×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

30


現在、ハートの海賊団の船員達は船長も含めそうめんを啜っていた。
コックとリーシャの提案した共同メニューである。
夏の海域というのもあって丁度良かった。
もう直ぐシャボンディ諸島へ着くと言っても明日、明後日という話ではないので船員達もソワソワして待ち遠しく思っている。
そうめんの啜る音がたくさん聞こえる食堂では居なくなったユウカの話で埋まっていた。

「消えた後、船内をくまなく探したのに全く見つからなかったなー」

「何かの能力者かと思ったのに違ったみたいだしなァ」

船員達の会話を聞きながら同じくそうめんを食べていたリーシャは内心苦笑。
どうやらまだ異世界からきた説に納得をしていなかったらしい。
もし、リーシャが来たと言ったときはどんな反応が待っているのか少し気になる。
しかし、そんな事言える筈もなくこの日までずっと生きてきた。
今更「私も異世界から来たの」なんて言えるわけもない。
ローだってリーシャの正気を疑うかもしれないし、ユウカに影響されたのだと思われてしまうのが落ちだろう。
ズルズルと音を立てて麺汁の味を楽しみながら食べ終えた。
隣に居るローをチラッと見るとお代わりしていて、食欲旺盛だな、と笑う。

(ユウカちゃん、無事に帰れたのかな)

彼女はただの女子高生だと言っていたし、帰ったら学生生活をまた送っていたりするのだろうか。
もしかしてら浦島太郎みたいな展開だったりするのだろうか。
十年以上向こうでは経っているかもしれない。
もしかしたら身体も無いかもしれない。
こちらに来るとき、向こうで自分は何をしていたのか全く覚えていないのだ。
確かめる術もないままモヤモヤとする。
考えていたらいつの間にかローに呼び掛けられていたらしく、おい、と耳に聞こえた。
意識を戻して前を向くと怪訝そうな顔をした男。
誤魔化す為に何?と聞くともう食べないのかと聞かれて頷く。
ローはもう食べたらしい。
まだ何か言いたそうにしているローは船の突然の揺れに舌を打つ。
どうやら海が荒れ出したようだ。
外に居る船員達に連絡をして潜るように言いつけるとベポはどこ行ったんだ、と呟くロー。
そういえばと周りを見回してみれば先程まで美味しそうにそうめんを食べていた白クマが居ない。

「ベポはどこだ」

船員達に聞くが皆知らないと言う。
ローは探す為にか、食堂を後にした。
それから十分後、ローからベポが倒れていたと聞かされて大急ぎで医務室に向かう。
扉を開けると途端にデジャヴに襲われる。

「ベポッ」

「………………誰?」

「え?」

この感覚はまさか。
そんな気持ちでローを見ると頭痛がしているという仕草の彼。

「記憶喪失だ。恐らく一時的なものだろうな」

それを聞いて「そんな………」と言葉を無くす。
ローに続いてベポまで、この船は記憶喪失の霊にでも祟られているのかと思ってしまう。
しかし、落ち込んでいてはベポを不安にさせてしまうので気を持ち上げて何とか質問をする。

「君、名前は覚えてる?」

「覚えてない」

そっか、としか言えない。
前回のローの時とは違い、根本的な記憶がないようだ。
ではどう対応しようかと迷い、近くに頼れる幼なじみが居る事を思い出す。

(迷う必要はないよね)

「ローくん」

「ああ。分かってる。こっち来い。お前は此処で安静にしていろ」

「うん」

ベポに言いおきローとリーシャは外へ出る。
医務室から出ると船員達が目の前に居た。
どうやら聞き耳を立てていたらしい。
ローは船員達にベポの様態と今の記憶喪失の状況を話す。
例外なく誰もが驚き困惑していた。
身内のリーシャもローが以前記憶喪失になったときの経験があってもどうすればいいのか分からない。
ローみたいに明日になったら思い出していてくれればいいのにと思わずにはいられなかった。

「リーシャ、お前はベポに近付くな」

「え、な、何で?」

寧ろ進んでケアをしろと言われるとばかり思っていたのに。

「ベポは元々野生だ。いくら話せてもいきなり暴れるかもしれねェ。あいつがんな事しねーとは思いたいが、記憶喪失ってのはそういう奴だ」

説明された内容に従うしかなかった。
無闇に近付いたら何があるか分からない。
それはロー達も同じなのだ。
記憶喪失の繊細さは誰よりもローが詳しい。
何故かと言うとリーシャが記憶喪失だからで、それを何とか治そうとして調べてくれているから。
罪悪感が凄いが、今では嘘が上手くなったので目を見て有り難うと言えるようになった。
そういう訳でローは記憶喪失について特に詳しい。
そのローに任せる他ない。
船員達もローが医者として腕が良いのを理解して熟知しているので反対する意見はなかった。
解散となってリーシャは自室で時が経つのを待つ。
外はまだ酷い嵐でローが言うにはシケらしい。

(ローくん達、大丈夫かな?)

万が一の心配をしてしまうのは暇だからだろう。

翌日。

「なーリーシャ、昨日の記憶がないんだけど何か知ってるか?」

という訳で良く分からないまま記憶は元に戻っていた。
本当に原因も何も解明出来ないまま幕を閉じたし、ローも全く不可解だと頭をかいて諦めた。



今日は半年にあるか無いかのシケが発生して船の中に居るのに床が揺れていた。
このシケを体験したかったので少しの間だけその激しい揺れに身を委ねていたのだが。

「う、うう。ふ、袋」

「酔い止めを飲めと言ったのに飲まなかったからだ」

「でも、此処は海の上だから………自然に任せてみないと危機感が抱けなくなるし」

ローが隣に座っているのだが、ほれ見た事かと言ったニュアンスを含んで言ってくる。
何の苦労も無く乗るのはそれこそ危機感が薄れてしまう。
戦闘も出来ないただの家事をするだけの海賊という中に身を投じている自分としては教訓というか傲(おご)らない人間で居続けねばならない。

「こんな事でお前の危機感とやらが開花するならとっくにお前は厄介事に巻き込まれなかった筈。つまりは無意味な事をしてる」

「?ーー無意味?」

「鈍感な性格のお前が何かを鍛えても全部お前の良心に阻害されちまうって事だ」

ローに言われた内容を自分なりに噛み砕いて反響させてみる。

「私って巻き込まれ易い体質だもんね」

苦笑しか出てこない。
ローは揺れがなくなるように深海に潜るよう伝えてくると言い、部屋を出て言った。
ベッドにゴロリと寝て、揺れる振動に吐き気を誘発させられそうになり深呼吸。
シケはいくら船に乗り慣れてもどうにもならないくらい三半規管を攻撃してくると理解。
リーシャは青白い顔だろう状態で気持ちの悪いタイプの頭痛に溜息すらする気力が尽きた。



prev | next