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仕留めたなら勝利の歌を歌え
ウダウダと話しを聞き流していると一時間経ってしまった。

「ミズカワとユサがね」

「それ、懐かしい。あの時大変だった−−」

全く知らない話しばかりになってきた。

「そういえばシリカはどうなの?高校時代彼氏いたでしょ?」

シリカという女性はリーシャを此処まで連れてきた有り難迷惑な人だ。
つい毒舌になるのは暇過ぎるからだと言い訳させてくれ。
シリカはそれに困ったように笑うと高校卒業と同時に別れた、と告げる。
そんな言い難(にく)い言葉にも彼女達は「ふーん」と勿体ない、と言いたげに答えた。
聞いた癖にフォローすらしないとは。
一人だけ晒し者にされたようなものだ。
可哀想だな、と他人事の様に思っているとそろそろトイレに行きたくなって場を後にする。
ソッと外へ出たらこっそり聞き耳を立てた。

「ねえ、あの人誰か知ってる?ていうかシリカの知り合い?」

あの人というのは多分リーシャだろう。
やはり知らずに話しかけていたのかと少し気を緩める。

「ううん。多分話した事ない人」

「苗字も思い出せない、顔見ても分からない……本当に誰?」

「さあ?」

好き勝手に予想してくれる。
こっちだって、そっちの事を知らないのだからお互い様だが。

「でも、殆ど話さないし……」

「あ、ねえシリカ。その指のリング、もしかして……」

「うん。結婚したの」

リーシャが居なくてもやはり場は盛り上がる。
さっさとトイレを探してしまおうと歩いて済ませて会場へ再度戻ってきた。
戻ってきたら、シリカと呼ばれていた女性の隣に男性が立っている事に気が付く。
なんだろうと歩みを止めるとシリカから見えてしまい、気付かれる。

「あ、えっと」

まだ名乗っていなかった。

「はい、何でしょう」

何か言いたそうだ。

「初めまして、シリカの夫です。家内がお世話になっています」

「初めまして」

別に親しくはないが。
お世話もしていなければ、なってもいない。

「凄いんですよ、シリカの旦那さん。医者なんだって」

さっきはリーシャの事を散々身元不明な子みたいに言っていたのに、親しく話しかけてくる。
内心テンションはがた落ちだ。
それに、ローも医者だ。
確か、外科医だ、多分。
凄いのかは分からないから詳しく説明出来ないけれど、ローだって格好いいのだ。
出所不明の張り合いを心の中で呟く。
周りは既にシリカの夫の医者、玉の輿の話しで持ち切りだ。

(医者ってそんなに……騒ぐもん?)

どっちかと言えば石油王と言われた方が驚愕だ。
そんな奇跡の回答を持つ同級生は絶対に居ないだろうが。
でも、やはり安定した職の相手は誰だって求めたくなるのだろう。
公務員然り。
優しそうな雰囲気の旦那の横に並ぶシリカは嬉しそうに笑っていた。

「まだまだ新人なんで……これからが頑張り時ですよ」

彼が何か言う度にワーッとなる。
成る程、同窓会とは己の手の内を見せ合う場でもあるのかと一つ勉強になった。
心の中で観察とは大事なのだな、と考えていると、会場の入り口が俄(にわ)かに騒がしくなるのが聞こえる。
何かあったのだろうか。

(もしかしたら過去に三角関係だった事がバレて今修羅場になる。あの同窓会名物かな)

それはとても楽しそうだ。
つまらない同窓会が思わぬベタな展開に変わるのなら歓迎である。
暇だから暴走しているだけだ、見て見ぬフリをしてくれ。
わくわくし出した心を込めて向こうを見ているとやってきたのは。
耳に目立つ二つのピアスを付けていない。
いつ消えるのかと毎日思っている隈。
ちょっと鋭い(彼女贔屓)目つき。

「何で?」

何で居るんだと言葉にする前に彼が周りの視線を独り占めしながらやってくる。
夜勤だから家でのんびり寛いでいるのだとばかり思っていた。
一時間程前に別れたローが閉会時間でもないのに来ている。
疑問ばかりが先走る中、ローは遅くなった、とまるで約束していたような口振りで笑顔を浮かべた。
首を傾げると彼はコソッと耳打ち。

「上手く合わせろよ」

得意げに、悪戯に、顔を歪ませる。
何かを起こすつもりだと予感がした。
詐欺作戦で大胆にリーシャを口説き落とした男だ。
確証がある。

「何するつもり?」

小さな声で返すと楽しそうに笑って答えないロー。
それに不安になる。

「初めまして」

いつかのパーティー、ローと初めて会った時と同じ、猫かぶりの男が爽やかに笑う。
別人だ、詐欺だ。
それくらい落差が激しい。

「……は、初めまして……」

誰かが答えた。


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