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29


プリンを冷蔵庫に入れた後、宴の準備を整えたらしい甲板へ向かう。
ユウカは「私も出ていいんですか」と不安げに言っていたので大丈夫だと笑う。
ローに怒られた一件で恐縮してしまっているのだろう。
もう許したようだし、ユウカも反省している事は皆知っている。
ロー達に怒られる事はもうないと言うとユウカは恐る恐る甲板へ向かう。
それを見ていて微笑ましく思うと後に付いて歩く。
甲板の前の扉に行くと既に賑やかな雰囲気が漂い高揚感を感じる。
ローも居るのだろうかと思いながらユウカが扉を開けるのを見ていると彼女は緊張した面持ちで扉に手を掛けてゆっくりと引く。
目の前には船員達と周りに囲まれているローが見えた。
ローや皆がこちらに気付くと名を呼んで手招いてくる。

「こっち座れよ!もうとっくに始まってるぞ!」

ユウカを拒否する声など全くしない。
それに不安げにしていた彼女がグッと掌を握って嬉しそうに笑う。

「ユウカ、こっち座れ」

ベポが自分の隣を指すので彼女は雰囲気に飲まれないようにしながらそこへ向かう。
リーシャはいつものようにローの隣に座ればいいのか、遠慮して違う席に座ればいいのか。
迷っているとシャチが早くあっちに座れよ、と催促してくるのでローの隣に行く。
彼が凝視してくるのを感じながら座ると目の前のコップにお酒が汲まれる。
遠慮したい気もあったが、折角の宴の雰囲気を悪くしたくなかったので言葉にはせずに笑みを浮かべた。
全員が揃ったのでシャチを筆頭にスピーチをし出す。
二億になって、と始まるシャチの声に全員がテンション高く賛同した。
最後にローへの言葉を欲しがる皆に彼はお酒を持ってそれを軽く上げる。

「これからもおれに黙って付いてこい」

「「「船長〜!!」」」

ハートマークが付きそうな語尾で盛り上がる船。
とても楽しいな、と思った。
それから四時間後にはデロンデロンな船員達が周りに出来上がっていて明日は二日酔いで苦しくなるんだろうな、と苦笑。
既に深夜になっていたので二時間前にユウカは先に寝ている。
リーシャも多少お酒を飲んでしまい微睡み出す。
立ち上がってローにもう寝てくるね、と伝えると彼は眉を潜めて口を出した。

「そんなに足がフラフラでぶつかるだろ」

「そんな事ないって、ちょっと飲んだだけだし」

そう言ってもローは微睡み掛けている事を見抜いている目で立ち上がってこちらへ来て肩を掴む。
部屋まで送ると言われて、まだ宴の途中だと断っても引く気配がない。
それに仕方なく受けて部屋へ一緒に向かう。
途中から凄く眠く感じてフラフラとなるリーシャにローはいきなり横抱きで抱き上げてきた。
少しだけ意識が浮上してごめん、と申し訳無く思う。

「寝とけ」

その言葉に自分は安心したのか、肩の力が抜けていく。
眠気がピークになると瞼を閉じた。



翌日、出せなかったプリンを皆で食べていると、ユウカが食堂へやってきた。
先程プリンを食べ終えて自室に帰ったのに、と思っていると彼女の姿に驚く。
ユウカが初めて現れた時の服と鞄を持って立っていたのだ。

「私、もう帰るみたいなので皆様にご挨拶をしに来ました。今までお世話になりました」

「「「ええええ!」」」

ユウカの突然の言葉に食堂は騒然となる。
ローも居たので彼の反応を窺うと、特に驚いている訳でもなく分かっていたような顔をしていた。
もしかしてそれを見越していたのだろうか。
確かに前にシャボンディ諸島に着く前に居なくなると言っていたが、本当に突然だ。

「とても楽しくて、とても嬉しかったです。皆さんに会えて私は幸運でした」

その言葉を皮切りに彼女の身体を淡い光が包む。
それからゆっくりと薄くなっていく姿に寂しくなる思いが胸に落ちる。

「元気でね」

最後に言えたのはそれだけ。

「はい。リーシャさんも」

ユウカは笑顔でフワリと消えた。



***



ユウカside


目を覚ますとチャイムの音が聞こえた。
どうやら一限目丸ごと寝てしまっていたらしい。
友人が笑って爆睡してたよ、と言う。
涎は、良かった付いていない。

「海賊の世界にトリップした夢見てた。あーあ、ずっと見てたかったなぁ」

「あんたアニメ好きだもんね」

「うん。また夢見ないかな。でもお別れとか言っちゃったしなー」

「ま、そんな夢みたいな夢が見られた事はラッキーだとでも思って現実を見るしかないね」

そう言って渡された寝てしまっていた時間のノートを渡されて写せという意味合いで渡されたのでトホホ、となる。
夢から覚めると途端に現実が身に染みてきた。

(にしてもリーシャさん、だったかな?あの人どっかで見たことあるんだけど。もしかして小さい頃とかに近所に居たお姉さんとかいう落ち?)

夢に出てくるのは見たことのある記憶。
いらないものをかき合わせて捨ててしまおうってくらいの必要ない物が夢に出てくる、らしい。
インターネットでか、テレビかでそんな説明を見たことがある。
ユウカはまだ眠気の残る頭で考えてユルリと立ち上がった。

「帰るか」

「帰りどっか寄ってく?」

「んー。冷たいの食べたいや」

友人はじゃあ、と言って何処かの食べ物や、と候補を言っていく。
歩きながら話しをしていると交差点が見えて止まる。
その頃には夢の内容も半分覚えているかいない程朧気になっていた。
ローが出てきた事は覚えているが、後は誰が出てきていたかな、と思い出そうとしても忘れてしまっている。
女性の顔は何となく覚えているが名前が思い出せない。
彼女をどこかで見た事のある理由をぼんやりと、思い出せないまま町を歩く。
交差点の向こう側に設置されているビルの大型テレビから『×××の××さんが失踪した後××に至った事件から早×年。−−既に××の』というアナウンサーの声がユウカの耳に入る事はなかった。



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