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03
それからペンギンを介してローに紹介されて、リーシャも紹介されぺこりと頭を下げる。
こんにちは、初めましてと言うと相手も顔にそぐわない敬語で返してきた。 
ますます詐欺師っぽくない雰囲気に内心首を傾げる。

(でも、この話術でシャチのお金を騙し取ったわけだよね……どう入り込もうか)

意外と隙のない男の様子にむむむ、と策略を考える。
その時、ペンギンが突然得意先の人間を見かけたから、と向こうへ行ってしまう。
二人きりにいきなりされて戸惑いながらもチャンスかも、と相手の様子を観察。
ローはペンギンが向こうへ行ってしまうと、こちらを見て徐に聞いてきた。

「もしよかったら、敬語は無しにしませんか」

「え?」

(シャチがコロッと騙されたのはこの手口かな)

内心、警戒をして話しを続ける。

「もし、良かったら……ダンスを申し込ませて欲しい」

「ダンス、は先程ペンギンさんに申し込まれてお受けしてしまいましたので……」

「…………後で話しをつけておくので、私と……俺と踊ってもらえないでしょうか」

間があったのを不審に思いながらも了承を得られたら構いません、と言う。
普通ならば渋るのだが、今日はこの男に近付く為に来たのだ。
簡単に誘われてしまった事にも驚いたが、とっくにパートナーなんて居るとばかり思っていた。
だから、モテるローに相手が居ないなんて少し奇妙にも思える。
一応、ペンギンに了承を取りに行ったらしいローは彼の元へ行き、二人が会話しているのを遠巻きに見つめていたら、こちらにローだけが戻って来た。
どうだったのか、と聞く前に了承を得たと得意げに笑う。
きっとこれも女を落とすために仕組んだ策略なのだろうと冷静に分析する。
そうなると、今回はもしかしてリーシャがターゲットにされているわけだ。
騙される気もサラサラないが、お金を払うギリギリで証拠を集めて警察に突き出してやると計画を立てた。





ダンスの相手を受けた後、パーティーも終わって数日後。
運良くメールアドレスと電話番号を手に入れられた。
いや、運良くというより、向こうもこちらを獲物として捕らえたのだから、きっと当然なのだろう。
気のあるフリをして接すればあの類の顔だったら簡単に惚れてしまう。
でも、シャチから被害を受けたことを聞いて出動している身だからクラッともしない。
別に惚れやすいわけでもなく、気になるわけでもない男性とメールのやり取りをするのは業務的。
サッと携帯の文字を打つと返ってきたのは予定を決めて会わないか、という内容で少し時間をおいてオッケーだと返事をした。
時間をおくのは、こちらが悩んでいると思わせる為の秘策である。
会う日は二日後の午後となって、向こうが選んだ喫茶店へ行く手筈で駅前で待ち合わせとなった。




デートにも似た感覚で待ち合わせの駅前に向かうと、黒色車に寄りかかる男が居て周囲の目を引いていた。
のうのうと街に居ても許される詐欺師に眉を潜めそうになるが、笑顔だと気を持ち直して一旦深呼吸。
特に女性の黄色い吐息を集めるローの横顔を窺いながら少しずつ近付く。
その際、彼は二人の女性に声をかけられナンパされる。
少し話すと彼は手を振って身振りも加え断ったらしく残念そうに女性達が男から離れていく。
よくまあ詐欺師の男に近づけると皮肉る。
リーシャも近付いてはいるが敵討ちみたいな感覚でいた。
もうそろそろ視覚に入ってあげようと声をかけると、彼は無表情でこちらを向きニヤリと笑みを見せる。
ダンスパーティーの時よりも何だか馴れ馴れしい、野性的な目をする相手に至極驚く。
こんなにも態度が違うのか、と。

「おはようございます」

「ああ、さて行くか」

メールでお互い敬語が抜けるまでやり取りしたからか、会話にも既に敬語はない。
そうなると、清楚系の外科医がワイルドな外科医とギャップチェンジする。
車に乗るよう足され怖ず怖ずと乗り込む。
車が走り出してすぐに彼が口を開いた。

「もしかして、俺の態度が変わってるから驚いたか?」

「ええ、先日お会いした時に比べて随分と性格が違いますね」

「その割には順応が早いな」

「医者という職業柄、プライベートのオンオフの差があって当然なのでしょう」

「物分かりが早くて助かる」

くくく、と笑ってそう言う彼の態度の激変に疑問が募る。
普通、詐欺師ならばもっと清楚感を全面に押し出して、騙す相手の信頼を勝ち取るイメージがあった。

(逆に素を出して、自分は貴方を信頼してますよって思わせる手口なのかもしれない)

そして、油断させて親しくなってから相手の金を奪いにくるという寸法だろう。
雰囲気がレトロな喫茶店に着くと、車の扉に手を掛けて出ようとする前に、ローに少し待ってろと言われ大人しくしていると彼は外に出て、リーシャが座る助手席にグルッと回り扉を開けた。
そのレディーファーストの行動に若干気後れしながら外へ出る。
くつりと笑うローはまるでその反応を見越していたよう。
翻弄されている事が否めない。
今度はちゃんとしようと意気込み、喫茶店に入るといらっしゃいませという言葉と共に香しき香りが鼻孔を刺激する。
美味しそうなランチの香りに胸を踊らせていると席に案内され、メニュー表を渡され少し説明を受けた。
店員が去った後にローが好きなのを選べと言ってくる。
奢りと暗に言われ、再度メニュー表に目を落としスパゲティの欄に目が止まった。

(スパゲティ……)

実は一番好きな食べ物がスパゲティで、人生の中でもそれはブレた事がない。

「そういうのが好きなのか?」

「はい」

「俺の知り合いにもスパゲッティが好きな奴がいる」

「そうなんですか」

適当に相槌を打つとメニュー表にあるタラコスパゲティを指で示して、これにしますと口にする。
ローは店員を呼んで鮭のムニエルを頼むとリーシャの選んだものも注文した。


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