人が現れた。
その老人は後にハートの海賊団とリーシャに一滴の波紋を投じる事になる。



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