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- ナノ -

01
詐欺師に金を盗まれた、と泣きついてきた友人が夜中にやってきたのは想定外だった。
数日前はとても上機嫌で「良い株を紹介されたんだぜ」と自慢までしていたのに、この落差はなんだ。
大体、知り合いの人に紹介されたからこそ信用して買うのだと聞いたのだが。
泣いている男にティッシュを渡すと彼は鼻をチーン!と煩く咬む。
今は夜中なんだからもう少し気を使えよ、と思ったが騙された傷心の人間には効果はないだろう。

(なんで私、こいつの友達なんだろ)

友達辞めても罰は当たらない、と素早く判断した。

「サインとか肩代わりとかしないから、もう二度と家の敷居跨がないでねバイバイ。あんたはまあ、良い奴だった……かもね」

「何も言ってねーうちから何言い出してんのお前!?敷居とか酷い!良い奴だったで終われよ、最後が蛇足だよ!」

「金の切れ目が縁の切れ目」

ぶわり、とまた大泣きし始める男を慰めるのもしんどくなってきた。
そろそろお引き取り願おうとティッシュを手に持たせる。

「おい、おま!それでも人間かー!?」

「私これでも霊長類だから一概には何とも言えない。じゃあね」

グイグイと押し出そうとしていると待て待て、と言ってくる。

「お前詐欺師なんだろ?」

「誰が詐欺師だ。私はマジシャンだっつの!人聞き悪いわっ」

確かに詐欺師みたいに狡猾な事をやっているけど、こっちはちゃんと仕事として正当な事をやっている。

「頼むよーっ、騙し取った男の居場所なら分かってっから!」

「じゃあお前行けよ」

「全く身に覚えがねェって言われて門前払いされたんだよおおお」

ワンワンと子供みたいに泣くシャチに溜め息が出る。
その詐欺師は結構な手練れらしく、未だ場所を変えておらず同じ場所に留まっているらしい。
馬鹿なのか、狡猾なのか。
仕方ない、人肌脱いであげるとしましょう。




やってきたのはとあるパーティー会場。
何故だ。

(何故私がこんなとこに来なくちゃいけないんだ……)

解せない気持ちで先日シャチが言っていた事を思い出す。

『その詐欺師は医者なんだ』

『医者や関係者が集まるパーティーが近々催(もよお)されるらしいから、潜入しやすいし接近しやすい!』

『写真渡しとくからなっ』

家で相手の顔を擦り切れるまで見つめて覚えた顔の男は正直凄く顔が整っていた。
更に医者なんて、さぞモテるだろう。
でも、医者は収入が普通の仕事よりも高い筈なのに、詐欺なんて真似を何故したのだろうと思う。
事前にシャチから聞いていた男の病院を聞いて名前も調べてみれば、病院の中でも地位の高い立場にいるし、腕も良い。
病院も大きな場所で、経営難に陥っているなんて裏事情があるとも思えなかった。


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