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06
そんなこんなで、魅惑の食材のカニに思考が捕らわれてローの侵入を許してしまったが、相手の騙し取ったお金を奪い返す為には、いつかは必要な事態だったと己を納得させる。
インターホンが鳴り、鍋の用意を済ませていたリーシャは立ち上がり扉を開く。

「よお」

「こんにちは。どうぞ」

カニと食材を抱えたローを家に上げる瞬間、ほんの数秒だけ躊躇したがええい!と開き直ることにした。
何かあったときの為に、シャチに一時間事にメールをしてきてね、と頼んである。
もしも、何か非常事態が起きた際は音沙汰がなくなるのだと計画を合わせておいた。

「では食材を切りますね」

「俺もする……というより、別に全部俺に任せてくれりゃあいい」

「そんな事、さすがに……」

「フフフ……じゃあ始めるか」

全部任せるのは不安だからという下心を隠して言うと、彼は何が面白いのか笑ってキッチンへ立つ。

「じゃあ、白菜を切りますのでニンジンを頼めますか?お医者様に包丁を持たせるのは些か悪いですね」

「いや、俺も普段は滅多に使わねーな。あんまり上手くねェし」

前よりも喋り方が素要素多めとなっていて、自然な感じに思える。
日常生活の中で、プライベートでも敬語で過ごす人はレアだろうから当たり前と言えば当たり前だが。
もう慣れたのでどうとも思わなくなったと思い、ちらりとニンジンを見てみると脳内で驚きが広がった。

「え、上手(うま)い……」

「そうか?」

まるで料理人のようにサクサクと綺麗に滑るような動きで切っていく上に早い。
口で言うのと実際の手際の差に唖然とする。
何でもない風に言うローは、シレッとニンジンをお皿に移してシイタケを手に取ると同じように切っていく。
リーシャがやるよりも断然早い捌き具合に何だか悔しくなる。
医者だから手先が器用なのは当然だろうが、詐欺師なのに……悪い男なのに……釈然としない。
次々と食材を切っていくローを内心恨めしく思いながら、女子力の低い自身のステータスにヘコんだ。
食材を全て切り終わって鍋の中に入れると蓋を閉める。
そうすれば何もしない時間が出来てローから話しを振ってきた。

「そういえば職業はOLだったか」

「はい。ローさんの医者という職業には本当に尊敬します」

「もうそろそろ名前で呼んで欲しいけどな」

「んー……でも年上ですし……難しいです。」

息を吐くように嘘をつき、尊敬の、口先だけの言葉を言う。

「年下だろうが年上だろうが、関係なく呼んで欲しい」

そう頼まれたが誰が呼ぶか、と内心罵倒の意味も含めて呟く。
そこまで仲良くなってやる義理もなければつもりもない。
皮肉に思考を巡らせながら苦笑して流し、そろそろ鍋が煮立ってくる頃だと言えば彼はサッと蓋を取り、中をつついてかき混ぜた。
ダシも入れて、良い香りが部屋に漂ってきて胸を踊らせる。
早く食べたいと思いながら今か今かとお皿を手に持ち待機していれば、ローが可笑しそうに笑い皿を寄越せと言ってくるのでツィ、と差し出す。
カニと食材が入れられ、渡されテンションは最高潮だ。
もぐもぐと食べていればローの目と合う。

(……え、)

口を動かすのを止めてしまったのは、彼の顔が優しげにこちらを見つめていたからだ。
意味が分からない。
きっと、錯覚だろうし詐欺師がカモなんかにそんな顔を向けるものかと首を振り、思考を振り払った。
鍋に釣られて変な物も見てしまっただけだと思い、きっと絆されかけているだけだと、相手の罠に改めて警戒を強めようと決めた。





カニを貰って鍋を二人で食べてから数日後、リーシャは朝から身体に違和感を感じていた。
どうやら熱っぽいようで頭がボーッとして上手く思考が働かない。
これは久々に病を発病させてしまったと思いながらも、これで良いかと納得。
何故ならそういう風に自身に誘導させたのだから。
例えば朝のシャワーから始まり、暖房を付けない部屋で寝たりと不摂生を繰り返していた。
病院代はシャチから貰おうと思い、ローに感づかれないように彼の勤務する病院じゃない病院へ行こうと自転車置き場へと行く。
フラフラとなりながら、やっぱりシャチに連絡して送って貰おうかと考えて携帯を取り出しながら部屋を出て、アパートの外へ向かう途中にある階段を降りようとしたとき、足下がガクンとなり階段の真下に真正面で視界が落ちる。
落下する、と認識して咄嗟に目を固く閉じると名前を呼ばれたような気がした。

−−ドサッ

「リーシャ!おい、おいっ」

何故か思っていた痛みは感じなくて、そのまま意識が薄れていくのを感じた。


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