×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

24


目が覚めたら隣に何故か白クマが居た。
でも子どもだったので全く怖くなかったのでつかず離れずの態勢で眺める。
周りを見るとどう見ても森だった。
林と言うには空気が暑くて密集している。
どう見ても此処は島国でも人が居そうな場所でもない。
居たとしたら民族くらいだろうか。
食べ物も何もないのに、と幻滅する。
浚われた可能性が五十パーセント。
置き去りにされた確率も同じく。
犯人が戻ってくるか、あの親とも言い難い男が身代金を部下に持たせて此処へ遣ってくるのが先か。
溜息を付きたくなるが犯人に隙を見せたくない。
怖く何てない。
怖がったらもっと心が壊れてしまう。
恐ろしい未来に背中がゾッとする。
それだけは絶対に回避しなくてはならない。
犯人が戻ってくるのが、先か。
それとも此処から動いた方が良いのかもしれない。
どちらにしてこの白クマはどうしよう。
母親とはぐれたのかもしれない。
一人にきりにするのはとても後ろ髪が引かれる。
あれこれ考えている間に誘拐犯が戻ってきてしまったようだ。
縄も猿轡(さるぐつわ)もしなかったのは近くに居たからだろう。
警戒を怠らずにここへ来る足音に耳を澄ませる。
そして、姿を現したのは三人組の男達だった。
今まで誘拐してきた犯人と少し違う系統らしい。
それにしてもあんなに大きな刀は初めて見た。
人の背丈と同格の長さだ。
しかも、ツナギらしき服装も珍しい。
この森の中で荷物一つ持っていない。
と、なれば船か空を飛ぶ手段でも有しているのだろうか。
近年はステルスと言う電波を発しないものも有るらしいから、あらゆる目をかいくぐる事も出来る。
しかも、自分の親をかい潜れるくらいの後ろ盾があると考えられる。
嗚呼、なんて自分は子どもらしないんだと悲観した。
そして、どうも自分を子どもとして扱っている男達に内心ニヤリと笑う。
こんな風に見られれば隙を作ってニゲられる。
ニヤリと笑う子どもになんてなりたくなかった。
いっそ夢がたっぷり詰まった脳を持つシンデレラのような健気な子どもで居続けたかった。



***



LAW side



リーシャが小さくなった原因のきのこを回収した。
そして、何度も何度も念を押して説得した後でロー達は彼女を船に乗せる事に成功する。
シャチはとても安堵していたが、ローは全く違う気持ちで迎き入れた。

(なんつー子どもだ)

こっちが冷や汗をかく程受け身な子どもだ。
ずっと威嚇と揺るがない警戒心に針を何本も刺してくる様な目でこちらを値踏みする。
それはもう猛獣のような幻影が見えた。
絶対に気を許さないと体が既に訴えている。
そんな相手に簡単に近付く事など出来るものか。
しかし、心を少しでも開けさせなければ回復の手助けは出来ない。
一人と一匹の体の大きさを戻す為にキノコも回収したのだが、これからこれを分析して解毒剤を作らなければならないのだ。
協力に自ずとしてもらわなければ何も進まない。
でも、先ずは警戒心を緩ませさせたいところだ。
冷や汗を流しつつ女の様子を観察した。
今は比較的穏やかで何もする気配がないが、ここが本当に海賊船だと知ったとき、どんな無謀な行動に出るか。
何も知らない子どもよりも質が悪い。
もし、大人に戻った彼女が今の記憶を持ったまま戻ったならばこの船を降りかね無いこともむ含めて慎重に対応しなければいけない。
骨が折れそうだ。
悩んでいると船員達も集まるダイニングにトリップしてきたと言う女が入ってきた。
なんと間の悪い。
自称異世界から来たユウカは小さくなったリーシャとベポを見て目をしばたかせた後、興奮した様子で喋り出す。

「ええっ!幼児化イベント!そんな美味しい事になってたなんてっ、悔しい!」

(また訳の分からねェ事を)

時々この少女の頭を本気で二つに割った方がと考える時がある。
何を食べたの?何か科学成分でも――と言う女はリーシャの方に歩み寄った。

「記憶があるタイプなの?ないの?」

「ゲームのし過ぎじゃないんですか?それに声が大きいので小さくして下さい」

「え……あ、はい」

尋ねたが冷たく返され肩を震わせたユウカはリーシャから距離を置いた。
彼女は結構小心者らしい。
しかし、問題はベポとリーシャがこのままだと航海に支障が出ると言う点だ。
別にユウカが迷惑をかければ即海へと投げ捨てられるが、二人がこんな事になってしまったので解決するしか道はない。
ユウカが今度はベポに近づく。
妙な真似をしてもいつでもどうとでも出来るので好きにさせておく。

「此処は潜水艦……でも、ここまでの財力がありながら誘拐、余程切羽詰まっているのか」

先ほどから誘拐誘拐と言われて全員困っている。
どうにかその誘拐という可能性を無くして欲しい。

「改めて自己紹介をする。おれはトラファルガー・ロー」

「聞いたことはありませんね」

「そうか……」

聞いたことがなくても何ら不思議はない。

「名前はなんて言うんだ」

「ノーコメントで」

「おい、ペンギン、聞いたか?」

「嗚呼。船長の威圧感をかわして答えたな」

何か後ろの二人が言っていたが、厄介な子供と応対するのは存外疲れる。
元があのリーシャなだけに無碍には出来ないのが苦しい。

「別に構わねェ。名前は分かっている」

通じるか分からないが、お前はここの船の一員だったんだという人生の経緯を教えるべきだろうか。
混乱するか否定に走るかは未知だが。

「情報漏洩が甚だしいですね、トラファルガーさん」

「……!」

「おいペンギン!大変だ」

「嗚呼分かってる。船長が彼女のトラファルガーさん呼びに激しくショックを受けてしまったんだな」

ペンギン達が何かを言っているようだったが、身体に衝撃が走ってしまい奥歯を噛みしめた。





リーシャ達が幼児となって四日後、ローの身を粉にする勢いで製作した解毒剤により二人は無事に元に戻った。
その間の彼女の記憶は朧気にしかないようで、ひたすら謝れた。
かくして、ついに幼い幼女に懐かれる事も笑顔を向けられる事もついぞ訪れなかった事を実は密かに気にしているローだった。



prev | next