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16


彼女は自分を異世界から来たと言った。
ローが話しをする為に彼女に近付いた時、女の子は興奮して彼のフルネームを叫んだ。

「ト、トラファルガー・ロー!?嘘おおー!?」

「!、何故おれの名前を知ってる」

「え?っ、ヤバッ」

口から出てしまったものは無しには出来ず、彼女は最大の失敗をやらかした。
トリップしたならば、やってはいけないことだろうに。
明らかに怪しさが増した敵にローは声を低くして二度目を問う。
しかし、彼女は汗をダラダラと流すだけで以降口を開かない。
これではラチが明かないとでも思ったらしいローは名前を問い質す。
リーシャといえば、この時、不審人物の危険を考慮して船員達がバリケードを組むかのように達ふさがれて出遅れの見物人の如く最後尾で様子を見ていた。
もっと近くで少女を見たいのに見せてもらえず、隙間から辛うじて見るしかない。
酷いとも言えず、成り行きを見守っていれば女の子がやっと口を開いた。

「河野優香」

「コーノユーカ?」

(きっとコウノユウカだ。やっぱりトリップしてきたんだ。現代から)

「わ、私、貴方達に敵対とかそんなこと一切思ってません!あの、私、未来から来たんですけど!今から話すこと、聞いてください!」

「!」

(そういう方向に持っていくつもりなんだ)

トリップした時の対応にはいくつかタイプがあることは知っている。
自身をこの世界の見物人と言うか、未来から遣ってきたというか、本の世界ならば、その本の存在を明かすか。
リーシャの場合は年齢が遡っていたので説明の前にそちらに気を取られてしまったが。
大人のままなら説明しなくてはいけなかった幸運に安堵しつつも隠し事があるというのは心が痛む体験をする。
そして、気になったのはローの名前を知っていた事だ。
つまり、本の中で少なからずローやハートの海賊団が出ているということ。

「この世界が漫画。つまり、私達の世界では本としてあるんですっ」

(え、その事も話すの?)

未来の事を知っているという事実とこの世界の真実。 
それを一度に言うとは。
余程切羽詰まっているのか。

「馬鹿らしい」

吐き捨てるように呟いたローは踵を返しこちらへやってくる。
その際、ローが動いた隙間越しでコウノユウカと目が合う。
ユウカは目を見開き驚いた顔をし、こう言った

「え!何でこの船に“女性が居る”の!?」

「えっ」

(今、この子、なんて!?)

彼女が発したその言葉に頭が真っ白になる。

「ハートの海賊団には“女性なんていない筈”なのにっ」

その次にやってくる言葉にも鈍器で殴られた錯覚を覚える程動揺した。
精神年齢ですら“補えない”程の衝撃的な事に膝が震える。
言い知れない恐怖に足が着いている筈の地面がガタガタと崩れ去るような感覚を感じた。
背中に優しい暖かみを感じて横を向くとベポが背中を撫でてくれていた。
大丈夫か、と言いたげに見てくる身内に胸がジリジリと焦がれる。

「おい女。今のはどういう意味だ」

「だ、だからっ」

「黙れ」

「っ、ひっ!」

ローが彼女の胸倉を掴む。

「未来だか本だか知らねェが、だから何なんだ?知ったかぶりを披露して楽しかったか、そんな薄っぺらいもんでしかおれ達を知らねェてめェに語る資格なんざない」

やがてこちらへ来たローは「戻るぞ」と再びリーシャを抱き上げた。



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