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ファンファーレだって鳴らそうか
ローのスマートな挨拶に皆揃って呆けているようだ。

「婚約者のトラファルガー・ローです」

お巡りさん、此処に詐欺師が居ます。
しかも婚約者って何だろう。
合わせろと言っていたが、もしかししなくてもそういう意味なのか。
婚約者という関係にしろと、言われているのかと少し混乱。
前にセールスを追い払った時とは比べ物にならない規模なのだが。

「婚約者……!?」

ざわつくのも当然だ。
結婚より前なのに驚かれるのは何故だろうと思う。
シリカの時は皆自然と納得していたのに。

「っ、ト、トラファルガーさん……お仕事は……?」

お仕事一直線に聞いてくるなんて。

「外科医をしています」

ローの医者発言に更にざわめきが強くなる。
下手をするとシリカの夫の時よりも反響があるかもしれない。

「私と同じですね。失礼ですが、病院の名前を伺っても?」

「チッ、寄りにも寄って同業者かよ」

隣のリーシャにしか聞こえない声で呟くローにどうして不機嫌になるのだろうと疑問に思う。

「大して存じていらっしゃるか……そこそこの病院ですよ」

言葉を濁したからか、シリカの夫は目に対抗心の炎を宿していたのだが、薄らいだ。
さっきは謙遜していたのに。
同じ同業者だと知るや態度を変えるなんて。
シリカの旦那は勝ち気の目をして、自慢気に言う。 

「そうですか。私は××××病院の医師何ですよ」

相手が最後まで言うとローはにこやかに笑って「そうですか」とだけ答えた。
シリカの夫はその反応に不満そうだ。
ローはとても余裕が有りそうに見える。
何を考えているんだろうと一生懸命考えるけれど彼の頭の中は流石に理解出来ない。

「…………チッ」

ローの不機嫌度が上がっていく。
もしかして悔しいのだろうか。
それとも相手の自慢が鬱陶しいのだろうか。

「不肖の身ながらドンキホーテ国際病院で医師をしています」

「…………!?」

ローが病院の名前を言うとシリカの旦那は耳を疑うといった表情をする。
まさか……と呟かれる声。

「あの国際病院……ですか?」

「ええ」

ローが肯定すると相手はフラッとよろめいた気がした。
シリカは「あなた?」と怪訝そうに見ている。
リーシャもローの言う病院や旦那がここまで衝撃を受ける理由がさっぱり分からない。

「そ、そんな筈……あの、つかぬ事をお聞きしますが、お幾つで」

震える声で訊ねる相手にローは二六だと言う。
その年齢にまたショックを受けた様子の男に話しに付いていけなくて止め時も分からない。
リーシャを置いて色々話さないで欲しい。
こっちも混乱してきたではないか。

「わ、若くして……あの病院に……っ」

顔が青白くなった彼に流石にローを止めようかと思い始めた。

「その、初対面なのに申し訳ないのですが……あなたの様な方に会えて光栄です。恥を忍んで頼みたい事があるのですが……」

「出来る範囲なら」

「あなた?……どうしたの」

と言いつつ面倒だ、という空気も発するローに嫌なら断ればいいのに、と思う。
わざわざ赤の他人の面倒を見るような人ではないと知っているし、リーシャだって理解しているので断っても気にしない。
所詮は顔見知りの旦那である。
シリカも話しに付いていけていないようだ。

「ドンキホーテ病院に研修をしに行きたいのです……」

「…………あまりオススメしません」

「分かっています。医学を学ぶ人間として、一度は踏み入れたい場所です」

「一歩間違えると医者としての…………いえ、分かりました。研修が出来るという保証は出来かねますが……出来る所まで取り付けてみます。私も新人なので過度な期待は」

「分かってます!ありがとうございます!それだけでも、嬉しいですっ」

唐突に涙を浮かべるシリカの旦那に周りは凄く困惑する。
ローは終わったとばかりにリーシャの手を掴む。

「帰ろう。何かやり残した事はあるか?」

「え、あ……ない、けど」

凄く気になる事が目の前にある。
一体ローは何をしに来たのだ。
何を言って大の大人を泣かせる事態になったのか。
疑問だらけである。
シリカの旦那とシリカ本人に注目が集まっているうちにとローは会場を足早に去った。
残念そうな女性達の視線も引っ付いていたが、会場を出て駐車場へ着くとそれもさっぱり無くなる。
やっと色々考えられる余裕が出来た。
コツコツと二人分の足音がこだまする。
辺りにも人気はなく、二人切りだ。
何となく話さないままローは不意に立ち止まってリーシャを抱き締めた。

「悪ィ。こんなつもりじゃなかった」

「え、私、別に怒ってないけど」

ローが何をしたのかも分からないのに怒れる訳がない。
困惑して返事をすると抱擁を弛めた彼は頬をスルッと撫でる。
とても切なくなる表情をしていて、よく分からない感情にムズムズした。

「そうだったな。意味分かんねェよな……取り敢えず車に乗ってからにするか」

ローは一人納得して、いそいそと車のキーを取り出してドアを開ける。
乗り込むとエンジンをかけて駐車場から出た。


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