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01


その悲鳴は向こうから聞こえてきて、次第にこちらへと近付いてきた。
女性の声や混乱している男性の叫び声がどんどん会場全体を揺らす。
次は白い煙のような物が視界に写り真っ暗になった。
シャンデリアの光も照らすものもなくなったと思った時、急激な眠気に襲われ意識を保つのが難しい。
ローの焦った声が近くで聞こえるが返事など出来なくて手探りで手を左右に動かすしかなかった。

「どこにいる!リーシャっ!」

きっと彼も眠気に襲われているはずなのに、必死に探す声がよく聞こえた。
夜目が効くベポ達でさえ動けない程会場内が騒然としてるのかもしれないと思った。
このまま眠ってしまえばどうなるのか怖くて、必死に声を出そうとするがやはり出ない。

(いや……皆……ロー、くん)

最後に思うのはローなのだ。
一人になる恐怖に涙がこぼれるのを感じた。










ゆるゆると肩を揺さぶられる衝撃に目が覚めた。
目の前には一緒にドレスを選んでくれたレイアがこちらを不安げな表情で見ている。
何があったのか状況を把握するまでに差ほど時間は掛からなかった。
少なくとも、煙幕と明かりの消滅が結び合わせる予感は決して良い結果ではないだろう。
周りを見渡すと同じくドレスを着飾る女性達が不安と恐怖に塗りつぶされた表情で俯いていた。
レイアも一瞬だけ安心した顔をしたが、すぐに表情を曇らせてしまう。
状況を把握したい気持ちで彼女に此処がどこなのか聞こうとした途端、カツンと靴の音が静寂を脅かした。
顔を向ければ、そこに立っていたのは−−ビアン・レクイエ本人。
これには、その場に居た全員が唖然とした。
リーシャの直感的予想が正しければ、主催者がこんな事を仕出かした事になる。
助けに来たという雰囲気にしては男の顔は笑っているし、悲観した仕草をするわりには目に強い意志がない。

「そんなに泣かないでくれ。私は君達に危害を加えることはしない」

そんな安易な言葉に騙されないとリーシャは強く拳を握るが一部の女性達は安心した顔付きに変わる。
嘘に決まっているではないか。
そもそも何の為に貴族が民間人を誘拐するのだろうか。
そう考えを再び巡らせた時、リーシャの顔からサッと血の気が引く。
最悪の予感を覚えたからだ。
生きて、帰れないかもしれない−−。






ビアン・レクイエに一番初めに呼ばれたのは不幸な事に自分だった。
隣に居たレイアは怯えた顔でずっと肩に身体を寄せていたが、リーシャは平気だから、大丈夫ですよと気休めにしかならないかもしれないが、励ましの言葉をかける。
名前を名指しで呼ばれたわけではなかったが、呼ばれる恐怖を感じているようだ。
リーシャも身体が強張り足が上手く動かない感覚に恐怖を感じているのを感じた。
行きたくないと思っても、抗えば何をされるか分からない。
二つの感情が交互に脳裏をひしめくが、勝ったのは恐怖。
大人しく立ち上がり、ビアンの部下らしき男の誘導の元、檻を出る。
最後に見た部屋の中には不安と安堵が入り混じった幾つもの視線がリーシャを見詰めていた。







ビアンも一緒に移動し、一つの部屋へ通された。
何が待っているのかと考えている間にテーブルセットがある事に気付く。
まさかお茶会でもしようというのか。
相手の動機を窺い見たリーシャに対してビアンは平然と椅子に座り、こちらにも進めてきたので座る。

「先ずは最初に、誘拐という乱暴な行いをした事を深く詫びたい」

「?……貴方は、何を企んでいるの」

いきなり詫びると言われても、最初からそう思うなら実行しないで欲しい。
リーシャが怪訝な顔をしていたからか、ビアンは事情とばかりに話し始めた。

「君は世界に絶望した事はあるかい?」

まるで詩のような言葉に耳を疑う。

「一体何が言いたいのですか」

冷静でいられるのは経験と、幼い時から精神年齢が大人に近かった事も関係していると思う。
リーシャが問うとビアンは恍惚とした顔でこちらを見詰める。
まるで羨ましいといった感じだ。

「やはり君は素晴らしい……!さすがは『異界の聖女』」

「?……なんですか?」

「ある日、<異能の獅子>と自らを名乗る教団の人間が私の前に現れた」

聞いた事のない言葉に疑問で返せば彼は突然語り出した。
<異能の獅子>は傅(かしず)く君子を探しているのだとビアンは羨望の瞳でリーシャを見ながら続きを話す。

「彼等は世界に絶望し、違う世界を欲した」

「ち、がう……世界?」

リーシャはこの時、初めて自分が知らないうちに、既に何かがじわじわと動き出している予感を、厄介な事に巻き込まれかけているのだと感じた。



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