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- ナノ -

02
パーティー会場には人がひしめいていて人酔いしそうだった。
自分の使命を全うする為に背筋を伸ばし、慣れないヒール付きの靴を鳴らす。
マジシャンの時は紳士靴だから全く安定感が違う。

(場違い感が半端ない。帰りたい)

騙す人間がこんな所で暢気に挨拶を交わしているのかと疑わしくなるが、ターゲットの相手はすぐに見つかった。
ターゲットって、何だか暗殺者になった気分だ。
わくわくする心に落ち着け、と言い付けて周りを観察する。
ていうか、

「入り込める隙がないんだけど……」

男の周りには女達がこぞって詰め寄っていた。
ひしめき合う集団に引け腰になるのは当然。
安易に近付いても恐らく目にすら入れてもらえないだろう。
迷ってしまい、取り敢えず料理を食べる事にした。

「うわ……めちゃくちゃ美味しい……」

一口食べれば口の中でとろけた。
美味である。
幸せに浸っていると隣から笑う声が聞こえて横を向いた。
正装をした男性がこちらを見ていたので眉を上げて咀嚼を止める。
レディの食事を見て笑う人はただ者じゃない。
大人たるもの、どんな事をされてもレディの前では顔色を変えるな、と失礼な人だと思う。
リーシャのモットーは『何があっても悪いのは自分ではない』だ。
なので、自分が阻喪をしたのではなく笑った相手に責任がある。

「すいません、つい」

「いえ、貴方もいかがですか?これ、とても美味しいですよ?」

笑った事に対して謝ってきたので、怒るのを諦め進めた。

「おすすめと言うなら、私も頂きます」

男性はお皿を手に取り勧めた食べ物を本当に食べた。
この人、騙されやすい人なのかもしれない。
可哀想な人だと憐れみ、シャチも一緒に哀れんだ。
お金を騙し取られるなんて、不運な友人“だった″。
過去形にしてやった。

(でも敵討ちする私ってほんといい人間)

うんうん、と内心自画自賛。
黙々と胃に物を詰めていると、話し掛けてきた男がまた口を開く。

「挨拶が遅れました。私はペンギンと申します」

「どうも、ご丁寧に」

「出会ったばかりで頼みたいことがあるのですが……もし宜しければこの後のダンスをご一緒させてほしいのですが」

「はあ……?」

困惑気味に受け答えする。
初対面で申し込まれるなんて驚いた。
なんせ、おまけに相手は顔が整っていて、リーシャでなくても他の人を選べると思う程の出(い)で立ちだからだ。
背も高く申し分のない低姿勢の言葉遣い。

「ペンギン」

「ロー、もう話しは終わったのか?」

突然、会話の横から声をかけてきた相手にペンギンと今し方、口説いてきた人が応答する。
そんなことより、

(この人の知り合いなのか……ペンギンさんには利用価値がありそう)

突然の突然、今回の大本命。
シャチを騙した元凶の詐欺師『トラファルガー・ロー』が目の前に立っていた。


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