17
部屋に戻るとローが水を飲ませてくれた。
一息付くと彼があの少女について悪態をつく。
「あの女、異世界だかふざけた事を抜かしやがって」
「私は嘘を付いてるように見えないよ」
「あいつは完全にイカレてる。信用すら出来ねェ」
そんなことないと言いたいが、どう説明すればいいか分からなかった。
「それに、尋問もまともにしてねェのに自由にさせられるか」
尋問、という単語にハッとなる。
もし彼女が痛めつけられる事態になればリーシャは居たたまれなくなるだろう。
胸元をギュッと手で握り、ローに進言する。
「その尋問。私も立ち会いたい」
「あ?駄目に決まってんだろ」
予想通り却下されたが此処で引くわけにはいかない。
「お願い、何でもするからっ」
「またそれか」
ローは溜め息を付いてこちらへにじり寄ってきた。
首を傾げていると彼は徐に口を開いた。
「二度目は流石に対価を貰うぞ」
「うん、え?対価?」
ジリジリと近くに寄ってくるローは目を細めてまた告げる。
「心音を聞かせろ」
心音とは心臓の音、という意味は知っているが。
困惑しながら頷くとローはリーシャの胸に耳を当てた。
トクントクンと鳴っている心音をきく姿はまるで幼い子供のようだ。
可愛く思えて無意識に頭を撫でる。
その感触に気が付いたローが耳を当てたまま上目で見てきて、目が合うと嫌がるかな、と思ったが彼はされるがままで大人しく撫でられていた。
少女、ユウカの尋問が始まった。
食事を与えるのも兼ねてという理由で食堂へ身柄を移され船員も総出で話を聞く。
食堂はお昼の時間で他の皆も普通に食べていた。
リーシャもお腹が空いていた為にご飯を食べながらの尋問となる。
と言っても、尋問するのは自分ではなくロー達だ。
尋問が始まる時の彼女の両端には保険として全員が張り付いていて、何だか危険人物として認識されている女子が不憫だと思った。
「リーシャさんはあの女の子どう思いますか?」
船員に聞かれうーん、と苦笑する。
不審と言っても能力者ではない『異世界』の人間なのだから一般人なのだと頭に浮かぶ。
彼女は必死に敵意はないと訴えているがロー達の目は疑いに染められている。
「コーノユーカとか言ったな。もう一度聞く、お前はどこから来た」
「だから異世界。あの、トラファルガーさん。シャボンディ諸島、もう行きましたか?というか、今は懸賞金いくらですか?」
「諸島?まだそこは行ってねェ。何の意図でそれを聞く?懸賞金も知らねェで乗ったのか。先日一億八千万になった」
探る為に必要最低限の情報を与える様子にシャボンディ諸島とは何だろうと聞き覚えのない名前に不安が募る。
もしかして、リーシャの知らない原作の話しなのだろうか。
そもそもローが本誌に出てきているのなら自分の知る世の中を越えているのは想像出来た。
彼女のいる世界は少なくともリーシャのいた時代より後というのは確実。
考えているとロー達が徐に彼女と共に落ちていたらしい鞄を広げる。
中身を見てみれば全く知らない物が幾つかあった。
「うそ」
(あれ、もしかして音楽プレーヤー!?)
小型化に進化している文明の力に目を見張る。
「鞄の中身を見た。この四角いのは何だ」
「私の、スマホですけど」
「スマホ?」
「携帯電話。この世界の伝電虫ですよ。てか壊れてない?良かったぁ」
「携帯電話?これがか」
(携帯電話!?嘘!こんな形、有り得ない)
リーシャの世界ではポツリポツリと皆が持ち始めた時代だ。
パカパカという折り畳み式だった筈。
故郷の筈なのにカルチャーショックを受けてしまった。
「じゃあこれはなんだ」
ローが取ったのはペンだった。
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