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「#エロ」のBL小説を読む
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原料に一切余分なものはありません
テレビの特集をしていたのだが、それについ、と目を止める。
二年前の自分ならば絶対に目に留める所か見向きもしなかっただろう内容。

「バレンタイン……」

『片思いも実る魔法の日ですねえ』

『−−さんは好きな人居ますか?』

『あはは!居ませんよお!』

チャーミングな問いに答えた女優は先日熱愛報道をされていたちょっと話題の人物だ。
きっと問いかけた人は聞くようにと念押しされているのだろう。
しかし、そのおかげで女優は今この番組にも他の番組にも引っ張りだこらしい。

(チョコ……買ってもないしなあ)

「買いに行くの面倒だしな……でも買わなきゃ作れないし……」

いっそ市販でと思ったが、折角彼氏が居る身でそれもどうだろうと己の女子力に考えさせられる。
市販よりは味が落ちるけれど、それでローは喜ぶのだろうか。
迷宮のような出口のない思考に陥ったリーシャはシャチにSOSを送る。

『ローってチョコ好きなの?高級なものとか』

『好きだぞ。別に拘らないと思う』

『思うって事は確定してないんだ?』

『バレンタインもう直ぐだもんな。手作りでも喜ぶぜきっと』

『チョコなんて手作りした事ない』

『ただチョコを溶かして型に入れてラッピングすれば手作りになる』

『それするなら市販の方が遙かに美味しいよね?』

『バッカ!市販なんて絶対絶対渡すなよ!』

『何で?美味しいのが欲しいでしょ』

『彼女からの手作りが欲しいに決まってるし!男の俺が言うんだぞ!』

『えー?じゃあローが過去貰ったチョコはどんなんだった?』

『手作りから高級までピンキリ』

『参考にならない……手作りでも凝ってる方が良い?』

『過去は過去だ。凝ってても良いがどっちでも手作りならいいと思う』

そこまでメールでやりとりして買い物をする事に決めた。
リーシャは重い腰を上げて鞄を持って近くのお店へ行く。
中に入るとバレンタイン特集のコーナーが出来ていた。
お店同士の競争や流行に乗る為の商法に踊らされる日が来るとは、と感慨深くなる。
しかし、向かわなければ何も出来ない。
意を決してコーナーに行くと数人の女子高生や同姓の人達が居た。
自分も混ざるとは。
リーシャはバレンタインが過ぎた日に安くなったチョコを買うというのが殆どで、後は義理チョコ程度を購入するばかり。
ローと付き合ったばかりの時はバレンタインは知らずに過ぎていた。
そんな事で二年越しのバレンタインを渡そうと決めたのだ。
食べる事が好きなリーシャは自分の分として市販のチョコを買っていく。
値段も味も高いのから安いのまで、様々な物が売っているのでどれが美味しいかなんて知らない。
インターネット等でピックアップしていなかった事が悔やまれる。
女性達に混ざってカゴに無造作に入れるだけ入れた。
予算内で、且つ一目見て美味しそうだと思うものを。
レジに向かって歩くと並んで精算して、また家に戻る。

(買っちゃったなあ……)

実は手作り用のチョコを買ってしまった。
道具は何故かローの家に揃っていたので問題はない。
有るとしたら自分という存在だけだ。
生まれてこのかた、手作りなんてした事がないから練習用に幾つか買って、頑張ってみようと腕を捲る。
時間は沢山あった、ローは医者なので帰るのはいつも遅いし、バラバラだから。
それは今回吉と出た。
上手く出来るように特訓あるのみ。
ボール等を用意して湯煎をやって、とスマホを見て確認しながらやっていく。
カシャカシャという音が無音のキッチンに響いている。
今自分はチョコを作っていると再確認してしまい、そのじれったさに一時手が止まった。
少ししてまた手を動かし出す。

(うーん。手作りとか、私……頭まで恋愛に感染したって事?)

前まで恋愛なんて考えた事がなかったのに彼氏という存在が出来てからこうなっていった。
恋愛脳恐るべし。
こうも己の性格というか、淡泊な部分を塗り替えてしまうとは。
カシャカシャと動かしながら思考に耽(ふけ)った。
そして、バレンタイン当日。
ローはその日も変わりなく病院へ向かった。
リーシャもバレンタインというイベントのお陰でマジックの助手を頼まれていたので仕事に向かう。
帰宅するとローはまだ帰ってきていなかった。
帰るのは夜になるだろうと言っていたのでまだまだ時間はある。
腕を捲って気合いを入れる。
練習の成果を出す為に。
ローが帰ってきたのは夜六時でいつもよりも断然早かったので交代時間きっちりに帰ってこられたのだと察する。
帰ってきたローは紙袋をぶら下げていて、それはどうしたのだと聞くと同僚からの土産だと言われた。
リーシャは女性からのバレンタインを貰ったのだと思っていたので驚く。
ローはコートを脱いで寛ぎ出したのでその間にサッと冷蔵庫からチョコを取り出す。
単純にチョコを型で固めたものだが、溶かしているので手作りだと言い張る。
居間に行ってローの後ろに忍び寄るとローと名前を呼ぶ。
彼が振り返ってこちらを見る前に目の前に差し出す。
見られたら渡し辛くなるのは分かり切っている。
リーシャは赤くなりそうな耳を必死に治めながら待つ。
彼の腕が伸びてきてラッピングされた箱を掴む所まで見て、内心安堵。
受け取ってもらえた。
去年は渡さなかったというか、まだ告白されたばかりで恋人というものを知らなかったから今年は渡せた事に満足する。
彼は「開けるぞ」とこちらの様子を窺うと包装を解いていく。
その音にまた羞恥心が蘇ってもう前を向けない。
早く箱を開けて証拠を無くして欲しくて堪らなくなる。
彼はやっと箱を開けてくれると空間から何の音もしなくなり、やがて。

「もしかして手作り……」

「そ、そうだよっ!?い、一回だしっ、一年で!だから、が、頑張った!それだけっ!」

深い意味は無いと言うとローはくくく、と見透かした風に笑みを浮かべて「嗚呼」と頷く。
絶対に照れ隠しだとバレている事に気が付いて赤面は最早剥がれない。
ローは一つチョコを掴んだのかカサッと音がする。
チョコがくっ付かないようにプラスチックのお弁当用の囲いタイプの仕切りを使ったのでその音だと分かる。
食べられる、もう食べたのか。
気になってチラッとローを見ると口元をモゴモゴさせていた。

(た、食べてる)

相手が自分の手作りを食べているのはとても緊張する。
マズくはないか、変な感触はしないか。
挙げればキリがない不安が蓄積されていく。
慣れない事をしたせいか、キリキリとお腹も痛くなってきた気がする。

「ん。作ったチョコ、すげェ上手い」

喉を鳴らして飲み込んだローが格好いい方の笑みを浮かべて言う。
その顔に当てられてもう何も言えない。

(美味しいって……そんなの、ただ市販のチョコ溶かしただけなのに……美味しいも何もチョコなんだからチョコ味なんだし)

こんがらがって変な事をグルグルと考えてしまう。

「あー……何だ、んなに照れられたらこっちまでむず痒くなるだろ」

「べ、別に法律でいけないとか書いてないしっ」

そんな事を指摘されてもどうにもならないくらいの熱が籠もってる。
ローに抱きすくめられる感触にされるがまま。
リーシャは爆発しそうな体を押し止める為にローへと腕を回した。


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