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05


島に着くとその場所はいつしか見たことのある閑散とした土地だった。
誰もいなくて寂しさを感じる程。
この島の名は「ロストメモリー島」。
忘れられた記憶の島らしい。
名前からして良いものとは呼べず誰もが薄気味悪がっていた。
ローも居心地は良くないな、と口にしたくらいだ。
来て早々早速船へ戻ろうとするローに習い自分達も付いていく。
帰ると見張りが驚いていてどうしたんですか、と聞いてきたので「なんだか人がいなくてね」と口にして船員達も頷いていくと見張りは成る程と苦笑していた。
それからコックに事前に電話しておいたというシャチが昼食を食べようと持ちかけてきたので全員食堂に移動しテーブルにつく。
すると食事が出てきたので無事に食に辿り着け安堵する。
がやがやといつも通りの食事を始めると段々周りに活気がなくなってきた事に気付く。
疑問に思い彼等の座る場を見るとぐったりとして顔色が誰も良くない。
驚いてローやべポを見ても同じく真っ青だった。
慌ててどうしたの、大丈夫、と色んな言葉をかけるがあまり反応しない彼等にパニックになると厨房や見張りの場所にも駆け回る。

「どうなってるの!ローくん!?どこか痛い!?皆っ!」

どうしようと考え取り合えず各場所や医務室に運ぶ力もないので食堂のテーブルや椅子、食器を四苦八苦しながら片付け出来るだけ場所を空けた。
それから皆の部屋から布団や枕を拝借して医務室から必要なものを取りにいく。
一人ずつ椅子から身体を下ろすのには骨が折れる作業だったが三時間程かけて全員を布団や布の上に横たわらせた。
汗で髪も服もベッタリだったが構わず次のことをする。
誰も彼も熱があったので氷水を用意し額に乗せていく。
ヘポにも全身にタオルを被せれば汗を拭う。
船を操作する人間もいなくて、身動きの取れない集団病にもうどうすれば良いのかと泣きそうになる。
じわりと視界がぼやけると手に人肌が触れた。

「泣くな」

「ローく、んっ、私、もうわからないよぉ…………!」

力なく笑うローに弱音を吐く。
一人だけ平気だったのは良かったが、辛くて堪らない。
皆は苦しそうに寝込んでいて、でも何も出来ない無力さに打ちひしがれる。

「おれも、こいつらも、平気だ」

だから泣くんじゃねェと言われキュッと口許を閉じる。
皆はお腹の痛みを訴えていないので中毒ではなさそうだ。
ただ熱があり高温だけという例のない集団病。
リーシャは涙を拭うとお粥を作ろうと立ち上がった。






それから二日後、あんなにも男達を蝕んでいた高熱がピタリとなくなり彼等は嘘のように歩いていた。
それは一日にも満たない回復力で、唖然としている間だにログが溜まったらしく出航だとローが指示し早く離れたいと言わんばかりにその島を離れる。
自分が女だったからか、それとも、

(異世界から、来たから?)

熱に犯されなかった謎は、謎のまま知る術はもう遥か彼方へと遠ざかってしまった。



***



それはすっかり忘れていた一つの出来事への付箋だった。
いつものように島へ着き降りるという作業を終えたハートの海賊団が繁栄している町へ向かって歩いているところ。
賑わう市場を手を引かれて歩くリーシャはローに付き合う為に刀や武器が売られている鍛冶屋に赴いた。
後ろにはシャチとベポがいたので四人で入店すると前から揉めている会話が聞こえてくる。
見てみるとそこには十才に見える男の子が店主に武器を貸せと門義していて違和感がある光景だった。

「なんでだよハゲ!」

「だからな〜、お前はアイツラには敵わねェっつってんだよ!それにまだハゲてねー!」

「じゃあ母さんはどうなるんだよ!?」

「海軍に要請したろ、町長が………」

「隣にある海軍は前も助けてくれなかった………!分かってるくせに何で誰も、誰も!」

緊迫した内容に思わず見入っているとローが店主に武器を売れと言った。
それは船に補充される予備で男の子に同情して述べたわけではない。
それを分かってはいたが、今はリーシャの胸には母親の単語が渦巻く。
母親、アイツら、海軍、助け。
全ての単語を並べると簡単に彼の母親が何かの事件に巻き込まれたのだと分かる。
しかし、自身に助けられる力などないから後ろ髪を引かれる思いで男の子から目を反らした。
所詮は何の力もない一人の女なのだと痛感する。
俯きながらローが購入し終わるのを待っていると子供が目の前を走り去るのが見え、一瞬の出来事だが泣いているのが分かった。
痛む良心に耐えられなくなりハンカチくらいは渡したいと思いソッと後を追い店を出る。
左右を見回して三歩踏み出すといきなり羽交い締めにされ身動きが取れなくなった。
後ろを辛うじて見ると薄汚い格好をした男がこちらを見ていたのでぞわりと悪寒を感じてしまう。
嫌だ、と叫ぼうとすると途中であの男の子が息を切らせて男に叫ぶ。

「お前母さんを誘拐した奴等の仲間だろ!?母さんを返せ!!」

そのまま勢いよく男の腕に噛み付き、男は痛さに呻くと男の子を腕を振り上げて地面に叩きつける。
あっ、と声を上げる前にいつの間にかいた他の仲間らしきガタイが良い男達が男の子を掴みリーシャも同じ様に連れて行く。
あっという間に布らしき物を口に押し込まれたので声はうー!うー!としか発っせなかった。
この誘拐体験には物凄くデジャヴュを感じ次回はローに軟禁される確率がグングンと伸びた気がする。

(ローくん………)

どんどん武器屋から離れていくのが見えローに深く謝った。



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