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25


リーシャとベポの幼児化事件から三日後、島に着いた。
ベポも自分も記憶を朧気に持っていたので恥ずかしさに耐えながら皆に謝った。
ベポは船の中をかじったり、爪とぎをしたくらいで、特に被害という被害はなかったがそれでも頭を下げた。
自身は生意気な様子であったという記憶くらいの鮮明さで、皆から「小さい頃はおませだったんだな」とからかわれた時に顔を青くしたのは当然。
ローから見れば凄く不可解な事だろうからだ。
昔は、ローと過ごした幼少期は大人しくて反抗なんてしなかったし、尖っていなかった。
だから、いつローにその事を聞かれるのかとビクビクしていたのだが、何も聞かれる事はなかったので拍子抜けだ。
島に降りた後も二人で行動していてもその話題に触れない。

(どうして聞かれないんだろう)

不思議だと思われているだろうに。
もしかして、ローと出会っていなかった過去を見たとでも思っているのかもしれない。
それはそれで正解でもある。
実は、ローと出会って小さくなってしまう前の人生、即ち元の世界での小さな頃、己はあんな風な子供だった。
少なくとも心が広いだとかお利口だとかいう性格は持ち合わせていない。
常に周りは敵だと思って警戒を怠らなかった。
そんな生活が当たり前で、周りには媚びる人間や目がお金に眩んでいる者ばかり。
辟易していて、死ぬことも覚悟していたくらいだ。
それには理由が色々とあるのだが、そのピークが今回の幼児化の年齢と当たってしまったのだろと考えられる。

「着いたぞ」

考え事をしていたからローが歩みを止めた事に気が付かなかった。
上を見上げると時計のマークが看板に描いてある。
今日は船にある全ての時計を修理と点検に回すのだ。
因みにユウカはシャチ達と留守番組。
彼女は残念がっていたがただ時計屋に行くだけなので仕方がない。
そして、幼児化の時に何か言ってしまったのか、彼女は距離を置いて接してきた事が残念でならない。
落ち込んでいると「バカの頭の中を気にする時間が勿体ねェ」とローに言われてここまでやってきた。
バカとは酷い言いようだ。
でも、警戒対象としては薄れてきたので密かに嬉しくなった。
時計屋の主人はローの事を知らなかったらしくすんなりとオッケーを出して修理をし始めてくれる。
海賊とバレると殆どは怖がって怯えて何も手に付かなくなる事があると船員から聞いていて安堵した。
さて帰ろうと思っていると人混みの中に黄色い色が視界を過ぎる。
綺麗な色だと一瞬の時に目を奪われているとローに声を掛けられた。

「今、綺麗な色をした髪の女性が居たよ」

「へェ」

どうでも良さそうな返事にもう、となる。
男の子なんだから少しくらい食い付いてきて欲しい。
ストライプ模様の服で顔は見えなかったけれど何かを付けているような後ろ姿だった。

「他の事に気を取られてたら転ぶぞ」

「え、そんな事にならないもん」

「どうだか」

こんな会話も幼児化して以降だから少し懐かしくなる。
あのまま小さいままならば普通に対話することも叶わなかっただろう。

「それにしても凄い人だね」

「ジャボンディ諸島の途中にある島だからな」

「え?」

思わぬ言葉に言葉を失う。
ユウカが言っていた言葉が蘇る。

「そっか」

「別に不安になる事はねェよ。半分来た以上おれ達は前に進むだけだろうが」

ローの心強い言葉に励まされるが、彼が思っている不安と自分の不安は違う場所を指している。
これからの未来がユウカの言った通りになるならば彼女はこの先の出来事を知っている事になるのだ。
彼女が嘘をついていないと本当は分かっているからこそ、目を下に下げる。
ルフィ達も強者の相手をして強くなってきた。
けれどリーシャは弱い。
初めから海賊になる為に船へ乗ったのではないから当たり前なのだが、自分は一般人並に弱いと知っている。
シャボンディ諸島へ着いたら強者達もわんさか居るのだ。

「ローくん、私」

こちらを向いて耳を傾けるローに言葉が詰まる。
もし、これ以上は一緒に行けないと言ったら彼はどんな顔をするだろう。
駄目だと言うかもしれない、構わないと言ってくれるかもしれない。

「ユウカちゃんをどうするのか聞きたい」

代わりに出たのは別の事。
これも気になったから今はこれでいいのだと己に言い聞かせる。

「此処でも良かったんだが、シャボンディ諸島で下ろす」

「え?なんでここじゃないの?」

「シャボンディ諸島は観光地だ。そこで働いて金を貯めたら何処へでも行ける船が多く出てるだろうしな」

「ローくん………ふふふ」

「何だその顔は」

「優しいなって」

そう言うと彼はこちらを向くのを止めて帽子を深く被り直した。






時計の修理が終わったと電話が掛かってきたのはそれから三日後。
ログは今日溜まるので丁度良いタイミングだ。
取りに行こうと外へ行く用意をしているとローが部屋へ入ってきた。

「リーシャ、こいつも行きたいと駄々を捏ねだした。どうにかしろ」

「駄々って子供みたいに言わないで下さいよ!リーシャさん、私、島に降りて見てみたいです!この世界の景色をまだじっくり見たことがないんで」

ユウカが興奮気味に話すのを聞いて笑顔を浮かべる。
彼女の姿はリーシャの服を貸しているのでカジュアルだ。
嬉しそうに笑うユウカを見てローを仰ぎ見ると彼は勘弁してくれと溜め息を付く。

「おれの味方は何処にいる」

「外じゃない?」

恐らく船員の助っ人を望んでいるのかもひれないが、生憎彼等も各々の時間を過ごしている。

「チッ………ベポ達も連れてくか」

暗にオッケーを出してくれたようだ。
喜ぶユウカを筆頭にローは仲間を集めて外へ赴いた。

「問題を起こすんじゃねェぞ」

「はいっ!」

目を輝かせて周りを見るユウカに船員達も苦笑している。
共に行動するのはシャチとペンギンとベポだ。
このメンバーで外出するのは久々だった。
それぞれが歩き出す傍ら、あちこちに目を向けるユウカは今にも迷子になりそうな程はしゃいでいる。

「こんだけはしゃいでガキじゃないとか………随分と箱入り娘だったんだなァ?」

ベポが首を傾げて言う。
異世界説があまり信じられていないのが今ので理解出来た。



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