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09


LAW side


彼女が居ないと知ったのは割りとすぐだった。
子供を追い掛けた素振りを見せたのでシャチに付けさせると彼はすぐに戻って来て彼女が居なくなっていた事を伝えてきたので緊張に身体が強ばるのを感じ冷や汗をかく。
傍にいた武器屋の店主がまさか、と訳知り顔で呟くのを聞き逃さなかったローは彼に詰めより事の重大に頭が痛くなった。

「またかよ………」

「あいつ絶対災難の呪いでもかかってるよなァ」

「笑えないぞそれ」

各船員達が苦渋の表情をしている間にローは何故リーシャが拐われたのかを店主に聞くと「歌を歌える女を拐っている」かららしい。
心の底からふざけるなとドス黒い歪んだ感情と怒濤(どとう)の拐った賊に対する罵りを溜める。
その怒りは相手に発散するとして、今ローがしなかければいけない事はこの状況を有利にする事と状況の把握。
という、ことを頭の中に描きつつ店主から最大限に引き出した情報をまとめる。
彼は宝というキーワードを中心に歌に関する話とそれを詳しく知っているだろう村の村長への引導を頼み(シャチに言わせれば一方的な脅迫だった)、村長の元へ赴き宝の話と人質になっている歌手という職業により連れ去られた女を救出する条件で宝をあくまでもフェアに、公式にもらい受けることを前提に取引するとあっさり村の長は頷いた。
そして、賊の排除も条件に海軍には通報しないという暗黙の言葉も取り付け、万が一にも海軍の船を確認した場合−−。

「人質の女と子供、賊の奴等に対する取引は無効だ」

「ああ、分かった。村の者達にも強く言っておく」

「あと、人質を救出した後に海軍が来たなんていう茶番があった場合………」

白髪に覇気がない顔の老人がしっかり頷いたのを見てローは取り引きは成立だと口元をゆるりと上げ、刀を担ぎ直し踵を返す。
前にも同様にリーシャが拐われた時も同じような取引をしたので相手の反応も取引に応じるのも見越していたし、しなかった場合の策もあったのでローに焦りと言うものはない。
今、ローの脳内を埋めている存在は彼女で、彼女が賊に痛め付けられていないだろうかという救出を急ぐ感情のみ先走る。
しかし、山道の途中でベポとローの予想外な人物との再会で思い描いていた予定はかなり大幅に削られた。
なんと、助け出そうと意気込んでいたリーシャと歌手という職業の女と子供が賊から逃げ切っていたのだ。
何度も繰り返すがこんな風に自力で逃げ出すとは思っていなかった。
そして、彼女と女と子供の状況説明を受けてローは早速噂の大きな宝がある岩に案内してもらう。
途中で女と子供は帰らせてと彼女に頼まれたので先に行けと言うと二人は礼を述べてから降っていった。
この一日でどんな事があったか詳しく聞きたかったが先にやらねばならない事を優先して岩場に辿り着く。
歌手の女が教えた歌で開いたという手順をリーシャが歌えば本当に呆気なく開いた。
そして、中にいた男達を能力でバラバラにすると中へ入る。

(こんだけあれば七武海の資金に余裕が出来るな)

いつかあの組織に穴が空いた時に狙いを定める計画をローは頭の中で練りに練っていた。
この事は誰にも言っていない。
自ずと上がる口許をそのままに一旦外に出るとリーシャの衰弱しかけている様子にハッとなる。
無理が祟ったのだと思ったのは彼女が気を失ってしまう瞬間だった。

「くそっ、ベポ今すぐシャチ達にここへ来るよう伝えろ」

不安げにリーシャを見るベポにそう言い伝えてローは彼女の華奢な体躯を横抱きに持ち上げると能力の範囲を広げ船まで急いで直行した。



***



深い睡魔から浅い意識へと変化してうっすらと瞼を広げれば天井が見えた。
ゆらりゆらりと不規則に揺れる感覚にここは船の中だとすぐに理解した。
そういえばと気を失う前の事を思い出して急いで起き上がる。
側にあった靴を履いて立ち上がるとすぐに部屋を出て船長室に向かう。
音を立てて小走りになるとすぐに辿り着き少し深呼吸をしてからノックをする。

「ローくん、居る?」

早口に尋ねるとすぐに扉が開いて詰め寄る。

「あ、あのねっ。その、」

「取り敢えず中に入れ」

「え、うん、でも先に確かめたい事が……!」

「あの親子は無事に帰った、確認した。これでいいだろ。分かったら早く座れ」

その一言に安堵し落ち着きのなかった脳が急に穏やかに動く。
取り乱したと自覚するとゆっくりソファへと身を沈ませる。
良かった、と安堵すると手に持っていたコーヒーをローが渡してきたので有り難く受け取った。

「私が眠ってから何日なの?」

「半日」

「えっ、でも………船………動いてる?」

「ログも早々に溜まったから出航した」

「え!そんな………別れの挨拶したかったのに…………」

「んなもん、またすればいいだろ」

「うーん………そうだけど………うーん」

その意味はグランドラインを二周するという意味なのだが、いつになるか分からない事を言われてもその時はもしかしたらリーシャは生きている保証はどこにもない。



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