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12


水がパシャンと跳ねる音がその場に良く響いた。
ビキニよりも露出が少な目の水着を着用している紅一点と船員達が無邪気にはしゃいでいる。
最初はローが泳げないからと気を使って泳ぐのを渋った彼女に何度も別に好きに泳げばいいと繰り返したのを思い出す。
ここは、リゾート目的の客を呼び寄せる為に作られた町。
たまたま寄った場所がリゾート地となれば彼等の心が浮き足立つのは当然だろう。
男達に触発されたのか水着を買い、惜しげもなく露出するリーシャを食い入るように見る男達を牽制しながらローは隣にいるペンギンから例の報告を聞いていた。




***




「"泥棒猫"のナミを選びました。二つ名は知らなかったようですが。それと"悪魔の子"ニコ・ロビンの手配書も見ていました」

それは先日、船員達が物議を醸していた手配書の話。
どのタイプが良いかと聞く相手を間違っている彼等に丁寧に、かつ苦言も言わずマメに手配書を選んだ同姓の古株。
ペンギンは、その時のリーシャをずっと見ていた。
それを聞き終えたローは苦渋の顔をすると小さく苛立たしげに舌打ちする。
機嫌が悪くなってしまったようだ。
やれやれと内心思うとローはボソリと言う。

「どっちも麦藁屋か。はっ」

イライラとしているのを感じ、更に眉を潜めてくだらないとでも言い出しそうなローは自身に言い聞かせてもいるようだった。
一体何がローを苦しめているのか。
一度だって彼女とモンキー・D・ルフィの関係を聞いた事はないが、そろそろ聞いてもいいだろうかと言葉を選ぶ。

「船長」

「何も聞くな」

「分かりました」

「お前には悪いと思ってる。あいつを監視させたりして。嫌ならいつでも言え、これは命令じゃなくおれ個人の頼みだからな」

苦渋の表情から一変して苦笑をするローにペンギンはスッと首を横に振る。

「船長の頼みなら寧ろ引き受けます。個人的だろうと自分で受けると決めたので、もちろん潮時を感じれば貴方に言いに行きます」

悪戯めいた笑みをペンギンは浮かべてみせると船長が「くくく、おれは船員に恵まれてるな」と笑った。
いつまでも騒がしい船員達にペンギンはそろそろ休憩させようと声を上げる。

「昼食を食べるぞ。早く上がってこい」

その一言を皮切りに全員元気よくプールから上がりこちらへスキップしそうなテンションで肉!バーベキュー!と叫んだ。
コックも近くで日光浴をしていたが、さっき買い物袋を大量に買い込んでいたりローに話しかけて何かを伝えていたりしたのでもしかしたらメニューは決まっているだろうと思いながら、船員達の雄叫びを聞いていた。







朝起きて知ったのだが、ローとベポが今朝がたに出会い頭でぶつかってしまったらしい。
ベポはあまり痛くなかったと言っていたのだが、ローの方が気を失ってしまったという理由で彼は医務室に運ばれていた。
自分の預かり知らぬところで起きた身内の事件に慌てて会いに行こうとすると船員達に行かない方が良いと止められ首を傾げる。
心なしか皆の顔が曇っているような気がした。
詳しく聞こうと尋ねるが誰もがなかなか説明をしてくれない。
やがてローの看病をしていた船員が医務室から戻ってきて、一人もリーシャに事の末を話してないと知ると彼が淡々と言う。

「船長は記憶喪失だ」

本当に唐突に言われ、最初は上手く理解出来なくて。

「ロー君っ」

思わず冗談だと脳が勝手に判断して医務室に走らせた。
男達の制止の声が聞こえたが、耳に入らず乱暴にローが寝ている医務室に飛び込む。
蝶番をかつてない程響かせると頭に包帯を巻いたいつもの無表情の男が居て無意識にホッと胸を撫で降ろす。







「誰だお前」






え、と声にならず視界が真っ白になった。
それは一瞬の間だけで脳もまともに働かなくなって、ローの顔を暫く見てから心が張り付いたまま曖昧に笑う。

「………は、初めまして………私……私………あの、リーシャと申します………い………きなり入ってきてごめんなさい………」

出来るだけ笑顔を取り繕い、考えられる自己紹介をするとローは「ああ」と知っていた風に反応する。

「ツナギを来た海賊の男達から聞いた………お前が紅一点か」

「はい。貴方がこの船にとって、どんな立場かは聞きましたか?」

「ああ。船長、だろ?信じられねェが………自分の身体にある刺青を見たらまぁ、分からなくもねェ」

己の状態を冷静に、他人事のように述べる様子は記憶を失っても変わらないようだ。



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