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迷探偵ローの迷推理
LAW side

彼女から同窓会があると聞いて、咄嗟にまだ起こってもいない、起こるかも分からない事態を思い描いて想像してしまった。
それが全ての始まりだ。
詐欺紛いの事をして、騙して手に入れた女で、やっと恋い焦がれた存在を手にいれられてかなり浮かれていた。
ローは普段から表情が、余程の事が無い限り変わらないので浮かれている事を気付かれていない事に密かに安堵している。
彼女は少し鈍感な部分があるからとても隠すのかが楽だ。
そんな事は今、どうでも良い。
同窓会と言ったら先ず思い描くのはズバリ『再会する初恋』だ。
おい、そこの呆けた面した奴、再会で青春時代の初恋を舐めるな。
夫と上手く言っていない人妻が寂しさに初恋の相手に炎を燃やすのなんてよくある話しだ。
彼女の中学校時代は聞いた限り味のしないスルメのようなものだったらしい。
だが、おいそれと初恋を簡単に話す口の軽い女では無い事は既に把握している。
だから、言わなくても可能性があるのだ、初恋の相手が居るという事が。
そんな予感に警戒するのは当然だ。
それに、彼女に好きな男が居なかったとしても、相手がどうするか行き先不明。
ローと付き合ってからというもの、リーシャは綺麗になった。
今も顔を赤くして女性らしさを溢れさせている。
こんな女を放っておく訳がない。
ローだったら即ベッド行きである。
今だって抱き締めて可愛がりたい。
自身の印を体中に刻みたくて堪らなくなる。
邪な思考にハッとなり首を振る。

(今は来たる同窓会の男共の事だ)

彼女は一人で行くつもりなのかローに来て欲しいとも言わない。
そういう事を言わない控えめな性格なのは分かっているので残念だ。
詐欺をして、騙して恋人になったのだから何度でもこちらを利用してくれたって構わないのに。
寧ろ歓迎だ。
ローは医学の道を進む医者。
高給取りで他の女から見れば明らかに玉の輿だろう。
リーシャにならどんな手を使っても利用されてもいい。
その心構えで言葉を待っていたのに、同窓会当日になってもお呼びは掛からなかった。
内心ふてくされている事だって彼女は気付かない。
大人になった同級生に引っかからないように念じておく。
モヤモヤとする気持ちのまま見送ってから家に戻る。
今日は夜勤なので夜まで暇だ。
クローゼットを開けて医学会や病院関係の正装を取り出す。
ローの勤務する病院は医学の道を志す者にとってはかなり有名で、誰でも一度は聞いた事があるなんて事も聞く。
そして、誰もが羨む。
リーシャには病院の事は詳しく言っていない。
それは、彼女にローの病院へ取り次ぎたい人間が近寄る可能性を考えたからだ。

(ドンキホーテ国際病院……これでリーシャが喜ぶのか)

自問自答しても帰ってくる返事は此処にはない。
病院の名を言わなくても外科医というだけで箔が付く。
それだけで十分彼女の価値を上げられると容易に想像出来る。
病院の名前を出せば誰もが冷や汗をかかずにはいられない。
保険として名前は伏せておこうと決めた。
正装に着替えて一時間程経過してから会場へ入ると見知らぬ男の近くに居たので軽く顔を顰(しか)める。
そして、女達の視線がとても鬱陶しい。
彼氏か旦那かは知らないが付き添いが居る女さえこちらを凝視していた。
おいおい、ちゃんとリードを握っておけと心の中で警告。
この日の為に練っておいた計画に抜かりはない。
先ずはリーシャを婚約者という事にして先手を打つ。
悪い虫が付かないように。
それから医師だと告げて、颯爽と去って楽しいディナーかカフェに寄る。
完璧なシナリオだ。
ニヤッと笑ってリーシャの傍に行けば何故居るのだと目で問われた。
耳元でぽそりと合わせるように言う。
彼女は意味が分からないという顔をしているが、ローに隙等ありはしない。
どうやら彼女の近くに居た男は隣に居る女の旦那らしい。
如何にも人の良さそうな顔をしている。
挨拶と共に婚約者だという事を話すと周りはざわめく。
まだ終わりではない、これからが本番だ。
いざ医者だと明かすと思っていた通りの反応が得られて上機嫌になっていた。
しかし、どうやら目の前に居る男も医者、つまり同業者らしい。
シナリオの中に無い事態に舌打ち。
これじゃあ名前を言わないといけない雰囲気になる。
思っていると、やはり聞いてきた空気の読めない優男。
口が悪くなるのはリーシャの前で綺麗に締め括る事が出来なかったせいである。
何度も舌打ちを打つと横に居る彼女が苦笑するのが見えて、更に機嫌は下に落ちていく。
笑顔を浮かべるのも辛いのに、この男、消してやりたい。
心にどす黒いものが溢れ出し始めた時、男の優越感に満ちた顔を見て頭が冷えていく。
病院の名前等あくまで名前だ。
その中で何を学ぶか、大切なのはそれだけだとローは思う。
ドンキホーテ国際病院だと最終兵器の言葉を言うと男の顔がみるみるうちに青白くなっていくのが分かった。
ローの若さで勤めているのが信じられないのだろう。
男はローより年上だが、ローの実力を見込んで頼み事をしてきた。
激しく面倒で御免被る。
肩が凝りそうになる程辟易していたが、男の目は真剣であの病院の研修を受けられるかもしれないな、と他人事に思いつつそれを了承した。
ローとて別に幹部でも発言力のある方ではなく新人の部類なので出来る事はとても限られる。
それを言っても男はそれで十分だと、目に涙を溜めて小さく泣き出した。
止めろ、お前が主役じゃないんだぞ。
リーシャに一泡吹かせてやりたかったのに、思わぬハプニングでパーだ。
リーシャに虫を付けない為の派手な工作も小細工も色々、兎に角霞むのを感じた。

(研修落ちろ)

あの病院の研修は他の病院とは違い厳選されて厳選されて絞られる。
そして、トラウマを味わうだろう。
精々医者を辞める事にならないと良いな、と慰めではない言葉を送った。
大の大人を喜ばせるなんて自分は何をしに来たのだと我を失いそうになるが、彼女を連れて出る事が出来て満足だ。
けれど、彼女はきっと聞きたがっている筈、ローの勤務する謎の病院の事を。
話すのも長くなるし楽しい訳でもないので気が進まない。
車へと誘導して乗ってもらうと会場の駐車場を後にした。

「何から話すか……」

「それさ、私思ったんだけど」

「あ?」

リーシャがローに待ったを掛けてきた。

「別にいい、話さなくて」

「……気になるんだろ?」

先程まで知りたそうに見ていた筈。
なのに、何故断るのか。

「じゃあ、ローさ。その働いてる病院で何人の患者を診てる?」

「何だその質問は」

いきなりの問いに困惑するが、急かす相手に何となくの数字を考える。
患者なんて毎日際限無く来るので一々覚えて等いないし、数えてもいない。
大体の平均はと頭に浮かぶので言う。

「ローは医者で、患者を診てる。病院で働いてる。私にはそれだけで十分」

リーシャの言葉に暫し声が出せなくなる。
何というか目から鱗だった。

「私は医者じゃなくて患者側だから……病院は治療してもらう所だし。えっと、それにね……私の仕事はマジシャンのアシスタントだけどマジックのタネとか準備内容とかローに言わないし話さないでしょ?それはローがマジックを見に来るお客になるかもしれない。その時にタネとか話すのって……困るし……知らない方が良い時も……言っててなんか訳分かんなくなっちゃった……うーん」

ローは唖然とした。
自分も同じ様に知らない方が良いと、彼女の為を思って言わなかった理由を語ってくれたからだ。
やはり、リーシャを好きになって良かった。

「いや、凄ェ伝わった。気が楽になった……やっぱりお前は最高だ」

「え、いきなり何言ってんの……もう」

照れて赤くなった顔が可愛すぎる。
やはりディナーは無しだ。
こんな顔を周りに見せたくない。
ローは家の方向へ車を移動させ、己の中にある独占欲に彼女が気付かない様子を見て密かに口元を上げた。


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