26
町を歩いているとユウカが此処に行きたいあれを食べたいとあちこちそこへ向かってははしゃいでいる。
それにローは警戒すべき相手ではないと思ったのかベポに買ってやれと言っていた。
普通の扱いになった事を喜んだリーシャはユウカと一緒になってアイスやクレープを食べた。
それを見ている皆の視線は様々だったが、彼女と別れるその日までは楽しく過ごしたいと思う。
一時間、二時間と経過していく折、彼女がトイレに行きたいと言い辛そうに言ってくるのを聞いたリーシャは頷いてローへちょっとお手洗いに行ってくると伝える。
ベホを付けようと言われたが直ぐそこなので必要ないと言ってそそくさと移動した。
二人で少し先にあるトイレの場所を探して済ませるとハンカチで手を拭きながら外へ出る。
−−ドオオン!
「きゃ!何!?」
ユウカが身体を震わせて音の元を探す。
これは爆発音ではなく何かが破壊された音だと分かったので彼女の手を握って人の波へ向かう。
「あ!嘘。あの人、ユースタス・キッドだ!」
ユウカのその時の声音は畏怖と言うより嬉しそうに感じた。
喜んでいる場合じゃない。
「きゃ!あ、ペンダント?浮いてる?」
首が引かれる感じに下を見下げるとペンダントが浮いていた。
それにユウカがあの男の能力だと興奮気味に言う。
能力という事はローと同じ能力者と言う事だ。
その事実に焦る。
巻き込まれたら大変だ。
ユウカからは見えるらしいがこちらからは大きな機会仕掛けのような物体しか見えない。
「格好いい!本物だ………」
「ユウカちゃん。ちゃんと歩いて!」
恍惚とした顔に言うが聞いていない。
ミーハーのそれによく似ている気持ちが彼女の心にあるのだろう。
リーシャだって麦藁の一味に出会ったら興奮してしまうかもしれない。
しかし、彼女の見ている先に居るのは善良な海賊ではない可能性がある。
「折角この世界に来たのに見れないなんて」
名残惜しげに呟く少女。
「三億越え………凄いなあ」
ルフィだって三億だった。
それにしても人混みが込み過ぎて前に進まない。
そう滅多に感じない苛々を感じている時、ユウカが叫ぶ。
「あ、なんかズタボロの人達がこっちに!」
「え!?」
もしや、と後ろを向くと数人の武器を所持した男達が人混みに向かって走ってくる。
人に混じって逃げようとしているのかもしれないと思うと顔も蒼白になるというもの。
「逃がすかよ!」
彼女の言っていた通りの男が姿を現した。
「ユースタス・キッド!はあ〜凄いー」
ユウカは間近に現れたキッドに夢中だ。
「ユウカちゃん、そんな事言ってる場合じゃないよ!」
目を覚まさせないと。
「ヒィ!もう止めてくれ!謝るからァ〜!」
「海賊王の事は無しにしてくれ!」
「謝って済む問題ならてめェらは幸せな脳を持ってるみたいだなァ!」
ユースタス・キッドの何を逆なでしたのかは知らないが傍迷惑過ぎる男達だ。
武器の所持具合から見て恐らく戦闘をやっていたのだろう。
民間人の沢山居る町でよくまあ暴れてくれたものだ。
「食らいやがれ!」
キッドの渾身(こんしん)の一振りが男達の頭上に振り下ろされる。
それを見たくなくて目を閉じると声が聞こえた。
「ワンピースはある」
「あ?」
ユウカの確信を得た言葉にキッドの声が聞こえる。
その動きを止めてこちらに視線を寄越す。
背筋が凍りそうな顔つきだったが、ユウカは臆せず言う。
「貴方が今している事はただの破壊行為に過ぎない」
「んだと?」
「ユウカちゃん!?」
なんて命知らずな言葉を言うのだ。
ギョッとして顔を見ても彼女からは真剣なものしか感じ取れない。
「新世界に入ればこんな人達、潰す価値も無いって後悔しますよ。貴方が超えなければいけない壁はこの人達を今叩き潰す暇がある場所じゃないですよね」
「…………!」
キッドの目が眇められる。
そこにもう怒気は感じられない。
「貴方は一繋ぎを望んでいる。貴方の潰すべき人達はこの海の人達ですか?」
「くく、ハハハハ!」
ユウカの問いにキッドは突然笑い出す。
それにユウカは怪訝な顔をしてチンプンカンプンだと言う目を。
かく言うリーシャも訳が分からない。
「世の中、旅をしてみるもんだな。てめェみたいな女がこの世に居るとは!」
「あ、ほ、褒められてるの?」
呆けた状態のユウカは困惑しながら呟いた。
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