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36


ローと母の墓の前で互いに沈黙をさせる。
さわさわと風が頬を撫で髪を揺らす。
気分が沈んでいくのが分かった。
ローを傷つけたくないのに、この世界はリーシャをとことん弱くする。
この世界での事をローが知らないから今まで振る舞ってこれて形になっていた。
それが、今は形無しである。
純情な人、聞き分けのよい、大人のいうことを聞く子。
全ての虚勢が剥がされていく。

「私はローの知っている頃の私じゃないの」

「おれが知っているお前?今も特に変わった所なんて分からないが」

「辛うじて振る舞ってるから……私、本当は聞き分けも良くない。子供だって好きじゃない。私、大人も好きじゃない」

「……言われなくても、分かってた」

「わざわざ嘘を言わなくたって」

「いや、知っている。お前は知らないかもしれないが、変な食いもん食った時に幼児化して、おれらを見た途端に今の面影もなくおれ達を威嚇してきた事がある。あの時はおれの知ってるお前とは違ったから混乱したが、あの時の子供はこの世界で過ごした時の過程で出来た時の性格だったんだな」

ローの予想外の言葉に目をしばたかせる。
嘘、そんなの知らなかった。
誰も言わないから、そんなのは初耳。

「おれだって褒められた性格はしていない。でも、お前がおれ達と暮らしていて、慣れていく度に嬉しかった。もっと笑えよって思うんだぞ」

「やめて、私を受け入れなくて良いの。拒絶してよ、遠慮をしなくて良いよ。私はロー君達に歓迎されるような人格者じゃない」

「おれ達は海賊だ。そんなの関係あるか」

ローの言葉に翻弄される脆い心に心底嫌になる。
こんな世界にまで来て、会いに来て欲しくなんてなかった。
この世界ではローにまともなところを見せられやしない。
醜くて黒い気持ちしか常に抱けない。
苦しい、苦しい。

「あ」

携帯が着信音を鳴らし、画面を見ると諸悪の名前。
無言で電話に出ると「お前の婚約者と三日後に会ってもらう」と聞こえてきて、空しさが胸を締め付ける。

「そうですか――分かりました。お断りします」

『何を言っている?』

断られると塵にも思っていなかった声音が聞こえてきて、くつりと笑う。

「母を易々と死に至らしめた貴方のセッティングする場など、なんの冗談でしょうか。笑わせないで下さい。それではさようなら」

プチっ、と通話を切る。
痛快な会話で、しかし、それでもしこりのようなものが引っ掛かる。

「リーシャ、行く宛がないのなら海に行かないか」

黙っていたローが切り出した提案を断る力もなかった。



海。
ここは海から近かったようで、あっという間に見えた。
傍に寄るとローが海を覗き込む。
懐かしい。
ぼんやりと眺めていると彼がこちらを見て手を差し出す。
掴めるわけもないのに、どうしたのだろう。

「この世界に来てからお前は全く笑ってない」

ローの言葉に心当たりがありすぎて困った顔になる。
そう言われても笑える要素が今のところない。

「でも、向こうでは必ず笑ってた」

だって、楽しかった。
皆が笑わせたりするから。

「この世界がお前の望んだ世界なのか?殺伐とした中でお前は生きていくつもりなのか」

「うん。生きていくよ」

「おれやあいつらをほったらかしにしてまで来たかった世界なのか」

「そこまで思ってないよ。あるべき世界に戻ってきただけだよ」

思い入れなどあるものか。

「って、おい!」

ローが突然後ろを見て声を荒げる。
後ろを見ると黒服の男達がこちらへ早々とやって来るのが見えて目を開く。
父の放った追っ手?
それにしてはやけに早い。

「もしかして、誘拐目的?」

テレビでリーシャが起きたことは知られていて、弱っている今、絶好のチャンス。
それなら誘拐されても可笑しくない。
慌てる必要もなさそうだが、父に啖呵を切った手前、助けてもらえるか不明だ。

「こっちに来い!」

呼ばれて近くに行くと次は飛び込めと言われ、海に飛び込めるものかと驚く。
飛び込んでも結局助かるとは思えない。

「でも」

「おれを信じろ」

始めから信じているのに、変なの。
後は海に飛び込むことしか出来ることはない。
どっちみち掴まるのなら、とローに並走し飛び込んだ。
今年一番の飛び込みだろう。

――ばしゃあああん!

水飛沫と共にボヤける視界。
しかし、下で渦を巻く潮には驚いた。
ぐるぐると円を描いている光景。
触れられる事はなかったローの手がリーシャの手に触れて潮の中へ引き込む。
海の中はまるで綿を詰めたようなふわふわした感覚だった。
ぴったり、ぺったりしたものが肌に張り付いているに深いではない。
もがかなければこんなにも居心地が良いのだ。
ずっと海にたゆたっていたい。
そんな気持ちになる。
しかし、現実に戻すのはいつだって彼だ。
醜いところばかり見られている。

「海の中で意識を保てるなんて久々だ。お前は話せそうにないな」

深刻な顔をしているが、そんな風に思わないで欲しい。
そして、ローは彼らの元へ行って欲しい。
構わず。
情を抱いてしまえば放っておけない彼の事だから、言おうが言うまいが態度が変化するとも思えないけど。



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