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23


ベポと会話を挟みながら歩いていると、不意に彼の鼻が何かを見つけたかの様にヒクつく。
ムズムズと動く鼻に言葉を待つ。

「甘い匂い、こっち!」

先導して甘い香りがする何かを目指すベポにリーシャも胸をときめかせる。
一段と冒険っぽくなってきた。
ローも居ないので自由を暫し満喫しよう。
ウキウキと高鳴る鼓動を感じながら森の葉っぱや枝をかき分けていくと、少し見晴らしの良い場所に出た。
どうやら目的の物もそこにあったらしく、ベポが嬉しそうな声で見つけた!と叫ぶ。
どうしてそんなに嬉しいのかは分からないが、兎に角そこへ同じく向かうと、キノコのような物が生えていた。
ベポがこれから甘い匂いがすると聞き、そっと千切り、手に取る。
くん、と嗅いでみるものの甘い匂いというのは感じない。

「甘い匂いは特にしないけど」

そう進言するが、ベポは間違いないと自信を持って言った。
彼が言うのならば間違いはないだろう。
人よりも嗅覚に優れているのだから。
ベポが食べよう、と言うので驚く。
食べて平気なのかと思う。

「いただきまーす」

「あっ」 

止める暇もなく口に放り込む熊に恐る恐る「美味しい?」と聞く。
すると、ベポは頬に手を当ててトロケそうな顔で悶えている。

「うまーい!」

「そ、そう、なんだ?」

「リーシャも食べて見ろ!綿飴(わたあめ)みたいな味だぞ!」

進められて恐々と口に運ぶ。
少しだけかじるくらいなら、と。



***



LAW side


ローは今、唖然としていた。
目の前に居る少女は一体何歳なのだと。

「せ、船長」

戸惑いの色を含ませたシャチが声を掛けてくる。

「お兄さん達、誰ですか?誘拐犯ですか?」

こちらを軽蔑の眼差しで見てくる推定十才の少女は、恐らくリーシャだと思われる。
隣にはどう見ても幼いシロクマのベポも居るのだから。
そして、その近くにはかじった痕が付いているキノコ。
そこから導き出される答えにローは頭が痛くなった。
しかも、十歳の割にはしっかりし過ぎている人格の少女の相手もこれからしなくてはいけない。

「おれ達は誘拐犯じゃねェ」

「私が子供だからと言って言葉で騙そうなんて安易な考えはどうかと思います。どうせ私の父のお金が目当てですよね」

「父親?」

「それに、こんな熱帯雨林みたいな場所をネグラにしてるにしては、貴方達は綺麗過ぎます。ですのでここに住んでいるなど見え透いた言葉は止めておいた方が良いと思います」

「おいおい、十歳の少女っつーのは皆こんなんなのか?」

シャチが得体の知れない何かに震えている。
そんなわけがあるか、と声を大にして言いたかった。
そもそも、彼女が十歳ならば、ローと初めて出会った頃と同じ利だ。
だとすれば、この人格、若しくは性格に疑問がある。
こんなに冷たい目をしていなかった。
こんなに冷たい声をしていなかった。
全てを拒絶したような顔で、笑うこともないような少女ではなかった筈。
このリーシャがローの知る、優しくて包容力がある女とはとても思えなかった。

(取り敢えず安全な所に移動するしかねーか)

このまま放っておけば肉食の獣達に喰われてしまう。
それを危惧したローは出来るだけ優しく声をかける。

「おれ達お前を決して傷付けない。約束する」

結構しんどい。

「ふふ。何て面白い人、そんな言葉、誰が信じるの?」

嘲る様に笑う少女は全く手応えがない。
近くに居るベポを指で差して彼女はクツクツと冷笑する。

「熊のヌイグルミでも転がしておけば警戒が緩くなるとでも思った?残念ですけど、私は決して屈しません。ナイフでも拳銃でも好きなもので脅しても、ね」

心の奥底にある闇に触れた気がして背筋がどうしようもない程痺れた。
リーシャは何故ここまで歪んでいるのだろうか。
何故、ローと初めて出会ったときはあんなにも懐が広かったのだろうか。



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