15
有り得ない事じゃない、起こる可能性はある。
それは、自分と言う存在の布石。
リーシャ自信が体験し、証明してしまった世界の理。
毎日が当たり前に来る、そして、自分を何の疑いもなく受け入れてくれる仲間。
手を繋いで、離さないでくれる安心する温度。
笑顔を浮かべられるのは、彼の存在とこの世界に居るという実感があるから。
この世界はうねりがとても激しい。
だから、いつ、何が起こっても不思議ではないのだ。
(胸騒ぎがする。一体何なの?)
虫の知らせにしてはとてつもなく激しく、吐き気を感じる程だ。
目眩を感じてクラクラと景色が回る。
「おい、どうした………!?」
「ちょっと気分が悪い、だけ、だから、大丈夫」
隣で本を読んでいたローが焦った声で呼び掛けてきた。
平気だと言いたいが、無理に声を出すと目眩が酷くなりそうで上手く伝えられない。
「−−船長ー!!」
「シャチ。煩ェ………!」
バタンと大きな音を立てて入ってきたシャチにローは不機嫌な声で応対する。
リーシャの様態に異変があった事をすぐに察知したシャチはすぐに声を潜めたが、やはり大きくローの機嫌は急降下した。
舌打ちする彼はシャチから不審な女が船の上で倒れていたと報告してきた事により事態を把握する。
それに、シャチは早くと急かすように彼を女性の元へ行かせようと必死になるが、ローは適当に地下に放り込んでおけと指示するだけ。
「今はこいつの事が一大事だ。分かったらさっさと不審人物を閉じ込めとけ」
「了解ですっ」
シャチもリーシャを優先したのか、すぐに出て行く。
ローに「私は平気だから行って」と説得するが、彼が頷く事はなかった。
地下というより、船の底辺に面する場所は空き部屋があるのだが冷たくて暗い。
寒くて、とても女の人が閉じこめられて良い場所ではないのだ。
自分のことはすぐに治る筈だと思い、リーシャは未だクラクラと悪転しそうな視界を我慢する。
ローにまだ寝ていろと言われるが、何故かそれを断っても行かなければいけないと何かが囁く。
「まだ起きるな。そんなに女の事が気がかりか」
「うん」
即答するとローの眉間の皺が一瞬で深くなり、リーシャはそれを見ても譲る事はしなかった。
何故かは自分でも分からない。
「ローくんお願い」
「駄目だ」
「お願い」
「…………」
「なんでもするから」
「……………………はァ」
溜め息を彼が付いた所で勝負は決まった。
「何でもするって言ったな」
「何でもする!」
「じゃあ、今からおれがする事には一切文句も何もかもなしだ。いいな?」
「うん!いい!」
何度も頷く。
それにローはもう一度溜め息を吐くとリーシャの腰と膝の裏へ腕を通し、徐に横向のまま抱き上げた。
「………!」
驚いて咄嗟にローの首へ腕を掛ける。
所謂お姫様抱っこの状態でローが歩き出す。
きっと目眩がまだあると分かっていての行動だとすぐさま察し、嬉しくなる。
体調を考慮してか、普段よりゆっくりと揺らさない様に気遣いながら歩く姿に頬が弛む。
「何で笑う」
「んー………優しいなーって思って………ふふふ」
「別にこのまま尻餅をつかせることだって出来るんだぞ」
「えー?そんな事したら、夢に出て唸らせるんだから」
「お前がおれをビビらせるなんて百年早ェ」
冗談を言い合いながら着いたのは下の部屋に続く梯子。
どうやって降りるのかと思えば、ローはリーシャを片腕だけで持った。
そして、片方だけで梯子を掴み降りていく。
怖くて「自分で降りるから」と言ったのだが、お前より重い刀を持ち歩いてるんだぞ、と言われ確かにと納得。
それならと怖い気持ちがまだあるが、ローに梯子の命運を託して目を閉じる。
「くくく、怖がり」
ローにが愉しそうに笑うのを感じ悪趣味だとムッとなる。
やっと牢屋のような部屋へ行くと船員達がたくさんいて満員状態の電車のように蒸し暑く感じた。
冷たい場所を彷彿とさせる寒さを感じるのだが、大勢が押し掛けているので全く閑古鳥が鳴いている雰囲気がない。
皆が二人に気付くともう平気なのかと聞いてくる。
「まだ万全じゃねェ。こいつがここに来たいと言うもんだから仕方なく連れてきた。で、不審な女はこの中か」
「はい………どうやらおれらの事を知ってるみたいです」
「だから!私はこの世界の人間じゃないんです!」
「っ…………!!?」
ドクン、と心臓が動揺に揺れた。
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